
風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回はプレミアリーグ優勝の今季のリバプールで大活躍しているモハメド・サラー。風間氏は「他の選手と大きく異なる」才能があるというが、それは何か。
【プレミアリーグ4度目の得点王間近】
今シーズンのプレミアリーグを制したリバプールにおいて、傑出した活躍ぶりで優勝に大きく貢献したのが、エジプト代表のモハメド・サラーだ。
これまでリーグ戦(4月27日現在)で28ゴールをマークし、得点ランキングでもトップを独走するサラーは、ゴールのみならず18アシストを記録するなど、相変わらずチャンスメイク能力も発揮。周りも生かしながら自ら決めるという、完成されたアタッカーとしてサッカーファンを魅了する。
そんなサラーの名が広く知れわたったのは、チェルシーからのレンタル先となったローマ時代のこと。当時は抜群の速さを誇るウインガーとして頭角を現した。その後、2017−18シーズンにリバプールに移籍したが、そのプレミアリーグ復帰初年度で32ゴールを量産。秘めていた得点力を一気に開花させ、得点王にも輝いた。
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以降、リバプールでは毎シーズンにわたってゴールを量産してきたが、とりわけ今シーズンはアルネ・スロット新監督の就任により、32歳とは思えないようなハイパフォーマンスを披露。自身4度目のプレミアリーグ得点王をほぼ手中にしている状況だ。
なぜサラーはこれだけの活躍を継続し、ゴールとアシストを量産し続けることができるのか。ウインガーとしてもストライカーとしても非の打ちどころのないサラーのプレーについて、現在、南葛SCで監督を務めながら解説者としても活躍する風間八宏氏が詳しく解説してくれた。
【足の"踏み替え"でプレーする】
「サラーが他の選手と大きく異なるポイントは、足の"踏み替え"に尽きますね。
よくサッカーではステップという表現を用いることがありますが、私は敢えて踏み替えという言葉を使うようにしています。というのも、ステップという表現だと、止まったり、踏ん張ったりするのもその意味に含まれますが、サラーの場合はそうしたステップを踏んでいるわけではありません。
どういうことかと言うと、サラーがドリブルからシュートする時には足がほとんど止まりませんよね? スピードを落とさず、スムーズにシュートまで持ち込んでいますが、なぜそんなことができるかというと、相手の体勢や位置によって自在に踏み替えをしながらプレーできるからです。同じ時間のなかで歩幅を1歩にも3歩にもできて、スピードを落とさずに方向も変えられる。つまり、踏み替えができる幅が広いということです。
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だから、サラーはいつも体勢が崩れず、ドリブルをしていても頭が動きません。シュートをする時も体勢が変わらず、踏み替えをすることによって最適なタイミングとポイントでシュートできます。相手GKやDFにとっては、いつシュートを打ってくるのかがわからないので、止めようがありません。
それと、サラーはドリブルをする時に無駄にボールに触れません。なぜなら、自在な踏み替えができるからです。相手がいない場所ではボールを体から離してドリブルしますが、基本的にはボールはいつも体の中心にあって、相手がひとりでも複数人でも、ボールを触らずに踏み替えによって相手を動かすことができます。しかも踏み替えが速くてスムーズなので、踏ん張るようなケースも少ない。だから体勢が崩れないのです。
体勢を維持するためには体幹が必要と言われますが、これだけ自由に足を動かせれば、当然ですが体勢が崩れることはありません。とはいえ、サラーほど踏み替えの自由が利く選手は世界でもまれで、そういう意味でも、特別な才能の持ち主と言えるでしょう」
風間氏が指摘した通り、確かにサラーを見ていると、ほとんど体勢が傾かず、ドリブルからシュートまでの流れも極めてスムーズかつスピーディー。テクニックが優れているのはもちろんだが、シュートがドリブルの延長線上のプレーのように見える。
【自在な踏み替えのメリット】
では、自在な踏み替えができることによって、プレーにおいてどのようなメリットが生まれるのか。その効果について、風間氏に聞いてみた。
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「ひとつは、先ほどもお話したように、動いていても体勢が崩れないので頭が動かないということ。頭が動かなければ視野が確保できるので、見えるものが増えます。相手の場所や体勢はもちろん、味方の動きも見えるので、素早く最適な判断をすることができるため、パスやシュートの選択肢が増え、精度も高まります。
もうひとつは、常にボールを自分の好きな場所に置けるという効果もあります。試合中にボールを自分の体の中心に置き続けることはそう簡単な技術ではありませんが、ボールに触らないでもそれができるのは、自在な踏み替えができることの大きなメリットと言えるでしょう。無駄にボールに触れなくても踏み替えだけで相手を動かし、自分が行きたい方向に進めるので、自ずとプレースピードも上がります。
さらに言えば、ボールを置きたいところに置けるので、いつでも自分が蹴りたいタイミングでボールを蹴ることもできます。サラーのゴールシーンを見てみるとわかると思いますが、いつも抜群のタイミングで、しかも正確なキックでシュートを決めています。自分のイメージ通りのキックをするための踏み替えができるので、シュートの時に大きくバックスイングをとる必要もありません。
サッカーの試合では、足の運びやタイミングがずれてシュートをしそこねるというシーンをよく見かけると思いますが、サラーはそのようなシーンとはほとんど無縁です。
足の踏み替えは何気ない動作なので見過ごしてしまいがちですが、よく見るとなぜサラーを止めるのが難しく、これだけのゴールやアシストを量産できるのかがわかると思います。もしかしたら幼少期から特別な練習を積むことで可能なのかもしれませんが、やはりこれは持って生まれた才能としか言いようがありません。
体を動かすという点において最適な足の運びで、とにかく合理的。なかなかマネることのできない動きをする、特別な選手だと思います」
去就が注目されていたサラーは、4月11日、リバプールと2027年6月30日までの契約延長を正式に発表した。世界中のサッカーファンは、これからも特別な才能を持ったサラーのプレーをプレミアリーグやチャンピオンズリーグの舞台で拝めそうだ。