
【写真】思わずほっこり 撮影中も仲良しな杉咲花×広瀬すず×清原果耶
■撮影前のご飯会では「手が震えていた」
――広瀬さんと杉咲さんは『学校のカイダン』(日本テレビ系/2015)が初共演と伺いました。今回は約10年ぶりの再共演ですね。
広瀬すず(以下、広瀬):10年経っちゃったね。
杉咲花(以下、杉咲):そうだね。『学校のカイダン』を撮っていた10代の頃は本当にたくさんのオーディションですずちゃんと遭遇していて、役を勝ち取っていく姿に焦りや悔しさを感じていた時期もありました。『片思い世界』で再会した時にそんな話もできて、“当時の自分にはこんな日がやってくることを想像できただろうか”と感慨深かったです。お互いにさまざまな経験をしてきた先にこうした再会が訪れたことへの喜びがありますね。
広瀬:私も同じ気持ちです。花ちゃんは同世代でも特別に思っている人だからこそ、とてもうれしい機会でした。『学校のカイダン』の時はみんなと色々なことを共有しながらお芝居する余裕は私にはなく、ここまでがっつりと作品に関わることもほとんど経験がなかったため、いっぱいいっぱいでした(※『学校のカイダン』は広瀬の連続ドラマ初主演作)。今回はあの時とはまた違った環境で、この10年間で経験してきたこと、出会ってきたもの、変化してきた感性を共有しながら3人という狭い世界で寄り添い――というよりも私の感覚としては2人に寄りかかりながらいられる空間でした。
――清原さんは広瀬さんと『ちはやふる -結び-』(2018)などで共演されていますね。同作ではライバルを演じました。
清原果耶(以下、清原):『ちはやふる -結び-』の後に『なつぞら』(NHK総合/2019)ですずちゃんの妹役をやらせていただき、今回が3度目の共演になります。いつも現場でご一緒するたびに、勝手に頼りにさせていただいています。先ほどすずちゃんは「寄りかかる」と話していましたが、私は役としても自分自身としても「助けて下さい! よろしくお願いします!」と寄りかかる気持ちで毎日現場に行っていました。すずちゃんの持っている溌溂(はつらつ)としながらも煮えたぎったパワーを毎日現場で浴びることができて、とても楽しかったです。
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杉咲:私も。そう思ってもらえていたことがうれしい。
清原:花ちゃんには伝えましたが、私は『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)が大好きで映画館で何回も見ていたのでお会いできるのもうれしかったし、ましてや連絡先をいただけるなんて思ってもみませんでした。それくらい大きな思いやりと優しさを持った方なので、現場ではすずちゃんのパワーと花ちゃんの柔らかさに包まれながらのびのびと役として生きられました。
――劇中で演じられた役どころは12年間支え合ってきた関係性ですが、御三方それぞれにここに至るまでのドラマがあったのですね。となると、距離感などに関しては取り立てて事前準備の必要はなかったのでしょうか。
杉咲:最初はすごくソワソワしましたね。この10年、すずちゃんとお会いする機会はちょくちょくありましたが、しっかりお話できる時間はなかったり、果耶ちゃんともほぼ初対面に近いような状況だったので。初めて3人で集まった時、本当に緊張して手が震えていました。
清原:私もです。撮影前に3人一緒に中華料理を食べに行ったのですが、箸を持つ手が震えていました(笑)。
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広瀬:私は緊張はしませんでしたが、最初は「何を話せばいいんだろう」とドキドキ感がありました。「次の作品で一緒だね」という表面的な話はもちろんできますが、ふたを開けてみると人との距離の縮め方が似ている3人だったため「誰が行く?」状態になって(笑)。もちろん、似ているから心を開いたらすごく安心できるという信頼度があったからこそです。
ご飯会で感じたのは、花ちゃんが10代の頃に抱いていたイメージとはいい意味で全く違っていたことです。『学校のカイダン』の時はいじめられっ子/いじめっ子という役柄の関係もあったためお互いの距離感も今とは違いましたし、じっくりお話しできたことで「こんなに素直な人なんだ」と改めて思えました。そして清原ちゃんが末っ子ポジションを取ってくれたことで、気合いを入れて話さずにぬるっと会話に入れて、何でもしゃべることができました。これから始まる『片思い世界』の撮影が、このトライアングルにとって楽しくて居心地のいい空間になればいいな、と思えました。
杉咲:果耶ちゃんが勇気を出して声をかけてくれたことが本当にうれしかったんですよね。
清原:いえいえ、会いたかっただけです(照)。
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――そんな素敵なエピソードがあったのですね。ちなみに、最初に撮影したのはどのシーンなのでしょう。
■広瀬&清原は二度目の坂元裕二作品
杉咲:すずちゃんと果耶ちゃんは、横浜流星さんと一緒のバスのシーンが初日だったよね。私は1日遅れで現場に入ったため、少し出遅れた感覚があって心細かったのですが、3人のグループメッセージですずちゃんと果耶ちゃんが「インしたよ」と写真を送ってきてくれて、ほっとしたのを覚えてる。
――またまた優しいエピソードが…(笑)。広瀬さんは『anone』(日本テレビ系/2018)、清原さんは『花束みたいな恋をした』(2021)で坂元裕二さんの書かれるセリフを経験されてきましたが、今回その経験が生きた部分はございましたか?
広瀬:『anone』に関しては細かい記憶があんまりないくらい楽しすぎたため、今回明確に経験として生きていたのかどうか、自分でもよく分かっていません。『anone』では「お芝居だからこういう風にやろう」ということも本当になく、するすると自分の中に入ってくる言葉たちで、気づいたら終わってしまっていた感覚があります。もちろんセリフは面白いし、言いたくなるし、しゃべっていても楽しいし――というものはあるのですが、やはり「スッとなじんだ」というのが大きいように思います。『anone』では大先輩たちと一緒の現場でしたが、今回は同世代の人たちとやる坂元さんの会話劇だったため、また違う楽しみと面白さがありました。
清原:『花束みたいな恋をした』では大事なワンシーンに出てくるカップル役で参加させていただきました。本番前に本読み(出演者やスタッフが集まって行われる台本の読み合わせ)の時間を設けていただき、いかに自分のセリフ回しが絹ちゃん(有村架純)と麦くん(菅田将暉)に影響していくかをよく考えたことを覚えています。その時に得たバランス感覚が、3人でずっと一緒に住んでいて日常的なシーンが多い今回でも生きてくるんじゃないかと信じていました。また、『花束みたいな恋をした』のクランクアップ時に土井裕泰監督に「また絶対一緒にやりましょうね」と声をかけていただいたのですが、その際の思いがかなってまたご一緒できたため、その時自分が持っているすべてで挑もうと思っていました。
杉咲:私は坂元さんの作品を拝見してきて「自分も音にしてこんなセリフを話してみたい」という憧れがあったので、ついにこの時が来たとわくわくしました。実際に潜り込んでみると、坂元さんの紡がれる独特な言葉選びを体の中に落とし込んでいく時間は、今までと違う脳を使うような初めての経験でした。自分の辞書になかったような言葉や文法を発することや、優花という人物のユニークな視点を腹落ちさせていく時間、そして3人一緒のシーンでの軽快なテンポ感を掴んでいくことに緊張しました。
――本日は貴重なお話の数々、ありがとうございました。最後に、今現在皆さんが作品に入る前に行うようにしているルーティンや、お芝居をされるうえで必要なプロセスについて教えてください。
広瀬:私はこれといって決まっているものはないかなぁ…。
清原:お肉を食べるとか?
広瀬:いつも食べてるから…(笑)。でも、花ちゃんはよくお勉強をしているよね。撮休の前日にご飯を食べに行って「明日は何をするの?」と聞いたら「次の役の勉強」と話していたことを覚えています。現場でも、何かをまとめていたよね?
杉咲:取材でお答えする言葉を整理していました(笑)。
清原:花ちゃんが真面目にまとめている横で、すずちゃんがじーっとその様子を見ていて、私はそんな2人を見つめていました(笑)。ルーティンではないですが、私はいつもクランクインの前は緊張してあまり眠れず、「今回も緊張してるんだな、そりゃあそうだよな」と毎度思っています。どれだけ準備したとしてもやっぱり現場に行ってみないと分からないことが多いですし、想像通りにはいかないことばかりですから。
杉咲:そうだねぇ。
広瀬:でも緊張しないよりはいいよね、きっと。
清原:うんうん。緊張している時間も大事だなと思います。
広瀬:それに引き換え私は、びっくりするくらい大爆睡です(笑)。それでいうと、「本番前はなるべく早く寝る」くらいしか決めごとはないかもしれません。
杉咲:こうやって改めて話すと三者三様ですが、現場でもたたずまいや視点、リズム、大事なシーンに挑む際のアプローチなども、みんなそれぞれに異なるスタイルを持っていて面白かったです。すずちゃんはあまりにもニュートラルに本番に移っていくため、その動じなさや凛とした姿にすごいなぁと思いながらいつも見つめていました。果耶ちゃんは緊張していることをぽろっと共有してくれる場面もあったのですが、周りにはそれを絶対に感じさせないような力強さがあってかっこいいんです。私は露骨にあがってしまうタイプなので。
清原:いや、でも私も何回やっても慣れないし緊張がなくならない。
広瀬:そのままでいいと思うけどね。
清原:「かむ、かむ」と思ったら本当にかんじゃって…。
広瀬:素直か(笑)。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
映画『片思い世界』は全国公開中。