安田淳一監督 (C)ORICON NewS inc. 都内にある日本外国特派員協会で15日、映画『侍タイムスリッパー』の上映と記者会見が行われ、安田淳一監督と主演俳優の山口馬木也が出席した。映画は「第48回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞、最優秀編集賞を受賞、興行収入も10億円を突破し、「これはある意味、個人的な『百姓一揆』が成功したような気がしています。百姓のせがれが“侍”をテーマにした映画で農地を守ったという気持ちもあります」と、謙虚に、しかし誇らしげに語った。一方、米農家でもある安田監督は、日本の米農家の現状について言及し、涙ぐむ一幕もあった。
【画像】安田監督と山口馬木也の2ショット 会場の記者から「農業と映画作りにはどのような関係がありますか?例えば、稲を植えているときにアイデアが湧く、というようなことはあるのでしょうか?」と、お米を作りながら映画も作っている安田監督への好奇心に満ちた質問が上がった。
これに安田監督は「私は米を作っています。しかし、今の日本の米作りの現状は非常に厳しく、米一袋を作るたびに1000円近い赤字が出ることもあります。ですので、正直なところ、農業と映画の両立は簡単なものではありません。この映画も自費で多くの資金を投じて制作しました。もしヒットしなければ、農業も続けられないという切実な状況でした。おかげさまで、映画がヒットしてくれたおかげで、今後数年は安心してお米を作れると感じています」と和やかな口調で答えた。
ただし、これはあくまで安田監督個人のケースであることを強調し、「日本全体の米農家の問題としては、非常に深刻で長年改善されていない重い課題だと思います。過去作に『ごはん』という映画では、小作農を継ぐことになった女性の戦いを描きました。こちらはAmazonプライムでまもなく配信が始まるので、ぜひご覧いただければと思います」と、笑いを誘った。
また、「映画制作においても農業においても共通しているのは、丁寧に作るという姿勢です。どちらも真心を込めて、じっくりと良いものを作るという点で、似ている部分があると感じています」と答えた。
一方、昨年夏に米が品薄状態に陥り、小売価格が急騰、「令和のコメ騒動」と報じられて以降も米の価格高騰が続いていることについて、米農家としての見解を求められた安田監督は「お米の価格について『高い』と言われていますが、実際には30年前の水準に戻っただけです。日本の米農家は長年、国の政策に翻弄(ほんろう)され続けてきました。その結果、現在のような構造的な問題が生まれており、農家個人の努力ではどうにもならない状況です。抜本的な改革が国政レベルで行われない限り、日本の農業は立ち行かなくなると思います」と訴えた。
続けて、「私のように、1.5ヘクタールほどの規模で米作りをしている農家でも、年間では数十万円の赤字が出ることもあります。米農家の平均年収は低く、時給換算で1円〜12円程度とも言われています。主食を担っている現場がすべからくこういう現状です」と徐々にヒートアップ。
「『ごはん』という映画でも描いたように、農家の現実は非常に厳しいものです。レビューで『解決策を描いていない』といった批判もありましたが、あの映画は『父が頑張っていたから、私たちも頑張る』というメッセージで締めくくられています。私自身も、父や祖父が大切にしてきた米作りを、これからも続けていきたいと考えています。彼らの想いや努力があったからこそ、今があり、それを私たちが引き継がなければ、日本のお米文化は守れない状況の中で日々農業と向き合っています」と、その瞳に熱い想いをにじませた。
そして、「この映画がヒットしたことで、自分のお米作りが少しでも継続できるようになったのは、本当にありがたいことです。これはある意味、個人的な『百姓一揆』が成功したような気がしています。百姓のせがれが“侍”をテーマにした映画で農地を守ったという気持ちもあります」と胸を張っていた。