
プレミアリーグ第34節。10位のブライトン(勝点48)は17位のウェストハム(勝点36)とホームで対戦した。
第31節のクリスタル・パレス戦で右足かかとを負傷した三笘薫は、第32節のレスター戦を欠場。前戦の第33節のブレントフォード戦では、退場者が出て10人となった後半21分からの出場だった。この試合でジャック・ヒンシェルウッド(U−19イングランド代表)からゴール前にラストパスが送られてきたのは後半36分。三笘はプレミアリーグでの自己最多となる8ゴール目を冷静に流し込んだ。
そして迎えた第34節、スタメン復帰はあるのかと期待されたが、先発を飾ったのはシモン・アディングラ(コートジボワール代表)。三笘は2戦連続ベンチスタートとなった。
試合は前半13分、ブライトンがヤシン・アヤリ(スウェーデン代表)のゴールで先制点を挙げる。ミドルレンジから放たれたインフロントの巻くようなシュートが枠内に鮮やかに吸い込まれた。前半はこのまま終了する。時間の経過が速く感じられる、活発でキビキビとした動きの試合だった。
4−2−3−1(ブライトン)対3−4−2−1(ウエストハム)といえば、後者が引く展開になりがちだ。しかし、ウエストハムは右ウイングバックのアーロン・ワンビサカ(元イングランド代表)が、4バックのサイドハーフ然と高い位置を取り続けたこともあり、試合はいい感じで噛み合っていた。それは言い換えれば、ワンビサカと対峙するブライトンの左ウイング、アディングラがプレッシャーをかけられずにいた証拠でもある。その活躍度はいまひとつだった。
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三笘の出場は後半頭からでもよかったのではないか、とは、前戦のブレントフォード戦で抱いた感想だが、この日も同様だった。ケガの回復度がどの程度なのかはわからないが、結果論から言えばそうするべきだった。ハーフタイム明けの後半3分に、ブライトンはワンビサカ経由で、同点弾を奪われたからだ。
ライン際に張って構えたワンビサカは、ルーカス・パケタ(ブラジル代表)からパスを受けると、ジャロッド・ボーウェン(イングランド代表)に、ラストパスのひとつ手前に当たる決定的な縦パスを送った。ボーウェンの折り返しは、中央で待ち構えるモハメド・クドゥズ(ガーナ代表)にピタリと合った。
【ブライトンを敗戦から救う同点弾】
1−1。三笘の登場は同点で迎えた後半17分からだった。その5分後、早速ワンビサカに1対1で対峙すると、三笘は縦を突いた。このところ対峙する相手に「勝負」を避ける傾向にあった三笘だが、この日は少し強気だった。仕掛けのステップでそのマークを縦に外すと、左足で折り返したボールは、マット・オライリー(デンマーク代表)の手前で相手にカットされたが、挨拶代わりのプレーとしては上々だった。
2度目の見せ場が訪れたのはその2分後。同じく左サイドで迎えた1対1で、今度の相手はパケタだった。縦勝負は今回のほうがきれいに決まった。ブラジル代表MFを鮮やかなステップで縦にかわすと、中央で構えるダニー・ウェルベック(元イングランド代表)に左足の柔らかいキックを送り込んだ。相手にCKに逃げられたが、決定機に近い折り返しだった。
しかし、1−1で迎えた後半38分、ブライトンは逆転弾を許してしまう。ボーウェンのクロスボールをトマーシュ・ソウチェク(チェコ代表)に頭で決められたのだ。リーグ戦5戦勝ちなし(2分3敗)で迎えていたブライトン。悪い流れは続いているかに見えた。
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時計の針が後半42分を回った頃だった。三笘がヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)とポジションを入れ替わった。そしてミンテは2度ほどワンビサカに1対1を挑んでいた。左サイドにフォーカスする展開になっていた。
過去に三笘が右サイドでプレーしたことはほとんどない。目を見張るようなウイングプレーを見せたこともない。右に適性があるようには思えないという印象だ。一方、両利きのミンテは左に回っても芸を出せる。交代で入ったばかりなので馬力もあった。そのワンビサカとのマッチアップに目は奪われがちだった。
ブライトンの右サイドには、MFとして交代で入ったブラヤン・グルダ(U−21ドイツ代表)が回っていた。後半44分、そのグルダの頭上に、MFディエゴ・ゴメス(パラグアイ代表)からふわりとした優しい対角線のクロスが送られた。気がつけば、三笘はするすると神出鬼没な動きでゴール正面にポジションを取っていた。
ウエストハムのDFはその時、この三笘の動きにまったく対応できなかった。グルダが頭で折り返したとき、ゴール正面の三笘はフリーで構えていた。野球で言う"拝み取り"のような体勢で、両手でバランスを取り、慎重に頭を垂れると、次の瞬間、ウエストハムのゴールネットは揺らいでいた。
ブライトンを敗戦から救う同点弾は、三笘にとっての今季のリーグ戦9点目のゴールでもあった。
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さらにこの試合には続きがあった。アディショナルタイムは3分。カウンターからグルダが三笘に出したパスはカットされる。ショートコーナーからミンテが蹴ったクロスボールもGKに跳ね返される。だが、そのこぼれを拾ったグルダが、中央で構えるカルロス・バレバに回すと、将来を嘱望されるカメルーン代表の21歳は、その左足を正確に振り抜いた。カーブがかかったそのボールは、いったんゴールの枠外へ飛び出していきながら、枠内へきれいに収まった。
最終スコア3−2。試合はブライトンの劇的な勝利に終わった。次戦の相手はニューカッスル。ウイングでプレーする三笘の姿を、もっと長い時間、見てみたいものである。