【週末映画コラム】50年の時を経て製作された『新幹線大爆破』新旧2作を紹介

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2025年05月02日 08:10  エンタメOVO

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【週末映画コラム】50年の時を経て製作された『新幹線大爆破』新旧2作を紹介

『新幹線大爆破』(Netflixで4月23日から配信)




 新青森から東京へ向けて定刻通りに出発した東北新幹線「はやぶさ60号」。車掌の高市(草なぎ剛)は、いつもと変わらぬ思いで乗客を迎えた。

そんな中、新幹線司令室にはやぶさ60号に爆弾を仕掛けたという電話が入る。爆弾は新幹線の時速が100キロを下回ると即座に爆発するという。高市は極限状況の中、乗客を守り、爆発を回避すべく奔走する。

 一方、犯人は爆弾解除の替わりに1000億円を要求。JRや政府、警察、国民をも巻き込んだ大事件へと発展していく。果たしてはやぶさ60号の乗員・乗客の運命はいかに。

 1975年に東映が製作した同名パニック大作を樋口真嗣監督が現代版として新たに映画化。運転士の松本をのん、車掌の藤井を細田佳央太、笠置総括司令長を斎藤工、佐々木内閣総理大臣補佐官を田村健太郎が演じる。そのほか尾野真千子、要潤、豊嶋花らが共演。JR東日本が特別協力し、実際の新幹線車両や施設を使用して撮影が行われた。

 基本的には前作に対するリブート作品だが、「109号事件」として前作とのつながりを描いているので50年ぶりの続編ともいえる。前作は物騒なタイトルも手伝って当時の国鉄から撮影許可が下りず、主にミニチュアとセットを使った特撮を駆使して描かれたが、今回はJR東日本全面協力のもと、実際の車両や駅で撮影され、前作の東京→博多(東海道・山陽新幹線)から新青森→東京(東北新幹線)というルート変更も行われた。そこが新旧作の最大の違いである。

 そしてVFXの飛躍的な進化、草なぎ演じる主人公は車掌で女性ののんが運転士を演じた点、SNSやインフルエンサー、クラウドファンディングの存在などが、50年という時代の変化を如実に感じさせる。何より映画会社ではなくNetflixという配信サービス会社が製作したことが象徴的だ。

 また、前作では、すぐに明かされる犯人(高倉健)が主人公だったが、本作では、犯人は後半まで分からず、必ずしも主役というわけではない。その分、車掌の高市、運転士の松本、新幹線司令室の人々など、「安全を守る」という鉄道関係者たちの誇りを強く描いている。

 犯人の動機なども含めて人物描写やストーリーに多少の難はあるが、この映画の主役はあくまで新幹線。樋口監督の『シン・ゴジラ』(16)や『シン・ウルトラマン』(22)が、いかにゴジラやウルトラマンを見せるかに腐心したのと同様に、いかに新幹線を見せるかという意味ではタイトルを「シン・新幹線」と言い換えてもいい。

 ストーリー展開に無理があっても、これだけの映像を見せられればそれだけで満足するところがある。できれば映画館の大スクリーン、大音響で鑑賞したい映画だ。

『新幹線大爆破』(75)(5月9日から2週間限定で全国リバイバル上映)




 国鉄本社に、東京発博多行きの東海道・山陽新幹線に爆弾を仕掛けたという脅迫電話が入る。爆弾は時速80キロ以下に減速すると爆発するようセットされているという。大金を要求した犯人と、警察、国鉄職員との息詰まる攻防が描かれる。東映が当時流行していたパニック映画に触発されて製作。日本で初めてレンズ口径が小さいシュノーケルカメラを使用し、日本が世界に誇るミニチュアワークを駆使して新幹線を再現した。監督は佐藤純彌。

 この映画がユニークなのは、パニックサスペンスの中に、零細工場の経営に失敗した沖田(高倉健)、過激派くずれの古賀(山本圭)、沖縄出身の大城(織田あきら)という、暗く屈折した犯人たちの人物像を描き込んだところ。従って特撮で描かれた新幹線の様子に加えて、彼らと捜査陣や国鉄職員とのやり取りも見ものとなる。

 公開当時、日本では爆発的なヒットはしなかったものの、フランスで『Super Express 109』として短縮版が公開されて大ヒットを記録。逆輸入の形で改めて日本でも公開された。

 「爆弾は、あるスピードに減速すると爆発する」というアイデアはハリウッド映画『スピード』(94)にも応用されたが、佐藤監督は、助監督に付く予定だったが幻に終わった、黒澤明監督の『暴走機関車』からの影響を明かしている。

 ラストシーンの警察に追い詰められた高倉健のバックに流れる青山八郎の哀愁に満ちた音楽が胸にしみるのは、新幹線の描写にも増して人間ドラマが深く描かれていた証しだ。

(田中雄二)

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