画像:安達祐実Instagramより 4月7日からスタートした新ドラマ『夫よ、死んでくれないか』(テレ東系、月曜よる11時6分〜)。本作は丸山正樹氏の同名小説を原作としている。これまで『私の夫は冷凍庫に眠っている』、『夫を社会的に抹殺する5つの方法』、『夫の家庭を壊すまで』など、様々な“夫モノ”を手掛けてきたテレ東ではあるが、ついには夫の死を願う作品を制作した。
タイトルが衝撃的すぎるため、どれだけハチャメチャな展開が繰り広げられるのかと思いきや、かなり地に足のついた現実的な内容だった。ある意味“タイトル詐欺”な本作の見どころをまとめたい。
◆三者三様に攻撃してくる、ポケモン“御三家”のような夫
本作は、大手デベロッパー勤務の甲本麻矢(安達祐実)、フリーライターの加賀美璃子(相武紗季)、専業主婦の榊友里香(磯山さやか)の3人が主人公。大学の同級生ということに加え、それぞれ難ありの夫がいることも共通している。
まず麻矢の夫はIT企業に勤務する光博(竹財輝之助)。麻矢への関心が薄く、不倫をしていることが発覚する。璃子の夫は外資系コンサルに勤務する弘毅(高橋光臣)。璃子のスマホのGPSを常にチェックして監視している。友里香の夫は電機メーカーに勤務する哲也(塚本高史)。日常的に友里香に暴言を吐いている。
不倫夫、束縛夫、モラハラ夫と三者三様。タイプも攻撃パターンも全く異なり、ゲーム『ポケットモンスター』シリーズの“御三家”のようだ。
◆6人それぞれの立場を、自分事として考えたくなる
本作も従来の“復讐モノ”のように、妻たちによって夫たちに天誅が下されて“スカッと”して終わるのかもしれない。ただ、そんな“テンプレート”が常に頭に浮かんでいたにもかかわらず、1話は最後まであっという間に視聴できた。その要因として、どこか“自分事”として考えたくなる丁寧な作りだったことが挙げられる。
「麻矢は光博に不倫をされた」と聞けば光博を100%の悪者と考えてしまう。しかし、光博が麻矢への関心が薄れた背景には、麻矢が自身のキャリアを大切にしたいために子作りを先延ばしにしたことがある。
とはいえ、麻矢の勤務先が妊娠や出産を経験した女性へのフォロー体制が十分ではないため、麻矢としてもやむを得ない選択をしたに過ぎない。もちろん、不倫は麻矢にとっての裏切りであるが、その背景には社会構造の歪みがある。
「不倫夫に鉄槌を!」と煽るような展開ではなく、女性が置かれている切実な環境を示しているのは面白い。まだ1話しか放送されていないため甲本夫婦の事情しか覗けていないが、加賀美夫婦や榊夫婦にも何かしら事情があるのかもしれない。束縛夫やモラハラ夫になってしまった背景も丁寧に描かれることに期待したくなる。
◆復讐モノなのに気が滅入らない“工夫”も随所に
クスッとするシーンが散りばめられていることも、同作に引きつけられた要因である。「口臭が気になる哲也から暴言を吐かれた後、リフレッシュのために焚いたお香を、映画『ショーシャンクの空に』のジャケット写真のように全身で受けようとする友里香」「外国人観光客のために写真を撮って『Enjoy japan!』と手を振って見送った後、GPSアプリを見て璃子が自宅にいることを確認して『自宅でEnjoy』と爽やかな笑みを浮かべる弘毅」など、ついつい笑えてしまう。
復讐モノは基本的に画面が暗く、ねっとりずっしりした展開が続くため、気が滅入ってしまい離脱するケースは珍しくない。笑える要素がところどころ用意されているため、終始どんよりすることなく視聴できた。
◆役者陣の安定感で、登場人物に感情移入できる
とはいえ、脚本や演出の巧みさはもちろんではあるが、作中の暗い雰囲気を壊さずに、しっかりと笑わせるキャスト陣の演技力があってこそだ。主演3人だけではなく、彼女たちの夫役の3人もキャリアは十分。安心感のある役者が揃っているからこそ、笑えるところはしっかり笑え、切実なところはしっかり登場人物に感情移入できたように思う。
猟奇的なタイトルに見せかけた繊細なストーリーの本作が、どう展開していくのか楽しみだ。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki