
GLAYや椎名林檎、スピッツなど数々のアーティストのプロデュースや楽曲アレンジを手がけ、自身もベーシストとして活躍する亀田誠治さん。最新のテクノロジーで正倉院宝物の美と物語に迫る展覧会「正倉院 THE SHOW」(大阪展:6月14日〜8月24日、東京展:9月20日〜11月9日)では、1300年前の楽器の音を使った楽曲制作を担当しました。J-POP界の最重要人物の一人である亀田さんと正倉院…やや意外性のある組み合わせですが、オファーが来た理由について「亀田なら断らないだろうと思われたんじゃないですか」と鷹揚に笑って見せるのでした。
【写真】「正倉院 THE SHOW」では古楽器の音で楽曲を制作しました
お寺好きの少年だった
「実は僕、子供の頃からめちゃくちゃお寺が好きで。小学校6年生まで大阪の吹田市というところで育ったのですが、1人で近鉄に乗って奈良の東大寺や正倉院、興福寺のあたりもよく訪れていたんですよ。将来はお坊さんになりたいと思っていたほどでした」
そんな知られざる“ご縁”もあり、「正倉院に収蔵されている1300年前の楽器の音を使って今の音楽を作ってほしい」という難度の高そうなオファーも「はいよろこんで」と即諾。昭和20年代に録音された尺八や琵琶、阮咸(げんかん)、方響(ほうきょう)などの音データをサンプリングした楽曲制作に取りかかりました。
ところが…
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「その録音状態が非っ常〜〜〜に悪くてですね(笑)。数十年の間にテープが劣化しちゃっていて、音が転写していたり、ノイズが混ざっていたりしていたんです。ちょっと頭を抱えましたが、いや待て待て、今のデジタル技術をもってすればかなりのところまでレタッチ、つまり音色を綺麗に磨き上げることが可能なんじゃないかと。幸い、楽器ごとにひとつの音ではなくいくつかの音がちゃんと録音されていたので、それを並べてひとつずつ整えていけば、今の時代のメロディ楽器として使えそうだと確信するに至りました」
完成した楽曲「光」は、ピアノやシンセなどの音も織り交ぜ、特定の時代やジャンルに収まらない、まさに“今”の音に。亀田さんは「1300年前の楽器たちはシルクロードを経て日本に来ているので、そもそもいろんな世界と接続し、多様な文化がミックスされたもの。それって“今”と同じじゃん、というのが『光』の土台になっています。音の修復にはすごく時間がかかりましたが、作曲自体はとても刺激的で楽しく、1〜2週間くらいで出来上がりました」と振り返ります。
先輩たちから受けた恩、次世代に伝えたい
インタビュー中も全く偉ぶらず、何を聞いても楽しそうに笑顔で話してくれる亀田さん。同席したイベント関係者やメイクさんからは「ホンマもんの菩薩みたいやわ…」と感嘆の声が漏れました。
今回の仕事が来た理由について自己分析してもらうと…
「亀田はあんな人柄なのでまさか断りはしないだろうと思われたのでは(笑)。多少の“無茶振り”でも、チャレンジングなオファーの方がむしろ乗ってくるという読みもあったんじゃないですかね。(同席したスタッフに向き直って)どうですか?違いますか?」
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と、さりげなく場を盛り上げつつ、こう話してもくれました。
「僕の活動の真ん中には、『音楽の素晴らしさを次世代に伝える』という一本の芯があります。様々なアーティストのプロデュースや、Eテレでやっていた番組『亀田音楽専門学校』、2019年に始めた『日比谷音楽祭』などなど、そういうことに走り回っている亀田という人間を見込んでオファーしてくださったのだと受け止めています」
では、亀田さんが『伝える、届ける』のが自分の役割だと意識するようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。
「若い頃からずっとです。理由はシンプルで、僕も多くの偉大な先人、先輩たちからたくさんのものを授かったから。音楽だけでなく、アートは伝承されていくことで成熟し、裾野も広がる。そうするとたくさんの人の心が豊かになるし、豊かになると人は優しくなれる。争いごとだってなくなるかもしれない。ジョン・レノンみたいなことを言っていますが…(笑)。僕にできるのはジョンのようなことではなく、先人たちの残した素晴らしい作品や思い、愛情を次世代に伝えていくことだと考えています」
「自分に手柄は要らないので、僕が吸収してきたものは全部あげたい。“秘伝のタレ”みたいなものはありません。僕がつくった何かがあるのなら…J-POPのフォーマットでも何でもいいですけど、どんどん持って行ってほしい。受けた恩を次の人に伝える、恩送りですね。その意味でも『正倉院 THE SHOW』の仕事は、僕がこれまで取り組んできたことにも通じる、大きな意義のあるものでした」
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日比谷音楽祭「大変なんですよ…(泣)」
一方、そんな亀田さんが実行委員長を務める日比谷音楽祭2025は5月31日と6月1日に開催。多くの人に音楽を気軽に楽しむ機会を提供しようと、「入場無料」で続けています。そのためのクラウドファンディングも実施中。「毎年資金のことも考えないといけないし、大変なんですよ」と嘆いて見せつつ、やはり笑顔の亀田さんなのでした。
(まいどなニュース・黒川 裕生)