「『セーラー服と機関銃』の撮影では、相米慎二監督が高校生の(薬師丸)ひろ子ちゃんを大人の女優として、『ひろ子さん』と呼んでいたのが印象的でした」
こう振り返るのは、風祭ゆきさん(71)だ。撮影に入ってすぐに行われた、薬師丸演じるヒロインとの出会いのシーンは忘れられない。
「最初のリハーサルで私は、衣装合わせでとても気にいっていたワンピースを着たのですが、監督は『違う』と。お芝居に関しても『うーん、違う』『反対に行っちゃった』と何度やってもNG。何がダメなのか言ってくれないんです。ヘトヘトになりながらいろいろな気持ちで演じてみたら、ようやく『じゃあ、撮ろうか』ということになったんです。“これは大変な現場になる。この先どうなるのか”と不安になりました」
ワンシーンをワンカットで撮影するのが相米組の特徴。午前中にリハーサル、午後に撮影に入るというスケジュールだったという。
「あるシーンで、スタジオに広いリビングのセットを組んで、カメラを載せるレールをL字形に敷いて、ゆっくりとカメラを移動させながら撮影するということがありました。なが〜い場面をやっとOKで終わらせたと思ったのに、後日、再撮影することになった。どうやらカメラを載せたレールが平らになっていなくて、画面がゆらゆら揺れてしまったようです。時間をかけて撮影したので、スタッフもそのシーンの共演者のひろ子ちゃんも、それはそれはガッカリしました」
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共演者も個性的だった。
「渡瀬恒彦さんとの最初のシーンは、私が酒場で『カスバの女』をギターを弾きながら歌っていると、渡瀬さんに『そんなもの歌っている場合じゃない』と責められる流れでした」
渡瀬さんは1回目のリハーサルで「監督、考えてきたことがあるので、やってみてもいいですか?」とアイデアを持ち込んだ。
「酒場に入ってきた渡瀬さんは、そのまま厨房に入り包丁を持ってくると、私が弾いていたギターを取り上げて弦を切っちゃったんです。バツンって! 私はあんまり驚いて、声も出ませんでした(笑)」
渡瀬さんとはラブシーンにも挑戦した。
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「渡瀬さんの背中にはきれいに刺青が描かれていたのですが、それをこするとにじんでしまう。真夏の撮影だったので、渡瀬さんも私もお互いに汗をかかないようにして、渡瀬さんの背中や私の手に、特殊な粉を振りかけながら撮影に臨みました」
さまざまな苦労があったが、映画は大ヒット。風祭さん自身にとっても「もっとも思い出に残る出演作の一つ」となったのだ。
『セーラー服と機関銃』(1981年)
角川映画の代表作であり、ヒロインの星泉を演じた薬師丸ひろ子を国民的スターにした映画。高校生が突然ヤクザの親分になるというぶっ飛んだ設定やシナリオ、長回しやロングショットを多用したアートな絵作りなどに不思議と引き込まれる「カイカン」な名作。
【PROFILE】
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かざまつり・ゆき
1953年生まれ、東京都出身。1973年に女優デビュー後、1980年に日活ロマンポルノ作品『赤い通り雨』で主演に。映画、TV、舞台と幅広く活躍し、2003年にはタランティーノ監督の『キル・ビル』にも出演した。
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