写真 科学の進歩にともない、地球上ではさまざまな分野の研究が進み、多くの謎が解明されてきた。野生動物に関する研究も進んでおり、動物たちが研究者も驚くような生態や機能を持っていたことが明らかになっている。
動物に関する最新の研究に興味はあるけれど、難しい論文を読むのはちょっとという人も多いだろう。そこで紹介したいのが、『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)。著者は、鳥取環境大学の学長を務める名物教授・小林朋道氏。ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の視点で研究してきた著者が、動物の知られざる真実をわかりやすく解説している。
たとえば、動物のコミュニケーションについて。人間は表情で喜怒哀楽といった感情を他者に伝えるが、実は動物にも表情で感情を伝えているのではと考えられている存在がいる。それがシロイルカだ。
イルカの頭頂部にはメロンと呼ばれる筋肉から派生した組織があり、イルカはメロンから発せられる音波でコミュニケーションを交わしている。ところが最近シロイルカについては、メロンを変形させることで表情を変え、コミュニケーションを取っている可能性が浮上した。同書の中で、シロイルカに関する論文の一部が以下のように紹介されている。
「シロイルカは、咀嚼筋が変化したメロンを、(a)平らにしたり、(b)押しつぶされたような形にしたり、(c)隆起させたり、(d)前方の部分を突き出したり、(e)波打つように動かしたりして、表情を変える。
メロン部の変形は、シロイルカが仲間と一緒にいて相互作用をしているときに高い頻度で見られ、そうでないときにはあまり見られない。(a)、(b)、(c)、(d)、(e)のどの表情が頻繁に発現するかは、相互作用の内容により異なる。たとえばオスからメスへの求愛的な場面ではオスは(e)を頻繁に行うことが多かった」(同書より)
これまで、イルカの行動や認知能力を解明するのに重要視されていたのは、彼らが頭部を使って発する水中波だった。しかしシロイルカの研究により、現在は他種のイルカについても、表情がコミュニケーションツールとして働いている可能性を念頭に置いての研究が進められている。
もっと身近な動物に関する研究についても見てみよう。多くの人にペットとして愛されているネコ。彼らは複数匹集まると、プロレスのような取っ組み合いを始めることが多々あるが、それが「ケンカ」か「じゃれ合い」か、判別できるだろうか。
じゃれ合いはやりすぎるとケンカへと移行してしまう。著者によると、ホモサピエンスは双方が正しくじゃれ合いだと認識するために、笑うことで「これはじゃれ合いだ」とメッセージを送っているという。では、ネコの場合はどうなのか。著者は、2匹のネコが触れ合う場面を記録・分析したスロバキアの研究チームによる論文内容を紹介している。
「ケンカをするときは、唸り声をはじめとした発声が多く見られ、遊びやじゃれ合いのときは発声は伴わない場合が多かった、ということです」(同書より)
ネコのケンカとじゃれ合いの違いが発声の有無にあるというのは、まだ仮説の段階。はっきりとした答えを出すには、野生のネコとペットのネコとの違いや超音波など、人間が見落としている要素がある可能性を考慮したさらなる研究が必要となるようだ。
同書では、虫についての研究にも触れている。ドイツ・ヴュルツブルク大学の研究チームは、国際学術誌に掲載された論文で、フロリダオオアリが脚に怪我を負ったコロニーの仲間に手術をするということを突き止めた。
「脚は、胴体にくっついている側から基節、そこからだんだん胴体から離れ、転節、腿節、頸節、跗節と呼ばれる節が連なっていますが、その怪我の状況によって、基節と腿節をつなげる転節を顎で噛み切るといいます」(同書より)
著者いわく、アリが傷を負ったとき、死に至る最も大きな原因は、病原体の体内増殖だという。病原体は主に血流に乗って体内に広がるため、それを防ぐためには切断が有効だ。また、病原体に対抗するため、顎による傷口のクリーニングを行うこともあるそう。
「怪我をした部分を、他個体が顎できれいにし、病原体が含まれている可能性が高いゴミを取り除いてあげるのです」(同書より)
手術やクリーニングを受けたアリの生存率は、飛躍的に上がる。クリーニングを受けたアリの生存率は、何もしなかった場合の15%から75%に。手術を受けた個体の生存率は、40%未満から90〜95%にまで上がるというから驚きだ。
同書を読んで動物の生態や機能について知れば、単に知識欲が満たされるだけでなく、我々ホモサピエンスがより豊かに生きるヒントを見つけられるかもしれない。動物に興味がある人にもない人にも、ぜひ手に取ってもらいたい1冊だ。
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