2025年F1第4戦バーレーンGP ジョージ・ラッセル(メルセデス) 2025年F1第4戦バーレーンGPで行われた3回のフリー走行(FP)では、誰もまともなロングランができなかった。そのためタイヤ戦略に関しては、どのチームも100パーセントの確信を持てないまま決勝レースに臨んだと思われる。そんな疑心暗鬼が端的に現れたのが、レース終盤に導入されたセーフティカー(SC)中のタイヤ選択だった。
トップ5ではマクラーレンの2台がミディアムタイヤ(イエロー/C2)、フェラーリ勢はハードタイヤ(ホワイト/C1)と、オーソドックスな戦略でいくなか、2番手につけていたジョージ・ラッセル(メルセデス)はソフトタイヤ(レッド/C3)を履いた。
「あと24周をソフトで行くのか。大胆だなぁ」というピットアウト直後のラッセルの無線を聞く限り、ソフト装着は戦略担当の決断で、ラッセル自身はそれに懐疑的だったことがわかる。
興味深いのはその直後にランド・ノリス(マクラーレン)の担当エンジニアのウィル・ジョセフが「ラッセルはソフトタイヤを履かされてビビっているぞ」と伝えたのに対し、ノリスが「いや、ソフトタイヤは凄い。あっちが正解だ」と返していることだ。実際、その後のラッセルはノリスの猛追を凌ぎつつ、ソフトタイヤでチェッカーまで走り切った。
だがレース終盤のラッセルは、数々のトラブルに見舞われていた。まず45周目には担当エンジニアのマーカス・ダドリーから、DRSの問題を告げられた。ダドリーは「単にタイミングの問題だ」と、大したことはないことを強調していた。しかしレース後のヒーローインタビューでラッセルが語ったところでは「無線のボタンを押したらDRSが開いたりした。だから急いで閉じたよ」と、かなり深刻かつ信じられないトラブルだった(規定ゾーン外でDRSを使ったとして、審議対象となっている)。
続いて50周目あたりでダドリーは「ダッシュボードの表示が消えてしまう恐れがある。でもそのまま運転を続けてくれ」と、言ってきた。しかしドライバーは車体とパワーユニットに関する膨大な情報をダッシュボードで確認し、それを基に複雑極まりない操作をしながらマシンを走らせている。全表示が消えた状態で、「そのまま運転」することなど、不可能だ。
それでもラッセルは「ステアリングが外れない限り、大丈夫だよ」と、初日にフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)のステアリングが走行中に外れたトラブルを引き合いに、ユーモアたっぷりに返していた。
さらにレース中に具体的なやり取りはなかったが、BBW(ブレーキ・バイ・ワイヤ/リアブレーキを本来の制動力とエネルギー回生に配分する電子制御システム)もトラブルに見舞われたことをレース後明らかにしている。要はブレーキングの際、どれぐらい効いてくれるのかがわからないまま、ラッセルは周回を重ねていたということだ。
そんな状態でラッセルはDRS圏内で攻め立てるノリスを抑え、最後は0.774秒差で2位入賞を果たした。これで今季は開幕2戦での3位に続き、4戦中3回目の表彰台となった。
確かに今季のメルセデスは、現時点ではマクラーレンに次ぐ戦闘力を持つ。とはいえ、フェラーリとは僅差であり、最速マシンでなくても勝ってしまうマックス・フェルスタッペン(レッドブル)という化け物もいる。
それでも毎レースきっちり上位入賞の結果を出す抜群の安定感が、今季のラッセルにはある。マクラーレンのふたりにとって、実は最も脅威を感じる存在ではないだろうか。
[オートスポーツweb 2025年04月14日]