町田と土岡―[振り返れば青学落研]―
YouTubeチャンネル登録者数180万人を突破した「バキ童チャンネル」。
唯一無二の企画とキャラクターを活かした動画が支持される一方で、中心メンバーのお笑いコンビ、春とヒコーキが出会った青山学院大学・落語研究会についてのエピソード動画も強い人気を集めている。
そんな「青学落研の話」を、チャンネル出演者であり、青学落研出身者であり、春とヒコーキの学生時代からの友人でもある芸人・町田が振り返る。第5回は、どんな人間でさえ受け入れてきた青学落研で唯一、受け入れ拒否になった男の話。
◆新入部員歓迎会に現れた子ゴリラ君
彼は私たちが4年生の時の新入生の入部希望者であった。(ぐんぴぃは留年していたので、一つ上の学年だが普通にいる)
4月、新入部員歓迎のためのお花見会にその男は来た。背は低めで小太り、そしてゴリラに似ていた彼は、首になぜか一眼レフカメラをぶら下げいて、どこか切なげにはにかんで笑う青年であった。
こいつに落語をやらせたら面白いに違いない。その愛嬌のある姿に、僕らは一瞬で虜になった。
小ゴリラ君は、若干話こそ通じなかったものの、やばいやつが大好きな私たちは夢中になって彼を落研に勧誘した。
小ゴリラ君は他大学からのインターカレッジでの入部希望であったが、そんなのは全く問題なし。こいつはものになる、私たちはそう確信していたし、小ゴリラ君も「落研に入らせてください!」とはっきりと言ってくれた。相思相愛。
小ゴリラ君、君は落研のエースになれる!もう4年生ともなっていた私たちは、父親のような気持ちで小ゴリラ君を落研に迎え入れる所存であった。
お花見をした後、新入部員たちとご飯屋さんに移動し食事会をした。食事会では新入希望の1年生だけで固まって親交を深めてねということで、私たちと1年生は離れた席で食事をした。
◆小ゴリラ君の一眼レフに写っていたもの
「今年もいい新人が入りそうだね」私たちは小ゴリラ君の落研への加入に非常に満足気であった。
無事、食事会もお開きになり、帰り道を皆で歩いていると、新入希望の女の子の1人が上級生のグループに近づいてきてこう言った。
「食事会中、小ゴリラ君にコソコソ写真を撮られた気がします…」
「えぇ…、ダメだろそれは…」
急いで私たちは小ゴリラ君に事情を説明し、一眼レフのデータを見せてもらった。
全写真ブレていたが小ゴリラ君の一眼レフには何枚もこっそりと撮ったであろう新入部員の女子の顔写真がおさめられていた。
アウトすぎる。ぜんぜん部に入れちゃダメなやつであった。
新歓の食事会という初手も初手でこのような悪事を働く小ゴリラ。当然のごとく彼の入部はなしとなった。
◆「どうしても落研に入りたいです」なぜか粘る小ゴリラ君
しかし、小ゴリラ君は粘った。後日、「どうしても落研に入りたいです」とのことで、私たちの一つ下の学年の部の会長と一対一での面談を行うこととなった。
「こういったことは部どうこうとかではなく、社会的にしていいことではないです。あなたを入部させることはできないです」
毅然とした態度でそう伝えると小ゴリラ君はゆっくりと頷き、
「わかりました。落研に入ることは諦めます。その代わり、これからも部の集まりに出席させてもらえませんか…?」
「それをダメだって言ってんだよ!」
きつく叱ったそうだ。
以後、私たちが小ゴリラ君を見ることは二度となかった。
◆ゴリラにエル・トール
私たちは部室へ集まり、花見のときに桜の木の下で撮った集合写真に物憂げな表情で佇む小ゴリラ君を眺めながら、話し合った。
彼のした行為の悪質さ、期待を裏切られたこと、まずどうして、一眼レフでコソコソ撮れると思ったのか…?抱えきれないほどの怒りであった。
その時、誰かがポツリと言った。
「エル・トールだよ…」
みな一様にゴリラが巨大な雷に打たれて消し炭になる姿をイメージした。
「ゴリラにエル・トール…」
※エル・トールはワンピースに登場する敵キャラ・エネルの、ものすごい大きい雷を相手に落とす攻撃
「ゴリラにエル・トール」その言葉を聴いてなぜだか少し私たちは心を落ち着かせることができた。イメージのなかで各々が小ゴリラ君に裁きをくだせたのだ。
あんなことさえしなければ、小ゴリラ君と青学落研で過ごす日々もあったのかもしれない。彼のしたことは間違っていたがそんなことを思ったりもする。
ぐんぴぃがよく、「ゴリラにエル・トール」に似た音の響きの言葉があると思うんだよなあと言っていたが、私たちはついぞ見つけることができなかった。
「ゴリラにエル・トール」に似た響きの言葉、もし思いあたりましたら教えてくだされば幸いです。
―[振り返れば青学落研]―
【町田】
ぐんぴぃの友人。芸人としての活動もしている。@saisaisai4126