
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。総製作期間22年! 変貌する中国とふたりの男女の物語
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『新世紀ロマンティクス』評点:★4点(5点満点)
多彩な映像がもたらす時間の感覚
人間は歳をとり、老いて、やがて死ぬ。というのは当たり前以前のことのように思えるが、そういう長期的な枠組みは日々のサイクルの中で獲得される時間の感覚とは隔たりがあるのでなかなか実感しづらい。
映画はさまざまなやり方で時間を圧縮することで、普段感じづらい長い時の流れを提示することができる。
2001年から撮り貯めていたという映像を縦横無尽に組み合わせた本作がもたらす「時間」の感覚は圧倒的だ。
20代から40代へと移行する登場人物の姿だけでなく、ほとんどモンド映画的に挿入される市井の人々の姿や、なんということのない景色の移り変わりからもそれがひしひしと感じ取れる。
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独特なカメラワークをはじめ、さまざまな技巧を凝らした映像表現も興味深く、改めて映画表現の持つポテンシャルや自由さがもたらす「楽しさ」にも気づかされる。それは一定の「ルール」を設けないことから来る楽しさだ。
また、時代の変遷が、すごくダサい歌謡曲を次々と暴力的にぶち込むことで表現されているのもとても面白い。映像もそうだが、そこには揺るぎない自信と、表現が持つ力への信頼が表明されており、その瞬間「ダサさ」は美へと変貌を遂げるのである。
STORY:新世紀を迎えた2001年。長江・三峡ダム建設のため、百万を超える人々が移住を余儀なくされた2006年。目覚ましい経済発展を遂げた2022年。チャオとビン、ふたりの恋人たちの関係と比例するように、街は変化していく......
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、リー・チュウビンほか
上映時間:111分
5月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにて全国順次公開予定
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