
【写真】夜の青い光と影のコントラストが美しい『私たちが光と想うすべて』ポスター
大都会ムンバイから海辺の村ラトナギリへ。仕事、恋、結婚─ままならない人生に揺れる女性たちの友情を描く、儚いけれど決して消えない光を放つ感動作。
インドのムンバイで看護師をしているプラバと、年下の同僚のアヌ。2人はルームメイトとして一緒に暮らしているが、職場と自宅を往復するだけの真面目なプラバと、何事も楽しみたい陽気なアヌの間には少し心の距離があった。プラバは親が決めた相手と結婚したが、ドイツで仕事を見つけた夫からもうずっと音沙汰がない。アヌには密かに付き合うイスラム教徒の恋人がいるが、親に知られたら大反対されることはわかっていた。
そんな中、病院の食堂に勤めるパルヴァディが、高層ビル建築のために立ち退きを迫られ、故郷の海辺の村へ帰ることに。揺れる想いを抱えたプラバとアヌは、1人で生きていくというパルヴァディを村まで見送る旅に出る。神秘的な森や洞窟のある別世界のような村で、2人はそれぞれの人生を変えようと決意させる、ある出来事に遭遇する―。
インド映画として30年振りに、第77回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門入りを果たした本作。現地では上映後、審査委員長を務めるグレタ・ガーウィグや、日本から審査員として参加した是枝裕和監督も絶賛。強豪作品が多数出品された中、インド映画史上初となるグランプリを獲得した。そのほか、ゴールデン・グローブ賞など100以上の映画祭・映画賞にノミネートされ、25以上の賞を受賞。オバマ元大統領による「2024年のベスト10」にも選ばれ、70ヵ国以上での上映が決定。メディアからは「夜のムンバイを背景にした孤独なロマンスを、これほど美しくとらえた映画は初めてだ」(Variety)、「心を奪われない人はいないはず」(BBC)、「完璧な1作」(Les Inrockuptibles)といった絶賛が続出し、世界中から高評価を獲得している。
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そして、初の長編劇映画となった本作で、見事カンヌ国際映画祭グランプリを獲得。光に満ちたやさしく淡い映像美、洗練されたサウンド、そして夢のように詩的で幻想的な世界観を紡ぎ出し、これまでのインド映画のイメージを一新。「ウォン・カーウァイを彷彿とさせる」と評判を呼び、シャーロット・ウェルズ監督(『aftersun/アフターサン』)、セリーヌ・ソン監督(『パスト ライブス/再会』)など、30代の若手女性監督たちの作品が世界の映画祭で脚光を浴びる中、現在39歳のパヤル監督もまた、世界中から新たな才能として注目を集めている。
プラバを演じるのは、『Biriyaani(原題)』でケーララ州映画賞・主演女優賞を受賞、2024年度東京フィルメックスでも上映され話題を呼んだ『女の子は女の子』にも出演したカニ・クスルティ。アヌには、『Ariyippu(原題)』でロカルノ国際映画祭国際コンペティション部門主演女優賞にノミネートされたディヴィヤ・プラバ。パルヴァディには、日本でもスマッシュヒットを記録したインド映画『花嫁はどこへ?』のベテラン俳優のチャヤ・カダム。その生き様を表現するかのようなリアルな演技が、観る者の心の芯を静かに深く揺さぶる。
彼女たちが演じる世代や境遇、性格も異なる3人の女性たちの共通点は、ままならない人生に葛藤しながらも、自由に生きたいと願っていること。はじめは分かり合えなかった3人が、互いを思いやり支え合っていく。そこにあるのは声高な共闘ではなく、ただ相手の存在を“認める”という温かな視線。女性たちの姿に、国境も人種も超えて共感が広がる中、さらにメディアや批評家から讃えられたのは、美しさを極めた映像と音楽。ムンバイの街並みとラトナギリの自然を対比させ、カパーリヤー監督の類稀なる感受性を通すことで、アートへと昇華している。また、街を彷徨(さまよ)いながら小さなカメラで撮影した映像と録音した環境音をドラマに組み合わせるという、ドキュメンタリー経験者ならではのテクニックにも要注目だ。
本ビジュアルポスターは、夜のムンバイの駅のホームで静かに佇むアヌの姿を捉えたもの。カパーリヤー監督が写し出す、夜の青い光と影の美しいコントラストの中で浮かび上がるアヌの静かな眼差しは、横に添えられた「運命から、解き放たれる」というキャッチコピーと深く呼応し、見る者を惹きつける印象的なビジュアルとなっている。
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タイトルが示す通り、全編にわたって、多種多様な光がスクリーンからこぼれ落ちる本作。繫華街のネオン、スマートフォンのライト、朝の太陽と夕陽、海の水面、そして女性たちの瞳の輝きと心に灯された希望。世界中に光を届ける新たな傑作が、この夏、日本を照らし出す。
映画『私たちが光と想うすべて』は、7月25日より公開。