チョン・へイン/photo:You Ishii褒められるのが、ちょっぴり苦手のよう。賛辞を寄せるとやや気まずそうな顔を見せ、それからきちんと感謝の意を示す。また、質問の1つ1つに向き合う真摯で誠実な姿も、インタビューを終えるや「(日本語で)お疲れ様です!」と言ってぺこりとお辞儀をするキュートな姿も、一変してシャープな表情を見せる写真撮影時のプロフェッショナルな姿もすべてチョン・ヘインらしさ。『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の日本公開を目前に控えた場で、そのさまざまな顔を見ることができた。
そんなチョン・ヘインが劇中で見せる顔もまた、これまでにないものだった。大ヒット作『ベテラン』に続くシリーズ第2弾に、新人刑事のパク・ソヌ役で参加。ファン・ジョンミン演じる凶悪犯罪捜査班のベテラン刑事ソ・ドチョルの仲間となり、時に物語をかき回す。この一筋縄ではいかない厄介なキャラクターは、チョン・ヘインにとっても「挑戦」だったようだ。
自分でも知らなかった自分を発見
――パク・ソヌは非常に挑戦しがいのある役柄だったのではないでしょうか?
この映画に出演すること、そしてパク・ソヌを演じることは僕にとって本当に大きな挑戦でした。もちろん、どの作品も挑戦ではありますが、特に大きな挑戦であり、それだけにプレッシャーも大きかったですね。
ただ、チャレンジもプレッシャーも大きければ大きいほど、その分やりがいも達成感も大きくなります。しかも、ありがたいことに僕はこの作品を通し、自分でも知らなかった自分の姿を目にすることができました。撮影現場でモニターの中の自分を見るたびに驚きましたし、不思議な気分にもなりましたね。
――アクションシーンも多いです。
撮影前からアクションスクールに通ってたくさんの準備をし、基礎体力もつけました。テイクを何度重ねても対応できるよう、体力が必要だと思ったんです。撮影自体は安全に行われましたから、僕が怖がりさえしなければ怪我の心配はなかったです。
――映画の後半にはアン・ボヒョンさんとのファイトシーンもありますね。
アン・ボヒョンさんは僕と同い年で、以前から親交もある仲。なので、アクションシーンを撮るときもすごくやりやすかったです。いろいろな話を気楽にしつつ、お互いに信じ合いながら戦えました。
多様な表現ができる理由
――もちろん、撮影現場ではファン・ジョンミンさんとの対話も多かったかと思います。先頃の来日記者会見では、ファン・ジョンミンさんがチョン・ヘインさんの撮影現場での姿勢を絶賛していました。
ありがたい限りです…! 演技をする者としても、俳優の道を歩む者としても、ファン・ジョンミンさんは大先輩。そんな大先輩の作品に対する責任感を僕は間近で感じていましたし、少しでも力になってさしあげようと努力しました。
ファン・ジョンミンさんは撮影現場に活力を吹き込んでくださるし、危険なシーンを撮影するときには適度な緊張感のある現場へと導いてくださる。演技以外にも、学ぶことが本当に多かったです。
――そして、リュ・スンワン監督は「チョン・ヘインさんは明るい役から暗さのある役まで多様な表現ができる」とおっしゃっています。
そのようにおっしゃってくださるなんて…、本当にうれしいです。僕が大事にしているのは、演じる役と親しくなり、一番の理解者になること。役と僕自身は距離があって当然ですから、その距離をできるだけ縮め、同化するのが僕の演技スタイルだと思っています。
ただし、そうするには仕事と演技と自分の人生を明確に区別することの大切さも知っておかなくてはいけません。役に入り込みすぎて自分の日常すら注ぎ込んでしまうと、精神的につらくなってしまいますから。
――明確なネタバレは避けますが、パク・ソヌと親しくなるのは難しそうです。
本当にその通りです(笑)。僕と彼の間には距離しかありませんでしたし、彼に近づくのは簡単なことではなかった。なので、僕は台本を読んですぐ、彼が取る行動について考えました。僕自身としてではなく、彼になりきって。“このとき、なぜ自分(パク・ソヌ)はこうしたんだろう? このときはどうだろう?”と1つ1つ考えていったんです。そこで何らかの理解が生まれると、演技がしやすくなりますから。理解できなければ、親しくなることもできませんし。
――と同時に、近づいた役柄とご自身を区別する大切さもあるわけですね。
そうなんです。パク・ソヌを演じている身だからといって、撮影現場でずっと彼のままでいるのは大問題(笑)。撮影現場はオペレーションの場であり、監督やスタッフの皆さん、そして共演の方々と協力する場ですから。この作品に限らず、役に同化しているからといって役のエネルギーのまま接しては皆さんが不便な思いをしてしまいます。
なので、カメラの前で集中はするけど、入り込んだままではいない。とはいえ、家に帰った後も役の余韻が残ることはどうしてもあって。これといった解消法はないのですが、俳優チョン・ヘインと1人の人間としてのチョン・ヘインを分けておくことが大事かなと思っています。その境界線が曖昧になると、問題が起きてしまいかねませんから。
アクションやスリラー作品が大好き!
――映画やドラマとの付き合い方に関してはいかがでしょう。俳優として惹かれる作品と、1人の人間として惹かれる作品は違いますか?
ロマンスもので僕を知ってくださった方には意外かもしれませんが…。僕自身はアクションやスリラーなどの犯罪ものを見るのが大好きです! むしろラブストーリーやロマンティックコメディを積極的に見ることはあまりありません。たまに見ることもありますが、それこそ仕事のためが多いかもしれないです。
――では、アクションやスリラーの“マイ・ベスト”を教えてください。
たくさんありすぎて…(笑)。今ふと思い浮かんだのは、『ボーン・アイデンティティー』。『ボーン』シリーズは全部好きです。あとは、この『ベテラン』シリーズも! 監督がちらりとおっしゃっていたのですが、シリーズ第3弾を構想中だそうです。なので、実現したら絶対に見たいですし、こういった犯罪アクションスリラー映画がたくさん作られてほしいなと観客の1人として願っています。
――お仕事と観客の立場を混同させて申し訳ないのですが、ジェイソン・ボーンを演じるチョン・ヘインさんも見てみたいです。
いや、それは僕もチャレンジしたいです(笑)。すごく面白そうだと思いますね!
(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)