取材に応じる大阪大の松本博志教授=4月8日、大阪府吹田市 解剖医など死因究明の担い手不足解消のため、大阪大に設置された「次のいのちを守る人材育成教育研究センター」の本格運営が昨年夏から始まった。各地から受講者を受け入れており、センター長の松本博志教授(法医学)は「助手無しでも解剖や検査ができる人材の育成が急務だ」と意気込んでいる。
警察庁によると、昨年、全国の警察が取り扱った遺体は20万4184体に上るが、解剖率は9.8%にとどまる。都道府県別で最も高い兵庫県は24.9%だった一方、最も低い広島県は1.9%と地域差が大きい。解剖医の数は増加傾向にあるものの、昨年4月時点で全国で173人だけで、うち9県には1人しかいないのが現状という。
事件性が疑われる遺体の司法解剖を長年引き受けてきた松本教授は「外科や内科、器官ごとに専門が分かれている臨床医に対し、法医学者は全身の状況を確認し、診断しなければならない」と説明。その上で「法廷に立って遺体の状態を説明し、弁護士や検察官から厳しい追及を受けることもある」といい、こうしたことが解剖医のなり手が少ないことに影響しているとみている。
同センターは、あえて大阪大の法医学教室と切り離して設置され、全国の人材育成拠点を目指している。3部門から成り、人材育成部門は医師だけでなく、医療・法曹関係者のリスキリング(学び直し)の場にもなっており、昨年度は千葉県や福岡県など各地から51人が受講した。
社会公共政策部門は、死因解析から保健行政に資する政策提言などを行う。最先端データ開発部門は、慎重な取り扱いが求められる死因データの利活用に関する倫理指針やガイドラインの整備、薬物関連死や突然死などの死因データ解析を行っている。