(画像:『続・続・最後から二番目の恋』TVer配信ページより) 放送スタートから話題を呼んでいる『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ)。視聴率、内容ともに好評を博しています。
このドラマに華を添えるのが、エンドロールで流れる主演の小泉今日子と中井貴一が歌う「ダンスに間に合う」。これが近年のドラマ音楽の中でも出色の出来なのです。
オリジナルは、09年に多摩美大の学生を中心に結成された8人組ソウル・ファンクバンドの曲。決して知名度が高くないアーティストの楽曲が月9に流れるのもレアケースです。
というわけで、なぜ「ダンスに間に合う」がドラマにドハマリしたのか、理由を考えます。
◆小泉今日子、中井貴一と同じ空間を共有しているような臨場感
『続・続・最後から二番目の恋』を支えているのは、何と言っても小泉今日子と中井貴一による、自然な語り口です。ほぼ演技感ゼロで、最近のドラマにありがちな、バズる決めフレーズをかましてやろうという下心が全くありません。
語弊(ごへい)があるかもしれませんが、劇中のセリフなのにまるで楽屋トークでも聞いているような感じなのです。
二人の役柄を鑑賞しているのではなく、小泉今日子、中井貴一という人物と同じ空間を共有しているような錯覚を起こすわけです。そこに視聴者も参加しているような臨場感が生まれる。
しかし、それは気持ちを高ぶらせるものではなく、腰を据えた落ち着きとしての静かな生々しさです。これがドラマ全体のトーンを決定づけています。
◆二人の自然な語り口そのまま、鮮明に伝わる
そして、「ダンスに間に合う」は、この演出の意図を汲んだ、素晴しいエンディングテーマとして機能しています。
まず、二人の自然な語り口が、そのまま移植されているのが奇跡的です。確かに歌であり、メロディなのだけれども、良い意味で音楽におもねっていないので、言葉が鮮明に伝わってきます。
劇と音楽が同じトーンであることが、ドラマに統一感を生んでいる。この曲を歌うことに、明確な意図があると伝わってくるからです。
曲調も明るいミディアムテンポで、次週のストーリーへの期待を高めます。
リズムも跳ねすぎず、かといって平板でもなく絶妙な塩梅(あんばい)です。過度に盛り上がりもしなければ、かといって、悟りを開いたように落ち着き払うのでもない。大人がポジティブであることを理想的な形で体現した音楽だと言えるのではないでしょうか。
◆ドラマタイアップ売上が振るわなくなり、かえって豊かな名曲が
そして、「ダンスに間に合う」のように隠れた名曲が起用されるようになった背景には、トレンディドラマ時代のようなタイアップビジネスが成立しにくくなったこともあるのだと思います。
かつてのように大物アーティストの曲を使ったところで話題にもならず売り上げも振るわなくなった構造的な苦境が、かえって豊かなコラボレーションを生む土壌を育んでいるのではないか。
やむを得ない逆転の発想によって、この素敵なデュエットが実現したのであれば、これは音楽にとってむしろ喜ばしい状況だと言えるでしょう。
今後、他局のドラマでもこのような試みがなされるようになったらいいなと思います。
平日の夜を締めくくるにふさわしい、静かな希望に満ちたアンセム。小泉今日子と中井貴一の歌う「ダンスに間に合う」は、ささやかな驚きを与えてくれました。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4