「給料は上がったのに、なぜか生活は苦しいまま」あなたの財布を襲う“見えない増税”のカラクリ

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2025年04月21日 09:30  日刊SPA!

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所得は増えているのに、手取りは思ったほど増えていない……。最大の原因は、ひっそりと縮小・廃止された所得税控除と社会保険料の引き上げだ。さらに、今後も連発されるステルス増税の正体に迫る!
◆政府が矢継ぎ早に導入している「ステルス増税」

’24年に実施された定額減税によって、1人当たり4万円が減税された。ところが、給与明細を見ると手取りはわずかに増えただけ……。この違和感の正体は何なのか。それもそのはず、全国民の所得に占める税金と社会保障費の割合を示す「国民負担率」は’22年に48.1%に到達し、以降も5割近い水準で推移。江戸時代の「四公六民」を凌ぐ重税感が日本を覆っている。

正面切って大増税に踏み切れば、内閣が吹っ飛ぶこともある。そこで近年、政府が矢継ぎ早に導入しているのが「ステルス増税」だ。ステルス増税とは、国民が気づきにくい形で行われる増税のこと。「薄く、広く、こっそり」と徴収され、ボディブローのようにジワリと家計を傷めつける。こうして国民負担をひっそりと押し上げているのだ。

◆“天引き”が格好の標的に!

格好の標的にされてきたのは、サラリーマンの給料からの源泉徴収。いわゆる“天引き”だ。給与所得者の節税対策に詳しい税理士の中山慎吾氏は、こう指摘する。

「社会保険料は激増し、所得税の控除の多くが廃止・縮小された。控除額が減れば、当然、税金は増えるが、見えづらいのでステルス増税そのもの。実質的に所得税を上げるこの手法は、昔から繰り返されてきました」

そこで額面年収600万円、配偶者は年収130万円のパート、子供1人の世帯をモデルケースとして、ステルス増税による負担増を試算した。

中山氏が言うように、’03年に社会保険料は72万円だったが、’24年には92万円と20万円も激増している。さらに、所得税を引き下げる効果がある控除も、次々と縮小・廃止された。15歳以下の子供を持つ人に適用される「年少扶養控除」、特定扶養親族(16〜18歳)分の「扶養控除の上乗せ」などが消え去った。額面年収600万円のサラリーマンの手取りは、’03年の約503万円から現在の約474万円と、実に28万円以上も激減した。



◆ステルス増税が生まれる政治的背景は?

近年のステルス増税は従来の手法に加えて、多種多様な税目を増やしている。その多くは “増税メガネ”とあだ名された岸田文雄政権の3年間で導入が決まった。定額減税で所得が増えたのに、手取りが伸びていない一因だ。ステルス増税が生まれる政治的背景を、自民党の衆議院議員時代から減税を訴えてきた安藤裕氏が説明する。

「森林保護、震災復興のためと言われたら、反対する人はそうはいない。こうした大義名分、決して高くない税率、そして『財源がないから』の決まり文句を武器に、財務省の意向を汲んだ自民党税調が国会で法案を押し通してきた。しかも自民党内では裏金問題で積極財政の安倍派が弱体化して、財政タカ派が台頭しつつあり、石破首相も緊縮財政路線。好機と見た財務省が増税にひた走っているのです」

森林税や復興税のステルス性能は、サラリーマンが手にする給与明細でも発揮されている。安藤氏が続ける。

「復興税は所得税に、森林税は住民税に上乗せされて徴収されているが、給与明細には明記されません。子育て支援金も同じ道を辿るでしょう」

定額減税は、給与明細への明記が法律で義務づけられた。一方、増税は隠蔽されている。

◆真綿で首を絞めるよう少しずつ税率をアップ

すでに導入済みで、特にステルス度が高いのが雇用保険の料率アップだ。’21年の0.3%から’23年には0.6%に引き上げられている。1%未満で一見、痛税感はなさそうだが、額面年収600万円の場合、年間負担額は1万8000円から3万6000円に倍増した。税理士の板山翔氏も、このかすめ取りをこう分析する。

「重税感がないよう少しずつ税率を上げていくのが、ステルス増税の典型的な手法です。また、住民税に年額1000円を上乗せしていた復興特別税が一昨年終了し、昨年4月から森林環境税に看板をつけ替えて、以前と同額を徴収している。少額の税目をいくつも乱立させ、全体の税収を積み上げたいのでしょう」

◆社会保険料はステルス増税の温床になりやすい

次に’26年4月から医療保険料に上乗せされる子育て支援金を批判するのは、税理士の脇田弥輝氏だ。

「社会保険料は天引きされるので気づきにくく、ステルス増税の温床になりやすい。岸田首相(当時)は負担をワンコイン程度と言いましたが、段階的に引き上げられて年収600万円なら月1000円と倍になる。婚姻や子供の有無に関係なく徴税されますが、子を持たない人に恩恵はなく、負担だけがのしかかる。“独身税”と呼ばれる由縁です」

’25年度の税制改正で最大の焦点になっているのが防衛費調達を目的とした法人税、所得税、たばこ税の増税だ。このうち所得税は1%を上乗せされ、年1245円の負担増に繫がる。仮に控除率が1%下がると、年間1万2000円も手取りが減る。

◆今後、大打撃となるのは…

そして今後、サラリーマンに大打撃となるのが現行非課税の通勤手当への課税だ。通勤手当は交通費として使われ、手元に残らない。ところが、手当を所得とみなして課税しようというのだ。仮に税率10%で通勤手当が月2万円なら、年5万円近くの損害だ。前出の板山氏が続ける。

「そもそも納税者である国民が、税制が複雑すぎて自分の税金の計算さえできないのがおかしい。増税に気づかれないよう、あえて複雑にしていると邪推したくもなる」

’23年度の国の税収は4年連続で過去最高を記録したが、国民の懐は痛むばかりだ。

【トランス税理士法人代表 中山慎吾氏】
税理士。法人税務からサラリーマンの税金対策まで、幅広く精通する。CFP。1級ファイナンシャルプランニング技能士

【元自民党衆議院議員 安藤 裕氏】
内閣府大臣政務官などを歴任。議員連盟「日本の未来を考える勉強会」会長を務める。’12年の初当選以降、衆議院3期。税理士

【税理士 板山 翔氏】
’16年、日本初のオンライン専門の税理士事務所を開業。現在、京都で「小さな会社のためのオンライン税理士事務所」を標榜する

【税理士 脇田弥輝氏】
脇田弥輝税理士事務所代表。2児の子を持つ専業主婦からママ税理士へ転身。東亜大学通信制大学院法学専攻 非常勤講師も務める

取材・文/谷口伸仁

―[家計を襲う[ステルス増税]一覧]―

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