
【写真】キュートな魅力は変わらず!加賀まりこ、インタビュー撮りおろしショット
◆鈴さんは「フットワークの軽さや距離感の取り方のうまさが魅力」
水凪トリによる同名漫画を実写化する本作は、38歳のさとこ(桜井)が、膠原病を患い、築45年の団地に引っ越すところからスタート。過去のつらい経験から人と距離を取りがちな彼女だが、年齢も事情もさまざまで個性豊かな団地の住人や、週4勤務のパート先の人々と触れ合うことで少しずつ変化が訪れ、地味だけど身体に美味しそうな薬膳ご飯とたおやかな人間関係を通して心身を取り戻していく。
加賀が演じるのは、90歳(!)の大家・美山鈴。ちょっぴりおせっかいで、天真らんまんなところがあり、知らず知らずのうちにさとこを自分のペースに巻き込み、硬くなりがちだった心を包み込み解きほどいてゆく。
――本作のオファーをお聞きになられた時のお気持ちはいかがでしたか?
加賀:プロデューサーから原作のマンガをいただいて読んだのですが、マンガのことをあまりにも知らないから、「マンガのジャンルって広いんだな」「こんなにヒューマンなものがあるんだ!」と驚きました。本当に心が温まる優しい物語で、これをちゃんと表現してお伝えしたいと思いました。
――“近所に住む高齢のおせっかいな大家さん”というと、頑固で付き合いにくいキャラクターとして登場することが多いですが、本作の鈴さんは、天真らんまんでとても軽やかでキュートな人物です。
加賀:そこが本当に素敵よね。鈴さんが持つフットワークの軽さや、距離感の取り方のうまさは演じていて私自身も勉強になるし、彼女の魅力のひとつというか、人間性ですよね。ああいうふうにかわいらしく年を取りたいと思いつつ、なかなか憎たらしいことばっかり言っちゃうのよ(笑)。
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彼女は普通の旦那さんと暮らしていた専業主婦で、旦那さんがいなくなっちゃって、司くんと偶然出会うことで、株を買うことや、家の中をきれいにしてもらえること(笑)、そんな幸せな時間が持てるようになった。それは常にオープンマインドでいる鈴さんだから掴めたことなのよね。クローズしていたら絶対に出会わないもの。
司君との出会いも、どうなっているかわからないのに、キャンプしている人のテントを覗いて、助けてあげようと家に小走りで帰ってスープを持って戻ってくる…ああいうことができるのって素敵よね。なかなかできるようで垣根を作っちゃう人も多いでしょう。
家の近くの公園に20年近く暮らしている人がいるのね。この方にある日、カイロをいっぱいいただいたから「よかったら使ってください」って持って行ったことがあるんだけど、「施しは受けねぇ」って断られちゃった。難しいですよね。でも人に対してノックしていくことは大事だと思うんですよね。
◆自分が好きなものを食べたいという欲は大事
――本作を彩るおいしそうな薬膳料理も話題になっています。フードスタイリストの飯島奈美さんが手掛けられる料理はいかがですか?
加賀:バカうま!(笑) カットの声がかかっても食べてますね。一番のお気に入り? そりゃ第2話に登場した黒毛和牛のすき焼きですよ! 私お肉好きですから。
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加賀:私は、自分の好きなものを食べる、食べたいという欲があるというのが一番大事だと思っていて。そういう意味でとても健康だと思うんです。自分がバロメーターになる。食べたいと思えば、ちょっと遠出しても食べに行くから、食欲っていうのは大事だと思うのね。
――先日『あさイチ』でご紹介されていた加賀さんの朝食もいろんなメニューが並んだ素敵なものでした。
加賀:飽きるのが嫌なんで、一個ずつ違う味のするものをなるべく食べたいと、ああいうスタイルになったの。本当にどれもこれも1つずつなのよ。味変があるほうが好き。私はいろいろと食べたい派なのね。1個ずつ片付けていく人もいるじゃない? 私は味が口の中で変わるほうが好きなので、朝ごはんからいろんな種類のものをちょっとずつ食べるんです。
でも昼は食べないのね。女優さんって仕事を始めたら、昼間の1時間ってあっという間。化粧直しや衣装替えをやっていたら、もう残り時間15分ってなって食べられない。瘦せようとかじゃなくて、もう何十年もそんな習慣になっちゃった。よく女性の友達が「ランチデートしましょう!」と言うんだけど、「ええ!?」って(笑)。「どうやったらいいの? 朝抜くしかないのかな」と思ったりしています。
◆同い年の友人・前橋汀子さんは「まったく違うから惹き合う」
――鈴さんは、さとこはもちろん司にとっても、人生の灯台のような存在に感じました。加賀さんご自身にはそんな存在はいらっしゃいますか?
加賀:そうねぇ…。何事にも執着がなくて。その時はすごく感謝してるんだけど、忘れちゃうってどういうことでしょうね(笑)。
日頃の付き合いはめったにないですけど、ヴァイオリニストの前橋汀子さん。実は彼女と私は同い年なの。ある日、30手前だったかな、2人とも泳げないということが判明して。それで2人で水泳教室に行ったんですね。あちらは、幼いころから(ヴァイオリンを)基礎からずっとやっている。私は劇団四季で基礎は全部やりましたけど、基礎を大事にしてきたわけじゃない。その違いがすごく出るのね。一番最初に先生が「ビート板でバタバタやりなさい」って言ったら、彼女はもういいって言われるまでそれをやっているの。私はできるからもういいや!ってすぐに飽きて、「先生!次はどうやるんですか?」って先生の手の動き、足の動き、息の吸い方、そういうのを見る。私は教えてもらうというより、「沢村貞子さんの芝居素敵だな」って思ったら見て覚えてきたから。職業の差っていうのかな、そういうのが出て面白かったですね。
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――ドラマには、いろんなことができた昔の自分と比べてしんどくなったり、仕事で成功した友人と比べてしまって嫌な気持ちになるキャラクターが登場します。
加賀:比べる…。辞書にないですね。人がどう思うかなんの興味もないので。「評判がいいですね」って言われればうれしいですよ。でもどう評判がいいのかとか興味ないし。人にどう思われるかっていう価値観で生きていないのよね。昔の自分と比べるって、若いなって思うだけで、それくらいですね(笑)。
――この作品は何かに直面して生きづらさを感じたり悩みを抱える人の心をじんわり温めてくれる作品ですよね。そうした状況の方に何かアドバイスはありますか?
加賀:私もそれなりに悩んだからこそ日本を離れてみようとしたこともあるんですが、痛い思いをしたほうがいいのよね。そうすると覚えるでしょ。私もそうだったから。私は「?」って思ったら、すぐノックして行って聞いてくるからあんまり悩まないのね。ストレスがないっていうとバカみたいなんだけど、本当にどっちかっていうとないんですよね。
――ドラマ、映画、バラエティーとさまざまな作品で加賀さんのブレないかっこよさを拝見していますが、その原点はどこにあるのでしょうか?
加賀:全然無意識ですけど、そういう家庭で育ったんですね。学歴とか肩書とか世間体ってそんなものはなんにも生まないっていつも言ってました、親が。原点はそこだと思いますね。
――最後に、『しあわせは食べて寝て待て』を楽しみにされている皆さんにメッセージをお願いします。
加賀:気持ちがニュートラルになるドラマだと思います。そして、ニュートラルになったところに、辛みも甘みも入ってくるので、最後まで目を離さないでご覧ください。
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』は、NHK総合にて毎週火曜22時放送。