
Aさんの勤める会社の経営状況は、このところ下降線をたどっており赤字決算のニュースが社員たちに重くのしかかっていました。Aさん自身も昇給が見送られ、ボーナスも減額されるなかで「定年まで勤め上げられるのだろうか」と不安を抱えています。
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そんなある朝、社長から全従業員に対して緊急の招集がかかります。重々しい口調で社長が告げたのは、厳しい現実でした。会社が長年のライバルであった企業に買収され、その完全子会社として再出発するというのです。子会社化に伴う組織再編と経営合理化の一環として、全従業員の基本給が一律10%削減されるというのです。
社長の告げた内容は到底納得できるものではありませんでした。なぜ給与が一方的に引き下げられるのか、生活への直接的な影響を考えると、Aさんは目の前が暗くなるような感覚でした。
とはいえ会社の経営が厳しかったことは事実です。買収されなければ、倒産していた可能性も否定できません。しかし生活の基盤である給与の削減を、ただ「仕方がない」と受け入れ黙って従わなければならないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
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ー子会社化や合併によって社員の待遇が変わることはあるのでしょうか
子会社化や合併によって待遇が変わることは、残念ながら実際に起こり得ます。私自身も過去に勤めていた会社が合併したり子会社化されたことがあり、待遇の変更を体験しました。
ただし、給与や福利厚生といった従業員の労働条件を不利益に変更する場合には、会社側には「客観的に合理的な理由」があり、その変更が「社会通念上相当」であること、そして何よりも、なぜ変更が必要なのかを従業員に対して丁寧に説明する責任があります。
単に「親会社に合わせるため」といった理由だけで一方的に給与を10%削減することが、必ずしも正当なものとして認められるわけではありません。その理由が客観的かつ具体的であり、従業員が理解できるよう十分に説明されなければならないのです。
ー待遇の改悪は受け入れないといけないのでしょうか
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給与の引き下げのような重大な労働条件の不利益変更は、労働契約法上、非常にハードルが高いとされています。会社側は、なぜ給与を下げなければならないのか、その必要性と合理性を従業員に対して具体的に、かつ客観的なデータなどを用いて説明しなければなりません。
従業員としては、会社側の説明をよく聞き、疑問点を解消することが大切です。その上で、提示された変更内容がやむを得ないものなのか、あるいは一方的なものなのかを判断しましょう。最終的にどうしても納得できない場合や、会社側が十分な説明責任を果たさないと感じる場合には、労働組合や外部の専門家へ相談することも選択肢です。
ーAさんにできる対策はありますか?
1人で悩まず、まずは同僚と状況を共有し、疑問点や不安な点を整理することが大切です。そのうえで、個別に会社と交渉するよりも、労働組合があれば組合を通じて、なければ有志でまとまって会社側と話し合いの場を持つことが有効です。会社に対して説明を求めたり、話し合いの場を持つことを検討しましょう。
話し合いの際には、単に不満をぶつけるだけでなく、会社側の事情にも耳を傾けつつ、従業員の生活への影響を最小限にするための代替案を示すなど、労使双方にとってより良い着地点を探る姿勢が重要です。必要であれば専門家のアドバイスを求めることも有効な手段となるでしょう。
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◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)