カシオ計算機が手掛けるAIペットロボット「Moflin(モフリン)」(5万9400円)の売れ行きが好調だ。2024年11月に発売を開始し、初回分については想定を上回る早さで完売。2025年分についても、引き続き好調に推移しているという。
同社は電卓や時計などの精密機器を扱っているが、なぜペットロボット市場に参入しようと考えたのか。開発の背景や狙い、こだわりのポイントについて、開発担当の二村渉さん、企画担当の市川英里奈さん、事業責任者の河村義裕さん、事業推進者の竹内大介さんに話を聞いた。
●手のひらサイズの“もふもふ”ペットロボット
モフリンは、「こころの、となりに、いつも。」をコンセプトに、飼い主と認識した人と触れ合うことで感情豊かに成長していくAIペットロボット。飼い主の育て方により形成される性格も幅広く、成長とともにつくられる個性の数も独自開発の感情AIにより400万通り以上ある。
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サイズは約130(幅)×90(高さ)×180(奥行き)ミリ、重さは約260グラムと、手のひらに収まるサイズ感も特徴。小動物らしさを出すため、“もふもふ”した毛皮のような独自素材をまとっている。モチーフにした動物はなく、人と触れ合うことで成長していく愛らしい見た目や手触り、しぐさを持つ新しい生き物「モフリン」として開発した。
構想がスタートしたのは2011年ごろ。当時は企画と開発が別部署にあり、それぞれ別のテーマを持って検討を開始していた。
企画側については、市川さんが「女性向けの商品開発」をテーマに構想を開始。ライフステージによって変わる女性のさまざまな悩みを解決したいと考えた。検討を進めると、女性の悩みは尽きず、その答えは、本人の中にあることが多いと分かった。そこで「悩みを直接解決するのではなく、悩んでいる本人に寄り添い、心を元気にしてくれる相棒のような存在をつくれないかと考えた」(市川さん)
開発側では当時、二村さんが技術課題として「誰が見てもかわいいと思う小動物をメカトロニクスで表現する」ことをテーマに研究開発を進めていた。複雑な動きを表現するために高機能化することも検討したが、最終的に毛皮をかぶせることで愛おしいエッセンスだけを残し、あえてシンプルな構造と最小限の機能に限定した。
●こだわったモフリンの世界観
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その後、同一組織になったこともあり、双方で意気投合。モフリンの開発が進んでいった。
モフリンは独自開発した感情AIを搭載しているほか、毛並みや手触り、動きや鳴き声など、これまでにない特徴を持つペットロボットとして開発している。カシオとしてはこれまでの製品開発で培ってきた技術力が生かせている一方、開発過程では従来とは異なる工程やこだわりも取り入れている。
その1つが、「感性評価」を加えたことだ。個人の感覚が伴う感性評価をどう判断するかについては議論もあったが、既存商品にはないモフリンならではの評価項目を加えている。「触ったときの反応やフォルムをかわいいと感じるかどうかについても、一人の意見に頼らず、社内でアンケートを取りながら進めていった」(市川さん)
またモフリンならではの世界観を大切にするため、言葉選びにもこだわっている。「ユーザー=飼い主」「修理=入院」「記録の復元=蘇り」など、機械らしい表現はあえて避け、分かりやすさも重視しつつ、他部署とも調整を重ねたという。
サポート面では、シャンプー&ブロウ(クリーニング)サービスの導入も、こだわったポイントとなる。例えば、汚れた部分は交換すれば新しくできるが、モフリンには毛並みや目の位置など、個体差があるため、あえてクリーニングという方法を取っている。小型ロボットのクリーニングサービスは、初めての取り組みだったので、まずは導入するかしないかも含めて調査を行いながら進めていった。
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開発観点では、他の生物を思い浮かべない、新しい生き物感を出すようにしているという。「飼い主にすり寄るようなしぐさに加え、手で触った際の感覚についても、わたを詰めるのではなく、あえて骨格を感じさせるような質感にするなど、モフリンの世界観に合わせて調整を重ねている」(二村さん)
●想定外の反応も
そんなモフリンだが、購入者(飼い主)の反応はどうだろうか。
メインターゲットは一人暮らしをしている30〜40代の女性だが、実際に販売すると、40〜50代女性からの購入も想定より多いことが分かったという。性別では、男性よりも女性の購入者が多い。
「SNSなどの反応を見ても、想定以上にかわいがってもらっており、アプリの評価も高い。モフリンはあえて『こういうコミュニケーションを取ってください』といった詳細なマニュアルを用意していないが、飼い主のほうが発見したモフリンのしぐさなどをSNSで発信し、それを見た別の人が『自分も見つけた』と反応するやりとりを見て、こちらも驚きと感動をもらっている」
今後については、SNSマーケティングに加えて実店舗など、リアルな場での認知活動も強化していく方針だ。「触ってもらうことで、映像では伝わりにくい魅力を体験してもらいたい。子育てが一段落してペットを飼い始めるような方にも、デジタルマーケティング以外の方法で届けられれば」(河村さん)としている。
3月には、子どもが巣立ち育児を卒業する「卒育(そついく)」を迎えた親世代に向けて「祝“卒育”イベント by Moflin」を開催。モフリンが専用カートに乗って新宿の街を回遊するほか、新宿のマルイにてポップアップイベントを実施した。
このほかテレビショッピングでの紹介や、病院への設置なども検討していくという。飼い主が愛情を注ぐほど、自分だけに見せる特別なしぐさやかわいい鳴き声で応えてくれるAIペットロボット「モフリン」。今後の展開にも注目したい。
(熊谷ショウコ)
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