写真 2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(39歳・以前は小林悠として活動)。
TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。アラフォーにして再スタートを切った「出戻り先」でのシングルライフの様子や心境をつづる連載です。
第29回となる本記事では、先日、北海道大学の大学院に入学したことを報告したアンヌさんが入学の理由や選考について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿)。
◆40歳になる年に大学院へ
4月から新しい生活が始まっている方も多いことでしょう。
私は北海道大学の大学院博士後期課程に所属することになりました。働きながら博士論文を書く生活が始まります。
今年でアラフォーからジャストフォーティーに移行する私。
このタイミングでなぜ大学院の博士後期課程に? テレビの仕事もあるでしょう? と、実は各方面からお問い合わせいただくことがありましたので、少しお話しさせていただきます。
私はもともと、お茶の水女子大学で博士前期課程、すなわち修士課程までは取得していました。その後、TBSにアナウンサーとして入局することになり、いわゆる学術界からは少し距離のある日々を送っていました。
◆専攻は「ジェンダー日本美術史」
ちなみに私が学んでいたのは、ジェンダー日本美術史。女性が日本の歴史上どのように視覚的に表現されてきたか? というのを美術や社会学の立場を取りながら分析する研究です。
日本画といった日本美術のいわゆる本流のものから、明治大正時代の新聞記事および日本映画など研究対象は多岐に渡ります。
TBSに入局した後も、そういったものへの愛情が薄れたことはありませんでした。例えば、古い日本映画などへの情熱はラジオでお話をしたり、雑誌に寄稿するなどして、昇華させていたわけですが。
すなわち私は昔からインプットとアウトプットを繰り返す行為が非常に好きなんですよね。トークも大好きですが、図書館に引きこもってひたすら調べる、文章を書くのも好き。いずれにしても、どちらもそれは「私らしい」行為なのです。
◆地元に戻り去来した想い「何者でもない=何者にでもなれる」
2024年に生まれ故郷である北海道に拠点を戻し、まったく新しい生活を1からスタートさせた私でしたが、
そのときに私の心に去来した想い。
非常に表現が難しいのですが、五里霧中で先々の方針がまったく決まっていないという不安定極まりない状況でありながらも、神様からまったく新しい、まっさらな人生をポンと与えてもらったかのような、そんな感覚になったのです。
何も決まっていない、そして自分は何者でもない=何者にでもなれる、何かを自分次第で選び取ることができる、ということではと。
細い細い一筋の光が、山脈のように重なる真っ黒い雲の間からほんのり見えているような感覚。
怖い。でも、たった一度の人生、やってやれないことは無いのでは、と。
そして、心の奥底に何か後悔が残るようなものがあるのだったら、それは絶対に今のうちにつぶしておこうと、そんなふうに思ったのです。
そのとき私の胸に迫ってきたのは、祖父が長年「奉行」させていただいていた北海道大学の存在です。
◆祖父に連れられ北大の植物園で遊んだことも
祖父は小林禎作という気象学者でした。実は北海道に帰ってきて、気象を身近な立場に置かれる酪農、畜産や漁業関係者の方々から、「小林禎作先生のお孫さんだったのですね」などと声をかけられることが多々あり、それにとても心を揺さぶられました。
私はおばあちゃん子でしたが、祖母は非常に祖父のことを尊敬していました。年齢の割に早く他界した祖父の存在はずっと我が家にとり特別なもの。そして北大という存在は、祖父の存在を強く思い出させてくれる心の故郷のようなものだったのです。
幼い頃、北大の植物園で遊んだこともたくさんありました。しかし私は東京の女子大に通うこととなり、もう北大とのご縁は私の人生には無いのかもしれないなんて思うことがあり、それは自分の中で正直少し寂しいものだったのも確か。
北海道でまったく新しい人生を歩み始めたときに、私の胸によぎったのは、実家に帰ってきて新たにした、「家族」への想い。
そしてもう一回、大好きな学問の世界の扉を叩き直そう、博士課程に挑戦するのもありなのかもしれない、と。そういったことだったのです。
◆受験勉強は“最初で最後のチャンス”と思って臨んだ
そのビビッときた直感から数か月。正直、もうあんな努力はできないというほどの受験勉強と準備を私なりにしたのは確かです。もうあれだけの集中力は、しばらくは自分の中には湧き出てこないだろうと今では思っています
まさしく背水の陣。今回の受験が失敗したら、物理的にはもう一回受けることはできるでしょうが、いろいろな面で再受験は無理だろうと感じていました。
たった1回の、最初で最後のチャンスと思って臨み、そして合格通知をいただいた、という大学院受験でした。
正直博士課程は、たとえば結婚生活と同じような厳しさがあると言えるでしょう。最初は情熱があるけれど、その後に待ち受けるのは現実しかないわけです。
立ちはだかる数々の壁を乗り越えながら、うまく心に折り合いをつけて、ひたすら自分で研究していく意思の強さが求められます。
今の私は博士課程で研究ができる片道切符を手に入れたに過ぎないのです。
浮かれるな、これからだろうというのが本音のところ。
まだドキドキの新生活が始まったばかり。さて、どんな2025年度になるのか。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道生まれ。お茶の水女子大学大学院修了。2010年、TBSに入社。情報番組『朝ズバッ!』、『報道特集』、『たまむすび』などを担当。2016年退社後、現在は故郷札幌を拠点に、MC、コメンテーター、モデルとして活動中。文筆業にも力を入れている。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne