濱口竜介監督「パリで撮影の準備」世界待望の新作映画「急に具合が悪くなる」製作発表26年公開

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2025年05月07日 11:00  日刊スポーツ

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新作映画「急に具合が悪くなる」の製作を発表した濱口竜介監督と、主演のビルジニー・エフィラ(中央)と岡本多緒

濱口竜介監督(46)が、新作映画「急に具合が悪くなる」を製作することが決定した。配給のビターズ・エンドが7日、発表した。


23年9月に世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭(イタリア)で審査員グランプリ(銀獅子賞)を受賞し、24年4月に公開した映画「悪は存在しない」以来の新作で、フランス、日本、ドイツ、ベルギーの国際共同製作。同監督は今夏の撮影に向けて現在、フランスのパリで準備中で、26年の全国公開を予定している。


「急に具合が悪くなる」は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者の宮野真生子氏と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者の磯野真穂氏が、20年の学問キャリアと互いの人生を賭けて交わした20通の往復書簡を元にした同名の共著(晶文社)が原作。濱口監督は「宮野真生子さん、磯野真穂さんの著作『急に具合が悪くなる』の映画化をここに発表できることを、とてもうれしく思います。原作者のおふたりにも、この場を借りて、心よりの御礼をお伝えしたく思います」と原作者の両氏に感謝した。


製作の経緯については「今はパリで撮影の準備をしております。約4年前にオフィス・シロウズの松田広子プロデューサーからこの本を映画原作として提案されてから、ずいぶん長い時間を経ました」と説明。原作については「おふたりの往復書簡から成るこの本を初めて読んだときの感覚は『心を強く動かされた』という言葉では足りません」と評した。その上で「往復書簡という形式、しかも二人の学者の全キャリアと魂を懸けたような議論に対していったいどう取り組んだらよいかは、まったく見当はつきませんでしたが『映画にしたい』という火が心に灯ったような感覚がありました。その灯火に導かれて、随分と遠くまで来てしまったように思います」と、原作を映画にしたいという、断ち難い思いがあったと吐露した。


自ら手がける脚本については「映画『急に具合が悪くなる』はフランスの介護施設のディレクター・マリー=ルーと、がんを患う日本の劇演出家・真理の間にとある偶然から生じた、出会いと交流を描く物語になります」と説明。「どうしてこうなったのか、短くは決して説明できないというのが正直なところです。ここまでの曲がりくねった歩みを要約することは不可能に思えます」とした上で「なので、自分を導いてくれた原作の一節を書きつけることにします」として原作の1部を紹介した。


「関係性を作り上げるとは、握手をして立ち止まることでも、受け止めることでもなく、運動の中でラインを描き続けながら、共に世界を通り抜け、その動きの中で、互いにとって心地よい言葉や身ぶりを見つけ出し、それを踏み跡として、次の一歩を踏み出してゆく。そういう知覚の伴った運動なのではないでしょうか」


主演は、フランス映画界最高峰のセザール賞で主演女優賞に輝いたベルギーの俳優ビルジニー・エフィラ(48)と、女優・モデル・映画監督のTAOこと岡本多緒(39)が務める。濱口監督は「マリー=ルーをヴィルジニー・エフィラさんが、真理を岡本多緒さんが演じることになります」と2人の演じる役どころを説明。「お仕事を以前から存じてはいたものの、まさかこうしてご一緒できる機会があるとは思っていなかったおふたりなので、とても興奮しています」と2人を主演に起用した理由を明かした。そして「今夏、最高のキャスト・スタッフと撮影する映画『急に具合が悪くなる』が、原作の引いたラインをさらに延ばしていくものとなるよう、自分にできることは何でもやるつもりでいます。どうぞ、ご期待ください」と撮影に向けた意気込みをつづった。


濱口監督は、24年10月に横浜市内の母校・東京芸大大学院映像研究科映画専攻設立20年記念上映会でトークショーの質疑応答で新作について聞かれた際は「準備しているものがあります」と即答。「来年、撮られて再来年、ご覧いただける状況があれば、いいなと思ってやっています」と語っていた。具体的なことについては言及しなかったが、明かした撮影、公開時期の見通しからも「急に具合が悪くなる」のことを示唆していたとみられる。


◆濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)1978年(昭53)12月16日、神奈川県生まれ。東大文学部に入学後に映画研究会に入った。卒業後は助監督の見習いを経て、テレビ番組の制作会社で経済番組のADを務める。05年に東京芸大大学院映像研究科が設立されることを受けて制作会社を辞めて受験したが落ち、06年に再受験して入学。黒沢清監督(69)に師事し、08年の修了制作「PASSION」がサンセバスチャン映画祭(スペイン)に出品。


15年の「ハッピーアワー」がロカルノ映画祭(スイス)をはじめ数々の国際映画祭で主要賞を受賞し、国際的な評価を高める。18年に「寝ても覚めても」が、カンヌ映画祭(フランス)コンペティション部門に出品。20年には黒沢監督に企画を持ちかけた「スパイの妻」で、野原位氏とともに企画と脚本を担当し、同監督はベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。


21年には「偶然と想像」がベルリン映画祭(ドイツ)審査員グランプリ(銀熊賞)、「ドライブ・マイ・カー」がカンヌ映画祭で邦画初の脚本賞、翌22年には米アカデミー賞で国際長編映画賞を、それぞれ受賞。「悪は存在しない」でベネチア映画祭を制し、黒澤明監督以来となる世界3大映画祭とアカデミー賞を合わせた主要4映画賞の完全制覇を、わずか2年半で成し遂げるなど、今、世界で、その動向が最も注目される日本人監督と評価されている。

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