写真バカリズムが脚本を手掛け、大きな話題を集めた冬クールドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)。
同作で主人公・清美(市川実日子)が葉月(鈴木杏)、美波(平岩紙)らと食事をする行きつけの店として1話から登場していた、山梨県富士吉田市にあるレトロな喫茶店『もんぶらん』が聖地と化し、連日行列ができるほどの大盛況。
また、同じく富士吉田市内の『青龍飯店』『いちやまマート』や本町通り、金鳥居にもドラマファンが集まっており、聖地巡礼で賑わっている。
◆日本各地に存在する聖地巡礼の名所
ドラマの聖地巡礼といえば、近年の作品では川口春奈、目黒蓮主演の『silent』(フジテレビ系)でたびたび登場した世田谷代田駅周辺エリア、井上真央や松本潤、小栗旬らが出演した『花より男子』シリーズ(TBS系)に登場した恵比寿ガーデンプレイス、のん(当時・能年玲奈)主演の朝ドラ『あまちゃん』(NHK)の舞台となった岩手県久慈市エリアなどに多くのファンが来訪。
過去の名作ドラマでいえば、『北の国から』シリーズ(フジテレビ系)の北海道・富良野エリア、『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系)の東京・足立区の荒川土手エリア、『ロングバケーション』(フジテレビ系)の東京・江東区にある新大橋、『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ系)の東京・お台場エリアなどが有名だ。
こうした事例から、ドラマの聖地巡礼は観光客の誘致や地域活性化につながるプラス要素しかないように思えるのだが、実際のところはどうなのだろうか?
ドラマ業界の関係者やスタッフ、脚本家にドラマ聖地巡礼についての是非を聞いた。
◆制作側・ロケ地ともにWin‐Winの関係に
キー局の元ドラマプロデューサーで現在はコンテンツ部署で働く50代男性社員・A氏は語る。
「プラスになっていることは多いですよ。ドラマ制作側の視点でいえば、昨今は制作費が限られており、凝ったセットを作ることが難しくなっている。なので、実際の店舗や施設を利用できれば予算が浮くというメリットがある。
ロケ地側も喜んでくれていて、『silent』で登場した世田谷代田駅は定期以外の乗降者数が23%増加し、駅周辺の賃貸物件契約数も大幅にアップしたそうです。
また、ロケ地誘致の取り組みを積極的に行うべく、フィルムコミッション事業部を立ち上げる地方自治体も増えており、ロケ地側からオファーがあるケースもあるぐらいです」
◆撮影中にファンが押し寄せる迷惑行為も……
聖地化がロケ地や自治体から受け入れられていることを認めつつも、A氏はこう続ける。
「もちろん、マイナスもあります。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)では撮影中にロケ地周辺にファンが押し寄せて、公式サイトで注意喚起が促されたことがあった。ファンが近隣の道路や民家の前を塞いでしまう事態になっていたそうです。
ドラマはオンエア中に中盤話以降の撮影をするケースがほとんど。なので聖地巡礼をされると、撮影の邪魔や近隣トラブルになるケースが多々ある。
以前は、実在のロケ地や地名を伏せていればそういったトラブルは少なかったのですが、最近はSNSで『××でロケをしている』『二人が出会ったカフェは×××』といった特定コメントが後を絶たず、撮影に苦労していますね」
◆集客効果が見られず、ロケ地から恨み節
ドラマ制作会社に勤務する40代女性プロデューサーのB氏にも話を聞いた。彼女は、聖地化を狙ったドラマに乗り気ではないようだ。
「『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』(ともにTBS系)のヒットによって、各局で地域にスポットを当てるドラマを作る流れがあったのですが、どれも視聴率が振るわずヒット作にならないことが続きました。
自治体の方々はすごく好意的に協力してくれたのですが、撮影後に『数日間店を貸し切ったのに、集客効果がなかった』『今度撮影があっても断る』といった厳しい言葉をもらいました。
我々としても生半可な気持ちでは作っていなかったのですが、結果がすべて。申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたね……」
◆サスペンスドラマと知らずイメージダウンに
「また、サスペンスドラマを撮ったときは事前にドラマの内容を伝えきれていなかったせいで、『町のイメージが下がった』『殺人事件が起きるなんて聞かされていなかった』と言われたこともありました。局や制作会社が自治体とうまくやり取りをできていなかったんです。
今はこうしたことが起こらないように事前にストーリー概要を伝え、ロケ地が撮影後どれぐらい混雑するのか予測を立てるなど、最善の配慮をしているそうです。
『ホットスポット』はかなり慎重にロケ地選びをしたそうなので、そこまでトラブルは起きないとは思います。ただ、私がもう一度聖地巡礼を狙うドラマを作りたいかと聞かれると“もういいかな”というのが本音です」
このようにロケ地から恨み節を言われることも少なくないようで、制作側も苦労や悩みを抱えているようだ。
◆聖地を登場させるために脚本を改変するハメに
最後に、脚本家にも聖地巡礼ドラマについて聞いた。アニメやラブストーリードラマを手掛けてきた40代の女性脚本家・C氏はこう嘆いた。
「とある地方都市を舞台にしたラブコメディドラマの脚本を作っていたのですが、『〇〇橋』で告白するシーンを書いてほしい、主人公たちの溜まり場となる場所を各話に入れてほしいという無茶ぶりをされて、筆が止まってしまったことがありました。
ロケ地がある自治体からの要望だったようで、その通りにシーンを入れ込みましたが当初のストーリーとは違う流れになってしまって歯がゆい気持ちになりましたね。
もちろんロケ地があってのドラマなので、私の力不足と言われたらそこまでですが、聖地を作るためにドラマを書くのはちょっと違うのではと思いました」
と書き手の苦しみを吐露した。
視聴者やドラマファンによる作品の聖地巡礼は、地域活性化や作品を盛り上げるプラス要素になっているが、一方で過度な混雑や迷惑行為、撮影トラブルや作品自体のクオリティーを下げるマイナス面もあるようだ。
ライター/木田トウセイ
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。