※写真はイメージです 老若男女、日々多くの人たちが利用する電車内では、予想外の出来事に遭遇することがある。
◆終電間際、駅のホームで別れを惜しむ恋人
ある週末、垣田杉子さん(仮名・30代)は同僚の女性と居酒屋で飲んでいた。2人とも彼氏がおらず、やさぐれていたところ、隣の席に美男美女カップルがやってきた。そして、ついつい、その会話に耳を傾けてしまったという。
どうやら、このカップルはまもなく結婚するらしい。女性は可愛らしい顔立ちで、髪はきちんと巻かれている。
全身白のコーディネートなのは「彼にプレゼントしてもらったハイブランドの白いバッグに合わせるため」だという。
「ただ、ここまで耳をそばだてておきながら、途中で自分たちが情けなくなってしまって。同僚に“もうやめよう”と目配せをして、運ばれてきた料理とお酒をむさぼりました」
垣田さんたちは終電間際に店を出た。駅のホームにつくと、先ほどのカップルを見かけたという。
反対側のホームにいる彼氏に向かって、ニコニコしながら口パクで何かを伝える彼女。
ああ、尊い。
そんな姿を眺めて、垣田さんは「全身白で可愛いし、羨ましいなあ」と心の中でつぶやいた。しかし、その後の展開に驚かされた。
◆車内で急に様子がおかしくなった彼女
電車に乗り込んだ垣田さんの対面に座った彼女は、突然様子がおかしくなった。白いパンツのベルトを外し、白いタートルネックの首元を引っ張って「はぁー、はぁー、はぁー」と深呼吸を始めた。
彼氏からもらったハイブランドのバッグを開けると、中身をすべてエコバッグに移した。そんなに焦った様子でどうしたのだろうか……。
垣田さんが不思議に思っていると、次の瞬間、彼女がバッグの中に“吐いた”。
さっきまで凛としていて可愛らしかった彼女がマジで! 嘘でしょ!
突然の行動に驚き、一瞬にして周囲には人がいなくなった。垣田さんがティッシュを探している間に、女性は腕で口元をぬぐい、ハイブランドのバッグのチャックを閉めると、そのまま床に置いて下車してしまったのだ。
「いやいやいやいや、色々おかしいでしょ、ふつうは逆でしょ。なんでエコバッグに吐かないのよ、それプレゼントされたやつでしょって(笑)」
垣田さんは困惑しながらも、このまま知らんぷりするのも気持ちが悪く、最後尾車両に移動し、車掌に状況を説明してから下車した。「彼氏にバッグの行方を説明できないだろうな」「あとで喧嘩にならないかな?」と勝手ながら心配になってしまったという。
◆新幹線の足元に衝撃の物体が…
年末年始やGW、お盆などの長期休暇のタイミングは新幹線が非常に混雑する。
武智優さん(仮名)は、1月1日の元旦に地元へ帰省するため新幹線に乗った。指定席は満席。自由席に賭けて乗り込んだところ、奇跡的に一席だけ空いているのを見つけた。
「これは運がいい」
そう思いながら座った直後、武智さんは違和感を覚えた。なんとなく変な空気だったという。
視線を足元に落とすと、そこにあったのは——。
◆「なんだか、縁起いいじゃないですか」
「“うんこ”と“五円玉”です。まさか、と思いました。そんなことあるかって感じですが、確かに、そこに存在していました」
元旦に、“うんこ”と“五円玉”。つまり“運”と“ご縁”。しかし、混雑する新幹線の車内で武智さんにそれをありがたがる余裕はなかった。
「すぐに近くの駅員に事情を説明すると、少し驚いた表情を浮かべた後、静かにこう言ったんです。
『本当ですね……なんだか、縁起いいじゃないですか』
そして、ふふふと笑うので私もふふふと笑ったのですが、せめて軽く謝罪とか状況説明とかしてくれてもいいのに、と思いました(笑)」
駅員はすぐに掃除をして、「もう大丈夫です」と席に戻るよう促してくれたが、武智さんは、綺麗になっていることはわかっていても、なんとなく座る気にはなれず、結局、立ったままで目的地に到着した。
「来年の帰省では、絶対に指定席を取りたいと思います」
事実は小説よりも奇なり。電車内では何が起こるかわからないのである。
<取材・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
企画、取材、撮影、執筆、対談構成、原稿整理、コンサル、現場サポート、コンビニへの買い出し、芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』(共に彩図社)など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズ(辰巳出版)ほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo