
大阪の下町で暮らす二人きりの兄妹・俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)。死んだ父との約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた俊樹は、フミ子の結婚が決まり、やっと肩の荷が下りるはずだった。ところが、遠い昔に封印したはずのフミ子のある秘密が今になってよみがえり…。兄妹の不思議な体験を通して、人の悲しみや温かさを描いた朱川湊人の同名小説を映画化した『花まんま』が、4月25日から全国公開された。本作でフミ子の婚約者の大学助教・中沢太郎を演じた鈴鹿央士に話を聞いた。
−まず、出演が決まった時の心境から伺います。
前田(哲)監督とまたお仕事ができるというのがすごくうれしかったですし、(鈴木)亮平さんと有村(架純)さんと酒向(芳)さんとキムラ緑子さんと六角(精児)さんという、すごい人たちに囲まれて楽しみだな、頑張ろうと思いました。
−では最初に脚本を読んだ印象はいかがでしたか。
すごく感動しました。前田さんが届ける作品は、『ロストケア』(23)もそうでしたが、死から逃げないというか、死と向き合いながら生きることを考える。それがこの作品にも入っていたので、どんな映像になるのかを考えながら読みました。僕が演じた中沢太郎さんは、原作では最後にちょっと出てくる研究者肌の人みたいに描かれていますが、脚本ではすごく膨らんでいて、とても優しいキャラだと思いました。太郎さんは、物事を理解するまでに自分の中でいろいろと考えられる強さを持った人なのですてきな役だと思ったし、立場的にいろんな場所に行ったり、いろんな人と人との間に立ったりという、客観的に見ると難しい立ち回り方をしていますが、その中には太郎さんの誠実さというか、真っすぐに人と向き合っているからこその行動がたくさんあったので、それを僕なりにちゃんと演じられればいいなと思いました。
−中沢太郎というキャラクターを、脚本を読んだりしながら、どのように理解しましたか。
原作には太郎さんはちょっとしか出てきませんが、キャラクターのバックグラウンドみたいなものを、脚本の北(敬太)さんが書いてくださったんです。太郎さんの両親はこういう人で、小さい頃からこういうものを見てきて、大学の卒論はこういうものを書いてとか。フミちゃんと初めて2人でご飯に行ったのが焼き鳥屋さんで、そこで太郎さんがカラスの話を熱弁したという裏設定があって。鳥を食べながら鳥について語るという。そんないろんな説明やバックグラウンドが書かれていました。その中で僕が思ったのは、太郎さんは人の見つめ方がすごく優しくて、自分が分からないことや想像を超える何かがあった時に、それを1度自分で受け止められるだけの器を持った人だし、理解したいという熱量がすごくある人で、優しさもあるけど芯は強い。いちずなところが、兄やん=俊樹さんと似ていると思ったんです。俊樹さんも、お父さんとの約束をずっと守ってきた人で、太郎さんとは見た目も対照的な感じだけど、いちずに何かを思い続けたりする強さは似ているなと。そういうところをうまく演じられたらいいなと思いました。
−年上の有村さんの恋人役でしたね。
キャラクター的にフミちゃんが引っ張って、太郎さんはそれに付いていくみたいな感じですけど、すごく調和が取れている2人というか、画面に収まるとこの2人は何か柔らかいものを持っていていいなと思いました。撮っている時は、有村さんが相手というのはあまり考えずに、太郎さんとして、この人を理解したいと思いました。フミちゃんはいろんなことを経ての結婚ですが、すごく正直だし、フミちゃんといることで太郎さんは人を好きになっていると感じました。僕はまだ結婚をしたことがないので、結婚というものの大きさは分からないけれど、この2人だからいいんだろうなと思いました。
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−鈴木さんと有村さんの印象は?
僕が台本を読んで、頑張って150パーセント理解できたと思っても、多分僕より人生を長く生きてきた人からしたら、50パーセントぐらいの理解度なんだろうなとは何となく思っていました。演じる自分としてはもっと理解したいなと。だから、亮平さんや有村さんは台本をどういう感覚で読んでいるのかがすごく気になりました。お二人のお芝居を見てすごいなとなった中で、何が見えているのだろうと思ったし、現場に入ってお芝居をする時の空気感とかも含めて、自分もこうありたいと思う俳優さんがまさにこのお二人でした。僕はもっと年を重ねてからこの映画を改めて見たいと思ったし、台本をもう1度読みたいと思ったんです。それはネガティブな意味ではなくて、人生のいろんな経験を経てから見たり読んだりすると、絶対に受け取るものが変わるし、見えるものも変わる作品だと思ったからです。だからこそ今の自分にできる限りのことを振り絞って演じようと思いました。
−前田監督とは『ロストケア』以来の仕事でしたが、今回学んだことは何かありましたか。
監督の演出をどう受け取るかということを学びました。例えば、僕は今まで監督から「楽しそうに」と言われたら、そこだけを意識してやっていたけど、そうではなくて、「何でこの役がここで楽しい気持ちになるのか、重い気持ちになるのかの理由を考える」というのを聞いてすごいなと思いました。それから、「演じる人は役を内側から捉える。見ている人は外側から捉える。内側をどう出すかは、自分の中に流れているものを持ってやってみたらいい」ということを教えてもらったのは、すごくいい学びでした。
−この映画の注目ポイントを。
やっぱり俊樹さん=亮平さんの結婚式でのスピーチのシーンですね。結婚式に新郎として出るという、自分が実際には経験したことがない状況の中で、亮平さんのスピーチを聞きながら、その言葉がすごく胸に来ました。刺さったというよりも、送られてきたこの言葉を抱きしめたいと思いました。そうやっていろいろな言葉を受け取りながら、この先の人生を考えるとすごく感動しました。
−完成作を見た印象は?
素晴らしかったです。自分が出た作品なのに良過ぎて、何回泣いただろうというぐらい泣きました。自分が撮影したところは分かっているけど、見ていないところもあったので、映像になって新しい発見もありました。見て思ったのは、僕が脚本を読んだ時は、フミちゃんと太郎さんの側で読んでいたんだなということ。でも繁田さんの家族の姿を見ると、そちらの側でも僕は泣いちゃったし、何かいろんなところで絡み合っていたんだ、そこがいいなと思いました。特に酒向さんのお芝居がすごかったから、これはいい作品だなと。この作品に携われてよかったと思うし、これは絶対に見てほしいと自分から思えた作品なので、できるだけたくさんの方に見てほしいです。個人的には、お芝居について、新しい視点が生まれた作品でもあるし、自分の人生について考えた作品でもありました。また、家族はずっと身近にいてくれたけど、これからはもっと大切にしなければ、ちゃんと言葉にして伝えようと思いました。それに、自分が結婚するとなったら、結婚式の前夜にこの映画が見たいと思いました。
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(取材・文・写真/田中雄二)
