Netflix映画『新幹線大爆破』主演の草なぎ剛、樋口真嗣監督(撮影:松尾夏樹) (C)ORICON NewS inc. 1975年に公開された東映映画『新幹線大爆破』(監督:佐藤純彌)が、現代ならではの視点でスケールアップし、Netflix映画としてリブートされた。主演を務めたのは草なぎ剛。メガホンを取ったのは、日本のVFXと特撮を語るうえで欠かせない樋口真嗣監督。撮影現場の熱気、そして作品に込めた思いを2人が語ってくれた。
【動画】新幹線に乗っている気分になるオープニング映像
──完成した作品を見た率直な感想を聞かせてください。
【樋口】初号試写でみんなの反応を見たとき、「ああ、やってよかったな」と心から思いました。
【草なぎ】もうね、監督には足を向けて寝られないです。本当に、ありがとう!この作品は、僕の代表作になりました。「悔いはない」って思えるくらい満足しています。心から納得できた。いつもなら「まだやり残したことあるな」と感じるのに、今回は違いました。
それでもやっぱりこれからも監督と映画を作っていきたいです。この役をくれたことに、心から感謝しています。これまで自分がやってきたこと、そのすべてを注ぎ込めた。おこがましいかもしれないけど、「監督もこの映画を撮るために生きてきたんじゃないか」と思えるくらい。「俺たち、最高だったな」って、監督と肩を抱き合いましたよね。
──新幹線の見たことないアングルがたくさんあって、鉄道ファンでなくてもテンションが上がりました。
【草なぎ】撮影中は毎日テンションが上がってました。東京〜新青森間を何往復もして、JR東日本さんには本当に感謝しかありません。
【樋口】“隠れ鉄道ファン”の心をどうくすぐるか、というのも意識していました。鉄道にそこまで興味がなかった人にも「新幹線に乗ってみたい」と思ってもらえたらうれしいです。
【草なぎ】あんなに近くから撮影できるなんて、すごいよね。
【樋口】特別な許可を得て、保線員の方と同じ格好で線路際まで降りて撮影しました。線路の間にある小屋から新幹線を真横から撮らせてもらったり、構内の施設の屋上に上がらせてもらったり。空撮した映像もすべて使っています(笑)。
【草なぎ】映像として、これは歴史に残るレベル。音にもこだわっていて、エンドロールの音って、新幹線が動き出すときの音と一緒だなって気づいたんですよ。
【樋口】さすが!そうなんです。オープニングの曲も、発車ベルと同じトーンで始まってるんです。
【草なぎ】その音が“新幹線に乗ってる感”をすごく引き立ててくれるんですよね。
──監督は原作のファンとのことで、オマージュも多く見られました。例えば、斎藤工さん演じる総括指令長・笠置が、運行状況を双眼鏡で確認するシーンなどは、宇津井健さんを彷彿とさせます。
【樋口】実際、JR東日本さんに取材したときは「双眼鏡は使いません」って言われました(笑)。現在は運行状況をタブレットや机上のモニターで確認していて、昔ながらの電光板――通称“屏風”はもう使われていなかったんです。でも、あの電光板って“昭和の象徴”なんですよね。映画の雰囲気には欠かせなかったので、フィクションとしてあえて再現しました。
【草なぎ】昭和感、出てました!
──本物にこだわった上での「映画的演出」ですね。
【樋口】原作映画が公開された後、鉄道雑誌で「この映画のここがおかしい」といった指摘が列挙されていて、映画ファンでもあり鉄道ファンでもある僕としては、「楽しんだ映画にケチつけなくても…」と、すごく悔しかったんです。だから今回のリブートでは、そういう“かわいそうな目”にあわせたくなかった。新幹線の設計に詳しいブレーンに入ってもらって、技術的なメカニズムも研究しましたし、JR東日本さんにも「実際はこうです」と細かく助言をいただきました。でも、映画として成立させるためには“嘘”も必要なんです。たとえば演出的にアナウンスのタイミングをずらしたり、保安上の理由で本物を写せなかったり。実際とは少し違っています。
【草なぎ】でも、その“嘘”が嘘に見えないのが、すごいんだよね。
■「ちゃんと生きないと、演技なんてできない」
──草なぎさんは高市という車掌をどう演じたのでしょうか?
【草なぎ】撮影前に、運転士役ののんちゃんと一緒にJR東日本の方にレクチャーを受けました。一緒に新幹線に乗車して、お客様第一の姿勢を体感できたのも、大きな学びでした。現場には毎日社員の方が来てくださっていましたが、僕は監督と小学生レベルで遊んでる感じで(笑)、現場の“化学反応”を楽しんでました。高市はスーパーマンではなく、生身の人間。乗客を安全に目的地まで送り届けるという職務に対する誠実さと、表には出さないようにしているけれど迷いや怒りもある。監督がそのすべてをちゃんとすくい取ってくれました。
【樋口】指令所から「爆弾が仕掛けられている」と連絡を受けて、乗客に伝えるときの高市の表情――うろたえず、でも事態の重さを受け止めている。あの顔、モニターで見ていて「来た!」って思いました。
【草なぎ】あれ、いいよね(笑)。僕自身、よくあんな演技できたなって驚いています。予告を見て「よくやったな、自分」って(笑)。まぐれです。キャメラマンが良かったんだと思います。
──原作映画で主演を務めた高倉健さんとは、2012年公開の映画『あなたへ』で共演するなど親交があったそうですが、高倉健さんを意識することはありましたか?
【草なぎ】はい。健さんには個人的にもすごくお世話になって、縁を感じています。健さんが出演された作品を、少しでも自分が継いでいけたらと思っています。『碁盤斬り』(2024年、白石和彌監督)のときは、京都・太秦の撮影所だったこともあって、「ここ、健さんも通ったんだろうな」と思って、健さんが僕の中に降りてきてくれていた気がしました。
でも今回の『新幹線大爆破』の撮影中は、不思議と健さんの存在を感じなかったんです。「あれ?健さん、どこ行ったのかな?」って。でも、完成した映画を観たとき、不意に健さんの声が聞こえた気がしたんです。「剛くん、ちゃんと生きなきゃ。そうじゃないと、演技なんてできないよ」って。その健さんの声って、自分の中で作ったものかもしれない。そうやって自分を奮い立たせてたのかなって。
悪役とか、時代劇の侍とかならある程度“型”があるけれど、普通の人間を演じるのって、本当に難しいから。僕はちゃんと演じられたのか不安だったんです。でも完成した映画を観て、高市がちゃんと車掌に見えたとき、「よかった」って思えた。安心できた。それで、健さんの声が聞こえたような気がしたんだと思う。だから、本当に、樋口監督に「ありがとう」なんです。
――草なぎさんが「この作品が代表作」と語っていたことと、つながりました。監督にとっても、特別な思いがあったのでは?
【樋口】僕は高倉健さんを一度だけ、お見かけしたことがあります。東宝のスタジオの食堂の前で、関係者がざわざわしてて。「何事?」って聞いたら、「静かに!」って(笑)。そしたら、黒塗りのアルファードがスーッと入ってきて、健さんが降りてこられた。みんな一斉に「おはようございます!」と声をそろえたので、僕もつられて「おはようございます!」って。それが、最初で最後。でも、今回、剛くんを通して、もう一度健さんに“会えた”ような感覚がありました。