BMW MチームWRTの15号車BMW MハイブリッドV8(ドリス・ファントール/ラファエル・マルチェッロ/ケビン・マグヌッセン) 計10シーズンをF1ドライバーとして過ごし、そのキャリアの間にもインディカーやル・マン24時間レース、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権、IGTCインターコンチネンタルGTチャレンジなど、カテゴリの枠を超えてチャレンジを続けているケビン・マグヌッセン。F1でのキャリアを終え、そのまま慌ただしくスポーツカードライバーに転向したマグヌッセンに、WEC世界耐久選手権の第2戦が行われたイモラでBMWでの新たなキャリアについて聞いた。
――BMWでの初年度のレースの感触はいかがですか?
ケビン・マグヌッセン「F1でのシーズンを終えたのは12月中旬で、その後LMDhへスイッチし、僕が初めて参戦したのは今年の1月末のデイトナ24時間レースだったので、準備する時間はあまりなかったのは想像できると思う。でも、デイトナはチームメイトのドリス・ファントールがポールポジションを獲得し、最後まで優勝を目指して戦い続けられた素晴らしいレースで、僕にとっては決して悪くなかったデビュー戦だったと思う。少なくとも僕がチームの足を引っ張ることはなかったし、かなりペースを上げられたと思っている」
マグヌッセン「BMWだけでなく、LMDhカーはハイパーカークラスの中でも非常にユニークで特別なマシンだと思う。LMP1や他のプロトタイプカーを運転したことがあるが、それらはダウンフォースがとても大きいがLMDhはそうではない。シングルシーターとフィーリングが非常に似ているものの、ハイパーカーはシングルシーターよりもそれ劣り、GTカーとの中間くらいの感じがする。プラットフォームは非常に硬く、車高も非常に低い。バンプでの乗り心地や縁石の乗り心地が良いというわけではないが、それでもダウンフォースはある。そういう意味ではとてもユニークで、運転が難しいマシンであることは確かだ」
マグヌッセン「実はF1はかなり運転しやすいのだけど、最後の最後まで走り切るのは難しい。その一方でハイパーカーをコントロールし、いま何が起こっているのかを感じ取るのは、かなり寛容で予測しやすいんだ。僕にとってハイパーカーはとてもチャレンジングなプログラムで、レーシングドライバーであるからにはいつも大きな挑戦を求めているし、その挑戦をとても楽しんでいる」
――F1と違いWECはレースが6時間以上と長いですが、それをどう乗り切ることが大切でしょうか?
マグヌッセン「耐久レースではまず、何よりもトラブルを起こさないようにする必要がある。ペナルティを受けたり、ダメージを受けたり、ミスを犯したりするシチュエーションが6時間の間に多々起きてしまうが、それをなるべく避けなければならない」
マグヌッセン「もちろん、トラブルを起こさなければ起こさないほど良い結果に繋がるので、今はそこに焦点を当ててもっと集中すべきだと思っている。マシンにはペースがあり、コンディションも良いことから、マシンのトラブルというよりは人的ミスを防ぐべきなのかもしれない。BMWのドライバー自身のディションはとても良いと思う。あとはクリーンな走りを維持すれば、結果はついてくるだろうと考えている」
――昨年まではIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権やWECでトラブル続きのBMWでしたが、今季は随分とそのポテンシャルがアップしたようですね。
マグヌッセン「昨年と比べると、例えばカタールではマシンが大きく進化した。BMWがこれほど大きな進歩を遂げたことは大いに称賛に値するだろう。F1のように毎レースでアップグレードできる訳ではないので、マシンを進化させるのはそう簡単なことではない。だから、WECではアップグレードをもっと経済的にも効率的にも行う必要がある。“ジョーカー”システムなどもあるが、限られた予算の中でこれほどの進歩を遂げられたのは素晴らしいことだと思っている」
――イモラのトラックについてはどのような印象を持っておられますか?
マグヌッセン「F1ではここを3回走ったことがあり、僕の大好きなトラックのひとつで、他にもオランダのザントフォールトも同様に伝統的なオールドスクールで素晴らしい」
マグヌッセン「最近できたサーキットには広いランオフエリアが設けられていて、とてもフラットで幅も広いものが多いのだが、それよりも典型的なオールドスクールのイモラをハイパーカーでドライブするのは楽しいに違いない。タイトなコースだけに、狭い箇所に数多くのマシンがひしめき合うだけに、それらをどうコントロールをするかも重要だ」
――あなたはF1ではつねにアグレッシブなドライビングで知られていますが、WECやル・マンといった長期的な視点で物事を捉える必要があるなかで、どのようにそれを実現できるとお考えですか?
マグヌッセン「F1は短距離のレースで、僕がいたのはほとんどが10番手前後、つまりトップ10のすぐ手前か後というポジションだった。10位以降でフィニッシュしても何も得られるものはない。トップ10入りするためには、とくには大きなリスクを背負ってアグレシブに挑むことが、後の結果に報われることもある。だから、アグレシブに攻めるしかないんだ」
マグヌッセン「一方、耐久レースでは長期的な視点が求められるし、長いレースの間に何が起こるか分からない。だから、そこまでリスクを負うのは適切ではない。スプリントとエンデュランス、これは考え方の違いだと思う。耐久レースではつねに希望を持ち続けられるという点も、僕が気に入り楽しんでいる部分でもある」
――ル・マンでの戦いはもうあなたの頭の中で描かれているのでしょうか? ル・マン前にはイモラとスパしかありませんので、トラックコンディションは違うとはいえ、いわゆるル・マンへの最終実戦テストの二戦と考えているドライバーやチームも多いのではないでしょうか?
マグヌッセン「とくにそれが大きな課題だとは思っていない。ドライバーがマシンに何を求めているのかを理解するのに、僕にはそれほど時間を要さなかったからね。ル・マンについてはとくに心配していない」
マグヌッセン「なぜならル・マンの前には公式テストもあるし、レースウイークにも充分な走行時間が確保されている。ル・マンのレース時間は長いので、例えミスやトラブルが起きたとしてもレースは続くし、挽回のチャンスはある。決して諦めたり、希望を失ったりしてはいけない、そう考えている。ただ、僕はル・マンをいまから楽しみで仕方がないし、レースは素晴らしいものになると思っている。
マグヌッセン「スパではチームメイトのローレンス・ファントールがIMSAに参戦するために欠場をする予定だが、彼は非常に有能なドライバーなので、彼がル・マンまでの一戦を欠場するからといって僕たちは心配していない」
――ところで、あなたが所属するチームWRTとコンタクトを取ったきっかけを教えてください。
マグヌッセン「実はWRTのチームオーナーのヴァンサン・ボッセとBMW Mモータースポーツ代表のアンドレアス・ルースとは数年前から連絡を取り合っていた。そう、僕がF1に参戦していた頃から」
マグヌッセン「LMDhへの打診を受けてからはBMWのレースプログラムを傍観していたし、BMWの活動において一体何がどうなっているのか、ここ数年はF1の活動と並行してBMWに対する理解に努めてきた。ヴァンサンとは僕が幼少期から家族ぐるみの付き合いがある。だから、F1のキャリアの後にWRTファミリーの一員に加わったこと、BMWへ加入したことも、F1のキャリアの後にハイパーカーの活動を選択したのも、ごく自然な流れだった」
――お父様のヤンはル・マンへ応援にいらっしゃるのでしょうか?
マグヌッセン「もちろんル・マンには来るし、イモラにも来ている。父は耐久レースでキャリアの大半を過ごしたので、WECのようなレースウイークは彼にとっての遊び場だよ(笑)」
――WECへパーマネントドライバーとして実際に来てみてどう感じられていますか? F1とは雰囲気もファンも違うかと思いますが。
マグヌッセン「イエスともノーとも言えるだろう。もしかしたら、一見しただけでは同じように見えるけれど、やはり耐久レースはF1とはまったく違う。F1ではつねにあらゆる情報にアクセスできるのは僕だけ。エンジニアたちのあらゆる情報、あらゆる時間はすべて僕だけが独占できる。しかし、耐久レースでは情報を他のドライバーと共有し、彼らが何を求めているのかを理解する必要があるし、多くの妥協が求められるが、F1では妥協を必要が一切ない、これが一番の大きな違いだろう」
マグヌッセン「F1もハイパーカーも限界ギリギリのラインまで絞り込まなければならないし、コースに出れば感覚は同じだ。あらゆる可能性に挑戦し、最高のパフォーマンスを引き出そうとする、それはプロのドライバーとしての感覚はどのカテゴリでも同じだろう。僕はWECのようなこういうタイプのレースが好きだ。実際に参戦してみてそう感じている」
――アメリカでキャデラックのDPiをドライブしていたこともありましたね。F1に戻った時、そしてふたたびF1キャリアを終えた後に、また耐久レースに戻りたいと思っておられたのでしょうか?
マグヌッセン「どのカテゴリーが好きなのか正確には分からないし、明言するのは難しい。ただ、耐久レースの場はとても居心地が良いんだ。子供の頃に父が参戦するレースのパドックを走り回っていたからかも知れないな。幼少期から父の後をずっとついて歩いていたので、僕の生活の一部になっていたのだろう。何だかここにいるのがとても自然体な感じがするよ」
[オートスポーツweb 2025年05月01日]