韓国・釜山港(資料写真) 「(国に)報告すれば運航停止になるのは必至」。船員経験が長い運航管理者らの助言を受け、JR九州子会社「JR九州高速船」(福岡市)の田中渉・前社長は、高速船「クイーンビートル」の運航継続を決めた。浸水隠しは約3カ月半に及び、点検記録簿への不記載や、浸水を知らせる「警報センサー」が反応しないよう、設置位置の変更まで行われていた。
船首への浸水が確認されたのは2024年2月12日。韓国・釜山港に寄港した際、船員が発見した。連絡を受けた船長は運航管理者と相談し、浸水量が約3リットルと少ないことから、経過観察とした上で運航を続けた。さらに翌13日には社長ら幹部4人で話し合い、九州運輸局と親会社のJR九州に報告せず運航を継続することを決定。「発航前点検記録簿」に浸水の記載はせず、別の記録簿を用意し、浸水量を記録することにした。
その後、浸水量はほぼ3リットル〜30リットルの範囲で続いたが、同5月27日になって736リットルに急増。運航管理者代行は翌日に、浸水を知らせる警報センサーが反応しないよう、設置場所を上方にずらすよう指示し、船底から1メートルの位置に移設された。こうした措置については、社長も把握していたという。
しかしその2日後、センサーが反応するほどの浸水が生じ、営業運航を断念。初めて浸水を把握したかのように運輸局に報告し、JR九州にも伝えた。船体には計10カ所のひび割れが見つかった。
その後、同8月の国交省の抜き打ち監査で、浸水隠しが発覚。JR九州の聞き取りに対し、田中前社長は、浸水隠しの1カ月前にあったという運航停止に伴う予約キャンセルへの対応を挙げ、「社員への負担発生を避けたいとの思いもあった」と弁解した。