オカモトショウ、宗教ビジネスを描く漫画『るなしい』に感じた人間の業 「リアルなんだけど、一線を越えた先も描いている」

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2025年04月04日 13:00  リアルサウンド

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OKAMOTO'S・オカモトショウ

 ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。今回は、宗教ビジネスをテーマにした異色の作品『るなしい』(意志強ナツ子)を取り上げます!


参考:【写真】小川哲が語る、宗教と陰謀論と小説 「人間が生きていく上で、必要不可欠なものなのではないか」


◼︎『住みにごり』や『血の轍』に近い“ドロッとした秀作"のライン


――今回ショウさんが選んだのおすすめマンガは、『るなしい』。宗教ビジネスを題材にした作品ですね。


 マンガ雑誌ではなくて、「小説現代」で連載されているんですよ。人に勧められて知ったんですけど、単行本の表紙とタイトルで「ちょっと怖いな」と思ってました。読み始めたのは3巻が出てからなんですけど、めっちゃ面白くてハマりました。新興宗教ビジネスがテーマなんですけど、表面的な刺激だけが強いマンガではなく、ちゃんと芯があって。ダークさとポップさのバランスもいいし、読んでいくうちに自分事として感じられるリアルさがあるんですよね。ジャンルは違いますけど、自分のなかでは『住みにごり』(たかたけし)、『血の轍』(押見修造)のような“ドロッとした秀作”のラインにあるマンガです。


――主人公は「火神の子」として宗教ビジネスに励む女性“るな”。物語は高校時代から始まりますが、生理のときの血を混ぜたモグサを売っていたり、気味悪がられてイジめられています。


 火神の生贄として生きてるんですよね、るなは。セックスも恋も禁止されて、そのあたりのアイドルよりもストイックな生活を強いられて。表向きは鍼灸院なんだけど、じつは宗教で、信者さんに施術したり、預言を与えるという意味ではキリストに近い役割なのかなと。同級生の石川スバルとケンショーという男子ふたりも主人公並みに重要なんですよ。


――るなはケンショーに恋をしてしまい、そのことをきっかけに信者ビジネスの客に引き込もうとする。さらに、るな、ケンショー、スバルが、学生相手のビジネスをはじめて「誰がいちばん儲けるか」という競争をはじめるというのが前半のストーリーです。


 ケンショーは女生徒の相談に乗ってお金を集めるんですが、(ケンショーと話したい生徒同士の競争心を煽って)その値段が上がっていくんですよね。ライトなホストみたいなものですけど、「そういうこともありそうだな」というリアリティがあって。るなの宗教ビジネスもそうですけど、人ってやっぱり弱いところがあるから、何か信じられるものがないとつらいわけじゃないですか。“信じられるもの”を買える状態で提供して、そこに喜んでお金を払う人がいるというのは、頭では理解できますよね。その人が働いて得た対価で、日々をもうちょっと幸せに過ごせる何かを買うわけだから、めちゃくちゃリアルだと思う。「自分もそうなってもおかしくないな」と。


――スバルは「るなのことを小説にする」とるなに持ち掛け、彼女からお金を受け取ります。


 その小説をケンショーが読んでしまうシーンがあって。その小説には、詐欺とは言わないまでも、入信させるための方法が書かれているんですよ。ケンショーはダマされたと思ってもいいはずなんだけど、そうはならない。るなも「手の内を明かして“だまされた”と思われるようなものを提供していない」みたいなことを言うんですよね。だって、実際にその人のことを良くしてあげてるんだからって。るなはそこまで徹底的に考えて信者ビジネスをやって、必要とされるものを提供している。受け取る側も本気でそれを求めているですよね。そのあたりまでは「わかるかも」という感じなんですけど、『るなしい』がすごいのは、一線を越えた先というか「え、それはわかんない」ってゾクッとすることも描いているんです。るなの前で土下座して「何でもやります」という信者もそうだし、ケンショーがお金を受け取って話している女の子たちの行動がエスカレートしていったり。ケンショーが他の女の子とキスしているところを見た子が「今のって、お金は発生しているの?」って問い詰める場面があるんですけど、「そこに怒るんだ?」っていう。いつの間にか一線を越えてしまうのが、こういうビジネスの怖さなんだなと。


◼︎主人公・るなから見た"神様"は


――3巻からは10年経ち27-8歳になったるな、スバル、ケンショーが描かれます。新規顧客が取れなくて苦労している証券会社の女性が登場しますが、るなとのやり取りをきっかけに仕事が上手くいくようになる。もちろんグラデーションはありますが、証券ビジネスと信者ビジネスはどう違うんだろう?と考えてしまいました。


 根本は一緒かもしれないですね。るなは鍼灸師の資格を持っているし、身体の悪いところを治すことがビジネスの基本なわけで。ヘンな話、風邪をひいたときに、耳鼻科で薬をもらうのと一緒なんですよ。証券も商品説明を受けて「これだけ儲かる」ということを信じてお金を払うわけじゃないですか。資本主義のメジャーでやっているか、そこから外れているかの違いであって、仕組み自体はかなり似ている気がします。


 大人になったケンショーもすごくて、お年寄りを相手にしたビジネスをやってるんですよ。最初は話し相手なんだけど、「いい投資がある」ってお金を集めて。でもお年寄りはケンショーを信頼しきっているし、ケンショーは「歌うところが見たい」って言われてコンサートまで開くんですよ(笑)。「恥ずかしいよ」とか言ってるんだけど、おばあちゃんたちにキャーキャー言われて。あれはもう推し活ですよね。その人を応援したい、見たい、会いたいからお金を払うっていう。


――確かにアイドルの推し活と何が違うのか?と言われたら……。


 わかんないですよね。何が健全で何が不健全なのかも簡単に言えなくなってくるんですよ、『るなしい』を読んでると。人が生きていくには衣食住だけではダメで、何かしらの希望や夢が必要あんですよね。「これがあるから明るい未来を想像できる」というものがないと生きていけないから、人は何かに頼るのかもしれないなと。


――なるほど。るなの名言も『るなしい』の面白さだと思います。「私の印象じゃ神様って、もっとヤクザだけどね」とか。


 神様は優しいと思っている信者の人と話をした後の、スバルとのやり取りですよね。スバルが「温厚で平和的で、無条件で人間みんなの幸せを願ってるような、そんな存在?」と言うと、るなが「神様って、もっとヤクザだけどね」って答える。このセリフも「なるほどな」と思いました。たとえば神社で初詣にいくと、なんとなく「自分をいい方に向けてくれるといいな」ってお願いするけど、神様ってもっとエグくて。自然に近いわけじゃないですか、たぶん。


――恵みも与えてくれるけど、災害でもあるというか。『るなしい』はもうすぐ完結。じつは1巻の冒頭で収監されているるなが描かれているので、何かしらの理由で捕まるんだろうなと思いつつも、先の展開が楽しみです。


 まずは、るなとケンショーのマウントの取り合いがどうなるか、ですよね。るなは新興宗教の家に生まれて、ケンショーは貧困育ち。どちらもビジネスの才能はあるんだけど、食って食われてを繰り返す感じがウロボロスみたいだなと。あとはスバルがどうなるか。「僕は普通なんで」みたいな感じだし、いちばん読者の目線に近いキャラクターなんですけど、じつはいちばんエグイのはスバルなんじゃないかなと。高校の頃からるなを好きだし、何かやりそうな気がしてます。


――ケンショーが経済的に貧しい家で、スバルはそれなりに裕福という対比もポイントなのかも。


 そうですね。OKAMOTO'Sの「Cheep Hero」がイメージソングになっている映画『悪い夏』(生活保護の不正受給を巡って様々な欲望や愛情が交差するサスペンス映画)も、貧困が一つのテーマになっていて。すごく面白いので、こちらもぜひ観てください。


◼︎『るなしい』読みながら聞きたい音楽


『スーサイド』(1977年)/スーサイド
1970年ニューヨークで結成された2人組ロックバンド。映画「シビル・ウォー」で楽曲が使用されたことも話題に。
「70年代後半のニューヨーク・アンダーグランドを代表するバンドですね。俺は『るなしい』にこういうカッコ良さを感じています」


◼︎OKAMOTO’S最新情報


 OKAMOTO’Sは現在、約8年ぶりとなる47都道府県ツアー「OKAMOTO'S 15th Anniversary FORTY SEVEN LIVE TOUR -RETURNS-」を開催中。4月6日(日)大阪・なんばHatchでファイナルを迎える。


 そして、6月15日(日)にはスペシャルファイナルと題し、2016年以来3度目となる日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブ「OKAMOTO'S 15th Anniversary FORTY SEVEN LIVE TOUR -SPECIAL FINAL- at 日比谷野外大音楽堂」を開催することが決定。



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