
『NHKスペシャル』の実録ドラマ『シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜』前・後編が8月にNHK総合で放送される。
原案は、日本の敗戦を予測した組織「総力戦研究所」、若き俊英たちによる「模擬内閣」と当時の内閣との対決秘話を解き明かした猪瀬直樹のノンフィクション『昭和16年夏の敗戦』。
真珠湾攻撃の8か月前、1941年4月に国の指示のもと日本中のエリートたちが対米戦をあらゆる角度からシミュレートするためにつくられた「総力戦研究所」のメンバーとして秘密裏に集められるが、彼らが最終的に導き出した結末は「圧倒的な敗北」という結論だったというあらすじだ。
主人公・宇治田洋一研究員役に池松壮亮がキャスティング。石井裕也が初めて戦争ドラマの脚本・演出を手がける。
【宇治田洋一役どころ】
産業組合中央金庫(現・農林中金)の調査課長。東大法学部を首席で卒業したエリート。経済全般に明るいだけではなく、地方の農家など、中央からは見えにくい厳しい現実を肌で知っている。ある日突然「総力戦研究所」へ招集される。模擬内閣を作り、軍事・外交・経済などあらゆる角度から開戦予測を立てよと言われ、その議論をまとめる“内閣総理大臣役”を命ぜられる。そこには満州で亡くなった洋一の父の“過去”が絡んでいた。洋一たちが、陸軍大臣・東條英機らから求められたのはアメリカに“勝つためのシミュレーション”。しかし、日本を取り巻くデータや情勢が突きつけるのはどれも日本にとって不利な結果ばかりだった。軍部への複雑な感情から当初消極的だった洋一だが、シミュレーションが厳しい現実を示し始めると、「国を破滅に導く対米戦に踏み切るべきではない」という思いに駆られていく。
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なぜこれほどまでに平和は遠いのか。
平和だけでなく、なぜこれほどまでに良き未来への道のりは険しいのか。
2025年に今作を撮影する日々の中で、この問いが頭から離れません。
この国に生まれ、戦後80年という年に俳優として今作に出逢えたことは、大きな大きな使命と責任をもたらしてくれるものでした。
言論や精神や命までも戦争のために国家の統制下に置かれた時代に、研究員の彼らは感情論ではなく、精神論ではなく、事実に辿り着き、事実に畏怖し、結論を出しました。この世界に無数にある黙殺の歴史の物語となっています。
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どうかよろしくお願いいたします。
【石井裕也のコメント】
これまで作られてきた日本の戦争ドラマ・映画は、終戦間際に一般市民が不幸な目に遭う、いわゆる戦争被害者の視点に立つものが多かったと思います。私が知る限り、その大元となった「なぜこの国は無謀な日米開戦に踏み切ったか」にフォーカスしたものはほとんどありません。あまりにも事態が複雑でドラマ化が困難だったのも一因でしょうが、ここまで手出しできなかった理由は、正直に言ってしまえばほとんどタブーに近かったからだと思います。
開戦前夜の人間たちのさまざまな葛藤は、今の私たちにとって決して無関係ではありません。当時の日本社会に漂っていた不気味な「空気」は、確実に引き継がれて今の社会にも存在するからです。日本を代表するキャスト、スタッフと共に今この作品が作れたことの大きな意義を感じています。
【あらすじ】
昭和16年4月。平均年齢33才の、多くの若きトップエリートたちが緊急招集された。軍人・官僚・民間企業から選抜された彼らは、将来の日本のリーダーとなるべき人材を養成する目的で新設された総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」に参加することになったのだ。その目的は、軍事・外交・経済などの各種データを基に、日米が開戦した場合の戦局を正確に予測し、そのシミュレーション結果を近衛文麿首相、東條英機陸相をはじめとする《本物の内閣》の面々を前に報告することだった。
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侃々諤々の議論の末に《模擬内閣》の若き閣僚たちが導き出した最終結論は、「もしアメリカと戦えば、日本は必ず負ける」というあまりにも厳しい未来予測だった。エリートたちの理性は告げる。「この戦争は止めなければならない」と─。
シミュレーション結果を《本物の内閣》に報告する日が来た。《模擬内閣》の若者たちは、勇気を振り絞ってシミュレーションが導き出した“現実”を国の指導者たちに伝えようとする。果たして、東條英機らの反応は─。そしてその後、宇治田たちが目の当たりにする“残酷な結末”とは─。