「ごみを売るのか」――。
タオル染色工程で生じる廃棄物を活用した「今治のホコリ」は、社内の反発を受けながらも商品化にこぎつけた。カラフルな見た目の着火剤は、2022年2月の発売直後から注目を集め、翌年には当初の20倍の売り上げを記録するなど話題を呼んだ。
キャンプブームが落ち着きつつある中、「今治のホコリ」はどうなっているのか。製造元の西染工(愛媛県今治市)に話を聞いた。
「今治のホコリ」は名前の通り、染色したタオルを乾燥させる際に出るホコリを活用した着火剤だ。通常は火災の危険性から厄介者とされるこのホコリを、火が付きやすい性質を逆手に取って商品化した。
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染色した色ごとに分けて乾燥機を使用するため、赤いタオルからは赤いホコリ、青いタオルからは青いホコリが発生する。これらを色分けして透明なケースに手作業で詰め、カラフルな見た目に仕上げる。
石油系着火剤にはない鮮やかな色彩と、嫌な臭いを発しない天然素材の特性に加え、燃えかすが少ないという実用性が、コロナ禍のキャンプブームと相まって支持を広げた。
「売り上げは2023年がピークで、2024年は少し落ち着いた」と開発を担当した福岡友也さんは語る。背景には、キャンプ市場の変化がある。
『レジャー白書2024』によると、キャンプ人口は2022年にピークを迎え、キャンプ関連用品需要も2023年にピークを迎えたとあり、コロナ禍後の特需が一段落したことが見てとれる。
●オリジナルのアウトドアブランドを立ち上げ
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かつてほどの勢いは失われたものの、当初からターゲットにしていた女性や家族連れの利用者からは、継続的な支持がある。コアなキャンパーは無骨さを好む傾向があるが、家族で楽しむキャンパーには今も一定の人気がある。
また、カラフルな見た目を生かして、贈答品や部屋のインテリアとしての需要も根強い。キャンプイベントなどでも販売しており、プレゼント用として購入されることが多いという。
「今治のホコリ」を発売するにあたり、同社はアウトドアブランド「THE MAGIC HOUR」を立ち上げた。卸問屋を通さない戦略で展開しており、自社のブランドコンセプトを理解した店舗に直接販売しているほか、キャンプイベントへの出店で消費者と接点を生み出している。
短期的な売り上げよりもブランド価値の構築を重視しており、福岡さんは「ゆくゆくはスノーピークのような存在になりたい」と語る。
現在、同ブランドの主力商品となっているのが、2023年に発売した「タオルシュラフ」だ。タオルケットをシュラフ(寝袋)の形にした商品で、当初は洗えるシュラフとして、夏場のキャンプ用として企画したが、予想を超える反響を呼んでいる。
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●タオルシュラフの売れ行きが好調
タオルシュラフは、夏の需要に加え、冬用シュラフのインナーとして活用されるなどコンスタントに売れ続けている。西染工ならではのタオル生地の質感と、コットンという天然素材の良さが差別化のポイントになっている。
「一般的なシュラフの化学繊維特有のシャカシャカ感が苦手な人や、洗濯のしやすさを求める人のニーズを捉えたことが好調な要因」と福岡さんは分析する。
広げた状態で2枚合わせにできるようにしたことで、ファミリーキャンプでも使用しやすい仕様とするなど、機能面でも工夫した。親子で一緒に使えるという提案は、家族でのキャンプを楽しむユーザーに響いた。タオル製造の工程を熟知しているからこそ可能になる製品開発が、同社の強みとなっている。
また、アパレル製品として「nishiデニム」も展開している。カバーオール(2万8600円)、プルオーバーシャツ(1万3200円)、スモック(1万7380円)など現在5つのラインアップで、これらも社内で一貫生産している。
糸の中心が染まらないような染め方をしているため、着込むほどに中の白い色が浮き出てくる。一般的な衣類とは異なり、ジーンズのような経年変化を楽しめる仕様だ。アパレル商品を拡充する意図について、福岡さんは「今治タオルメーカーとしての技術力を示したい」と語る。
日本のアパレル業界では海外製造が主流だが、日本製にこだわることでブランドイメージの向上を図る考えだ。
独自性の高い同社の商品は、海外からも注目されている。韓国や台湾からの引き合いもあるが、海外輸出の経験がないことが現状の課題となっている。
●「ペット」「ベビー用品」市場にも参入
新たな市場への展開も進めている。アウトドアイベントでのペット同伴率の高さに着目し、ペット専用の拭き取りタオル「pet towel」(3520円)を販売している。岡山理科大学いきものQOL(動物の福祉やQOL〈生活の質〉向上を追求する研究機関)と、愛媛県産業技術研究所との産学官が連携し、約2年半をかけて開発した。
風呂上がりの犬を拭いたときに付着する毛がタオルに絡みにくく、洗濯時に取れやすくなっているのが特徴だ。発売当初は、フェイスタオルサイズでありながらバスタオル並みの価格設定に不安もあったが、想定以上の反響を呼んでいる。
さらに、オーガニック国際認証(OCS)を取得している強みを生かし、商品開発を推進している。3月から、オーガニックコットン100%で編み上げたベビーグッズを展開。帽子、手袋、靴下の3点セット(3万3000円)を、ピンク、イエロー、ブルー、無染色の4パターンで販売している。
西染工は「今治のホコリ」をきっかけに、新たな商品展開を進めている。アウトドア、アパレル、ペット、ベビー用品と多角的に商品ラインアップを拡充。染色工場としての技術を基盤に、環境に配慮した製品づくりとブランド構築を進めている。伝統産業が持つ技術力と創造性が、新たな価値を生み出そうとしている。
(カワブチカズキ)
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