映画『そして、バトンは渡された。』公式instagramより 2025年4月24日発売の『週刊文春』で、俳優・田中圭(40歳)と永野芽郁(25歳)との不倫疑惑が報じられた。同誌によると二人は2021年公開の映画『そして、バトンは渡された』での共演を機に知り合ったという。
双方とも不倫を否定しているが、永野芽郁、そして妻子ある田中圭の行動には当然批判が集まっている。
一方で、同誌に掲載された直撃取材時の田中圭のアタフタした様子や、浮かれた2ショット写真などから、ネット上を中心に意外にも「どうしても憎めない」「バカっぽくて可愛い」といった反応が結構な頻度で見られるのだ。
この田中圭のパブリックイメージとは、いったいなんなのか。つい田中圭の過去作を振り返りたくなった。男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が解説する。
◆ポジティブなパブリックイメージ
俳優本人があずかり知らぬところで、その俳優のパブリックイメージが、増幅するかのようにほとんど独り歩きしてしまう状態がある。有名俳優なら、なおさらのこと。
例えば、アルフレッド・ヒッチコック監督作『サイコ』(1960年)のアンソニー・パーキンスは、同作の犯人役イメージがべったり定着して、その後のキャリアで苦労したことが知られている。パーキンスの場合はネガティブな意味合いが強いが、逆に強烈なほどポジティブなイメージもある。
『おっさんずラブ』で主人公・春田創一を演じた田中圭がまさにそう。吉田鋼太郎演じる上司が命名した「はるたん」というあだ名が、ドラマ世界をはるか超え、広く国民的に愛され、パブリックな愛でられ方だったからだ。
◆はるたん役からトーンダウンした役柄
実際、『おっさんずラブ』はシリーズ化され、社会現象と呼ばれる作品になった。はるたんイコール田中圭という御輿が、愛を叫びながら全国を練り歩く。みたいな熱気を帯びるほどパブリックなイメージを決定づけた。
このはるたんイメージは、田中圭の明朗活発な俳優像を規定しながら、以降の作品でも基本的にはるたん役のような圧倒的ポジティブキャラをしなやかに更新している。
とはいえ、他にレパートリーがないわけではない。『おっさんずラブ』がシリーズ化される前に公開されたジョン・ウー監督作『マンハント』の回想場面に登場した孤高の研究者役の振り幅を定点観測してみただけでも、その芸達者な才能は明らかである。むしろはるたん役から極端にトーンダウンしたクールな役柄の方を得意としているかもしれない。で、これがまたはるたん以上にはまり役であることが多い。
◆田中圭の二面性
近年の出演作から例をあげるなら、深田恭子と共演した『A2Z』(Prime Video、2023年)が、ちょうどポジティブとクールのハイブリッド作品だったと思う。同作の主人公・澤野夏美(深田恭子)は、出版社の編集者であり、夫・森下一浩(田中圭)もまた編集者である。
この編集者夫婦は、8年前に結婚。倦怠期というには、関係性が冷えきっているわけではない。でも一浩はあからさまに不倫している。それを隠すどころか、夏美にけろりと告白する。
だから離婚しようならまだわかるが、そうじゃない。不倫相手である美大生との関係は続けたいが、夏美との夫婦生活も維持したい。自分勝手過ぎる。ほんとサイテー。
悪質なのは、自分が不倫している事実を吐露する一浩が、基本クールでありながら、ここぞとばかりに人懐こく朗らかに振る舞うこと。愛すべきサイテー夫などといえばいいのか。ポジティブ(朗らか)とクールが同居する田中圭の二面性的演技が極まる。
◆ドラマ世界と現実世界の臨界
サイテーはサイテーなのだから、一浩のことを許すわけにはいかない。なのにどこかで憎めないのは、田中圭が演じる役柄に対して常にはるたん役をオーバーラップして見てしまうからなのか……。
松本若菜と夫婦役を演じた『わたしの宝物』(フジテレビ系、2024年)でも似たところがあった。こちらは目に見えてサイテーを極めたハラスメント夫。人前ではいい夫を演じ、ふたりになるといきなり陰湿になる。共感しようがないキャラクター性にもかかわらず、これを田中圭が演じるとなぜか憎めない気がする。
『A2Z』第2話で、美大生からプレゼントされたネクタイを夏美に結ばせる場面がある。複雑な不倫関係の固結びみたいで嫌な場面だった。でもどこかではるたんの存在が見え隠れする(?)。これほどパブリックなイメージが強烈に息づいた俳優も珍しい。
強烈過ぎるがゆえに、いつしか俳優と役柄が混同され、ドラマ世界の皮膜を知らず知らず破り、現実世界との臨界があいまいになる感覚がある。
事実認定は留保すべきだが、現実世界での不倫疑惑などというスキャンダルが特大ゴシップになり、なおさらそのあいまいな境界にいる感じがある。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu