写真 俳優の中川大志さん(26歳)が、柚木麻子による小説『早稲女、女、男』を原案に映画化した『早乙女カナコの場合は』に出演しました。橋本愛さん演じる主人公・早乙女カナコと出会う交際相手で、留年を繰り返しながら演劇サークルで脚本家を志す長津田啓士役を演じています。
中川さんは、2010年の伝記映画『半次郎』でスクリーンデビュー。以降、映画やドラマ、舞台と多方面で活躍中ですが、「オンオフがない状態が理想に近い」と言います。中川さんが目指す俳優の理想形とは。そして来たる30代、40代について想うことなどお話を聞きました。
◆今までにない役柄だった
――まず台本を受け取ったとき、どのような感想を抱きましたか?
中川大志(以下、中川):大学の“あるある”が盛りだくさんの原作ということで、いただいた脚本もクセのある登場人物たちによる独特でシュールな世界観、空気感のある作品だなと思いました。その真ん中に長津田啓士というアクの強いキャラクターがいて(笑)。自分自身でも今までにない役柄だったので、面白そうだなという印象でした。
――長津田は脚本家を目指していてなぜかモテるというキャラクターでした。演じてみていかがでしたか?
中川:長津田はとても面倒臭い男で、プライドも高く嫌味っぽい。口を開けば、うんちくばかり言っているような男なんです。でも、彼の弱い部分、もろい部分、臆病な部分、そこを軸にキャラクターを作っていきました。彼のクセの強い部分を強く出そうとするのではなく、ピュアな面が徐々にカナコとお客さんに垣間見えていくことでチャーミングな人間らしさを好きになってもらえたらと、そう思いながら演じていました。
◆観る人たちの生活と地続きであってほしい
――物語はフェミニズムがベースになっているので、男性側の葛藤もしっかり描かれている点がよかったと橋本愛さんがおっしゃっていました。
中川:映画ではもっと生々しく描くこともできただろうし、一本の映画としてどこを目指すかということは、僕自身も悩みながらやっていたところではあります。ファンタジーになってしまうと、観ている人たちには自分たちの話ではなくて、映画の中のスペシャルな出来事になってしまうんですよね。そうなるとこの作品は成立しないから、観ている人たちの生活と地続きであってほしいという想いはありました。
――主人公のカナコの10年間を描くので、中川さん演じる長津田も長い年月を重ねるわけですが、こういう場合何を大切に演じているのですか?
中川:台本上の情報はごく一部で、その先端しかお客さんは触れないので、そこだけしか作っていないと深みがなくなってしまうんです。台本の情報以上のことをどこまで知っておけるかはいつも考えています。数年前にショートフィルムを監督したことがあり、編集で仕方なくカットしたところもあったのですが、そのときも同じようなことを思いました。
――確かに必要な場面だけを撮っているわけではないですよね。
中川:撮影現場ではたくさん映像を撮っていて、カットしているから残っているシーンに意味があるんですよね。これってもったいないし、贅沢な話ではあるのですが、そこに意味があるんです。それは観ている方たちにも感じ取ってくれるものがあると信じたいです。
◆日々の努力は「性に合っている」
――20代後半を迎え、どう過ごしたいですか?
中川:いい作品、いい役柄に出会いたい。あとはそういう機会が来たときにいつでも最高のパフォーマンスができるように、いい状態を常にキープしていたいということ。どうしても現場に立っている時間だけがフォーカスされがちですが、そうじゃない時間も大事なんです。スポーツ選手もオフシーズンが大事だと思うのですが、打席に立ったときにいつも良いパフォーマンスをしていたいです。
――日々の努力だと思いますが、それは大変なことではないですか?
中川:たぶん性に合っているんです。僕は何でも練習や稽古が好き。趣味はゴルフなのですが、その練習も好きで地味なことが好きなんですよね。稽古も毎日大変ですし、今役で体を作っているのですが、トレーニングは地味で大変ですぐに結果が出ないけれど、自分の性格的には合っている。
自分の成長・変化を考えることも好きで、考えてよりよくして、もっとこうすればよくなるだろうという研究も好きなんです。だから。芝居のことも常日頃もっとよくなるように考えているので、少しずつですが日々アップデートされている感じはしています。
◆オン・オフを意識しないということ
――オンオフの切り替えがあまり要らない?
中川:そうかもしれませんね(笑)。オンオフがなるべくないほうが僕の目指している理想に近いと言いますか、それこそさっきの話ではないけれど、シームレスにしたいんです。そうじゃないとお芝居の「よーいスタート!」から「カット!」までの間がものすごく特別なことになってしまうので、他の時間でリラックスしたくないんですよね。オンオフという感じではいたくないんです。でも現場は特殊な空間なので、そういうことを意識しなくてもスイッチは入っていくと思うのですが(笑)。
――ファンクラブなども立ち上げられたかと思いますが、今のモチベーションはどこにあるのでしょうか?
中川:もちろんそれはお客さんですね。誰にも作品が観られない状態は嫌ですし(笑)、映画でも雑誌でもお客さんがいて初めて成り立つものなので一番のモチベーションはそこです。でも、もっと言うと自分はさっきお話したように練習や研究が好きなので、負荷が必要なんです。人間、自分ができることはもう頑張らないですが、やったことがないこと、できないことには、どうすれば上手くいくだろうとか考えますよね。こうして改めて言われてみると、それがモチベーションなのかなと思っています。
――そう考えると、この先の変化、進化、成長が楽しみですよね。
中川:そうですね。自分では想像つかないところではあります。もしかしたらもうやっていないかもしれないですし、やりたくてもやれないかもしれない。読めない仕事ではあるので将来は何とも言えないですが、5年後、10年後どうなっているかなと、楽しみにしながら日々過ごしているところもあります。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/吉開健太>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。