
Aさんは、相続税対策の一環で、5年前より毎年父親から100万円の生前贈与を受けていました。このほど父親がなくなり遺品整理をしていたところ、衝撃の事実を知ります。
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遺品整理中に見つかった一通の封筒には、父が抱えていた多額の借金の明細が記されていました。借金の総額は、Aさんの想像をはるかに超えるものでした。
父の会社経営の話は聞いていましたが、まさかこれほどの借金があるとは夢にも思っていませんでした。途方に暮れたAさんは、相続放棄を検討し始めます。ただ相続放棄をした場合、これまで受けてきた生前贈与はどうなるのか気になりました。
相続放棄をすれば借金から逃れられるかもしれません。しかし、それによって過去の贈与が無効になるのであれば、大切な父からの贈り物を失うことになります。生前贈与を受け取っていても、相続放棄はできるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
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ー生前贈与を受けていても相続放棄はできますか
生前贈与と相続放棄は法律上それぞれ独立した法律行為であり、生前贈与を受けたことが相続放棄の妨げにはなりません。家庭裁判所が相続放棄の申述を受理する条件は「自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3ヶ月以内に行う」「その相続人が、相続財産を処分するなど一定の態度をとっていない場合」とされていますが、そもそも生前贈与で受け取った財産は相続財産ではないため、相続放棄の判断には影響しません。
なお、遺産分割の場面では、生前贈与で受け取った財産が特別受益とされ、持ち戻しの免除もされていない場合には、具体的相続分を計算するうえで、「みなし相続財産」として相続財産に加算されることがあります。
また、相続税を計算する場面では、相続開始前3〜7年以内に行われた相続人に対する一定の財産の生前贈与は、相続税の課税対象財産となる場合があるため注意が必要です。
ー父親の借金を知っていたらどうなりますか
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債権者によって「詐害行為取消権」が行使されるかどうかが問題となる場合があります。詐害行為取消権は民法第424条に規定されており、債務者が債権者を害することを知って行った行為に対して、債権者が裁判所に取消しを求めることができる権利をいいます。
今回のケースではAさんは父親の借金を知りませんでしたが、もし借金の存在を知っていた場合も裁判所は、「相続の放棄のような身分行為については、詐害行為取消権の対象とはならない」と判示しています(最高裁判所判決昭和49年9月20日)。
ただしAさんと父親が、父親の債権者の利益を害すると知りながら生前贈与を実施した場合、債権者がこの生前贈与を詐害行為として取消し請求することにより、生前贈与が取消される可能性があります。
生前贈与を受けていても相続放棄はできるものの、税金や他の相続人との関係など、複雑な問題が絡む可能性もあります。イレギュラーな相続上の手続きを検討する際は、専門家に相談することをおすすめします。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
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(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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