※写真はイメージです 多くの企業が新入社員を迎え入れる春。新卒はもちろん、転職してきた人たちで職場の空気は一変する。とはいえ、せっかく就職したにもかかわらず、すぐに退職してしまう人もいる。業務内容や職場環境が合わなかったなど、人によって理由はさまざまである。
医療現場で働く理学療法士の田中健さん(仮名・30代後半)は、これまでに新人の早期離職を何度も見てきたという。そのなかでも特に印象に残っている2つのケースを教えてくれた。
◆劣等感を感じて涙「なんで自分だけできないんだろう」
総合病院に新卒で入り、回復期病棟に配属された理学療法士のKさん(仮名・23歳・男性)は、大学時代はスポーツをやっていたという爽やかな好青年だった。しかし、わずか3日目の午後、思わぬ出来事が起こる。
「歩行練習を指導中にふと振り返ると、彼がベッドサイドで泣いていたんです」
田中さんが声をかけると、しばらく無言だったKさんはやがてポツリと漏らした。
「なんで自分だけできないんだろうって……」
彼は同期たちが業務をスムーズにこなしているのを見て、焦りと劣等感に押しつぶされていたのだ。教育担当の先輩は決して厳しいわけではなく、むしろ温かく接していたという。それでもKさんにとっては、患者対応や上司への報告などにプレッシャーを感じていたのだろう。
◆わずか5日目で退職を申し出て…
その日の夕方、上司と田中さん、Kさんで面談を実施。彼は意外な本音を吐露した。
「ずっと人と関わるのが苦手だったけど、リハビリなら専門技術なのでなんとかできると思っていました」
だが、現場では人との関わりこそが中心なのである。知識や技術だけではどうにもならない。現実とのギャップに直面し、Kさんは5日目に退職を申し出た。
「今はまだ、患者さんと向き合う自信がないです」
そんなKさんの姿に、田中さんは複雑な思いを抱いたという。
◆「自分には向いていない」オリエン後に姿を消した新人看護師
もうひとつのエピソードは、数年前の春だ。病院には看護学校が隣接しており、そこから推薦された看護師のYさん(仮名・22歳・女性)が入職してきた。
配属は、長期で治療が必要な患者が入院している慢性期病棟。Yさんも面接時には「慢性期の患者さんとゆっくり関わりたいです」と語っていた。
彼女の希望通りに配属されたはずだが……。
初日の朝、全体のオリエンテーションに参加していたYさんは笑顔で元気そうだった。しかし、昼食後の集合時間になっても姿が見えない。携帯電話にも出ず、人事担当者も困惑していた。そして翌朝、病院に一通の封書が届いた。そこには一言、
「自分には向いていないと感じました。お世話になりました」。
たった1日で、Yさんは姿を消してしまったのだ。周囲は驚きを隠せなかった。
◆「心の準備が整わないまま社会に出ること」のリスク
後日、看護学校に連絡を取ると、実は在学中にも「臨地実習のたびに体調を崩していた」という事実が明らかになった。社会に出るプレッシャーや、働き始めるという現実に、彼女は耐えきれなかったのだろう。
「事前の面接ではわからなかった繊細さや不安の影。採用側としても、より踏み込んだメンタルヘルスチェックや個別の適性評価が必要だと痛感しました」
すぐに辞めてしまう理由は一様ではない。しかし、これらの経験を通じて田中さんは、「心の準備が整わないまま社会に出ること」のリスクを強く感じたという。
学校を卒業し、いざ社会に出てから感じるギャップをどのように埋めていくのか。現場に残された課題といえよう。
<取材・文/日刊SPA!取材班>