
【写真】 丸山隆平「俺、こんな顔してたんや」 役者として新境地を開拓! 撮りおろしカットギャラリー
■丸山隆平の役作りとは? 「日常からどんどん自分が役に侵食されていくのが理想形」
『東京リベンジャーズ』などで助監督を務めた古川豪の長編映画初監督作品となる本作は、脚本完成まで11年かけて試行錯誤したという並々ならぬ思いが詰まった一作。ゆえに、丸山は演じる“差入屋”金子真司に監督自身が投影されていると思い、クランクイン前から監督と会話を重ね、お互い出生や環境、これまでの歩みを知ったのだという。後にそれは丸山にとって「役作りの一つだったよう」と古川監督は振り返り、丸山も「自分にとって有効な養分でした」と語る。完成を観て「俺、こんな顔してたんや」と思ったという丸山。監督が生み出そうとした主人公・金子真司という人物が、丸山本人さえも新鮮に感じた自身の新たな“顔”で体現されている。
――本作での主演、そして主人公・金子真司を演じることが決まったときのお気持ちを聞かせてください。
丸山:こういったヒューマンドラマ作品への出演は少なかったので、一つ挑戦だなと思いました。それと、古川豪監督の長年の思いや日本の「差入屋」という職業に対してのカルチャーをどう切り取るかということも含め、いろいろな思いやメッセージ性が詰まっている作品に参加させていただけるのは、とても光栄なことだなと胸を躍らせました。ただ、そうした思いをしっかりとキャッチして、こちらも打ち返さなければいけないというプレッシャーや責任感も大きかったですね。金子はアウトロー、社会に反したことがある人間で、物語のなかで彼の性質とそうなった理由がひもとかれていくんですが、僕自身、こうした役に向き合うことへの40代の一つの覚悟みたいなものもありました。
――丸山さん自身、「差入屋」という職業は知っていましたか?
丸山:知らなかったので、テーマとして興味深かったです。とても日本特有の職業だなと感じました。刑務所・拘置所によってルールが違って、差し入れ店はそのルールに沿ったノウハウを覚えて仲介を行うんです。場所によってルールが違うことも全く想像してなかったですし、差し入れられるものに決まりがあったり、そういう店のサイトでは差し入れられるものがAセット、Bセットみたいに載っていたり、思っている以上に面会を取るのが難しかったりもするんです。改めて「差入屋」の勝手を知ると、確かにこれは一般の人はすぐに対応できない難しいものなんだなと思いましたし、映画のキャッチコピーでも“差し入れるのは、小さな希望。”と言っているんですけど、物理的なものだけじゃない、いろいろなものを差し入れてるんだなということも分かりました。もちろん、この作品の中では被害者の方がいるということにも目を向けているので、全て地に足のついたとても質のいい作品だなと思いました。
――今回の役に取り組まれる上で、どのような準備をされましたか?
丸山:毎回試みていて、自分の中ではルーティーンになっているんですけれど、「今日1日、金子で過ごそう!」みたいな“ごっこ”的な感じで、日常の中に役を共存させて体現することをやっているんです。それをオフの日や現場に迷惑かからない日にやって、頻度を増やしていくなかで、人と接している時にいつもと違う自分が出てきたら、「これ、金子かな?」と感じるというか…。そんなふうにどんどん自分が役に侵食されていくのが、僕の理想形ですね。それがわかりやすかったのは、酔っ払っていた時。そうした一番自分の素が出るような時に何かに引っかかって言葉を発して、「あれ? いつもこんな言い方してたっけな?」と感じることがありましたね。僕と金子がミックスされたように生きていた時期の沸点は低めで、法的に問題のない範囲内でつっかかり癖がありました(笑)。それと、撮影に入る前に監督とお話しする時間があったので、役の解釈にズレがないかを確認して微調整しながら自分の中で育てていくことができました。
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――丸山さんが芝居をするときに最もこだわることは?
丸山:観ている人が違和感なくナチュラルに感じられることですね。この作品でいえば、観ている人が「差入屋」という職業を知らなくても、これだけストレスを抱え、社会からいろいろな目で見られて、近所から後ろ指をさされる場合もある職業だけど、人のためにもなっているし、やりがいもあるということを、見た目の物理的な違和感も排除して届けられたら一番理想だなと思いますね。そう思いながら、どれだけ緻密に大胆に役にアプローチできるかを考えました。
――監督ともそうした違和感をなくせるよう話を積み重ねていったんですか?
丸山:そうですね。監督は現場では方位磁石の指針なので、違和感だと思ったら、方向が違うと思ったら修正してもらいました。
――古川監督の印象をお聞かせください。
丸山:よく動く、よく気がつく監督だなって思いました。助監督としても重宝されるぐらい現場を円滑に回す役割もできる方なので、現場で先導しながら、動いちゃうのを我慢しているような印象でした。それと、監督の人間らしい部分が人を惹きつけているんだなと思いました。モニターで芝居を見終わった後に、監督が人知れず涙を拭いてたんです。それを見て、監督の描いていることが映像で体現できたんだなと思いました。だから重い、演じる側からすると(苦笑)。でも、そうしたいと思わせてくれる人ですね。あんな大男が涙を流しているのを見たら、こっちもグッとくるというか…弱いですよね(笑)。そういう人間味のある監督だからこそ、現場には「この人の長編初監督作品をいいものにして、彼の代表作にするんだ!」というみんなの思いが充満してましたね。熱量が高くて、いい現場でした。
――今回、初の父親役を演じられましたが、金子の息子・和真役の三浦綺羅さんや妻・美和子役の真木よう子さんとの家族の雰囲気や距離感はどのようにできあがっていきましたか?
丸山:僕自身、親やきょうだいと一緒に生活して独り立ちをしましたけど、家族ってワンチームなようでいて意外にそれぞれバラバラなんですよね。差別ではなく、男女というだけで性質や思考も違うから…家族一人一人、孤独なんですよね。金子家も子どもは子どもで言えない悩みがあり、妻は妻で、真司は真司で悩みがあるんです。もし金子家が絵に描いたように仲睦まじい家族だったら、そういう家族の雰囲気を構築できると思うんですけど、今回はそうした仲の良い空気を作ろうというようなことを、みんなが努めてしていなかったです。でも、(金子真司の伯父・星田辰夫役の)寺尾(聰)さんは、撮影以外でも綺羅に自然に絡んでいましたね。綺羅も含めてみんながプロフェッショナルなので、家族の雰囲気作りを意図してやっていた人もいれば、感覚でやっている人もいてやり方は人それぞれですが、家族って一見ひとつに見えるけどバラバラ…という距離感が自然とできていました。
綺羅と役以外でそんなに絡んでないですけど、共演者として普通にご飯を一緒に食べたり、僕が楽器をやっているのを綺羅が知ってくれていて、「ギターをこれから始めたいんだけど…」と言っていたので、「俺、ベースやけど、ギターもやってたから話を聞くよ」という話をしたり、「寺尾さんにそれ聞いてみたら?」と言ってみたり…そんな話をしていました(笑)。食卓のシーンの中心になっていたのも綺羅でしたね。(二ノ宮佐知役の川口)真奈ちゃんも一緒に食卓を囲むシーンがあって。綺羅が率先して今流行ってるTikTokの面白動画のマネをして、それをみんなで一緒に本番でやったりしたことも(笑)。食卓のシーンは結構フリーだったので、いい距離感の関係性がにじみ出たんじゃないかなと思います。
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丸山:金子も一度罪を犯した人間だけど、小島と接するなかで、目の前の人間と自分の何が違うんだみたいなことを、改めて自問自答のように問いかけられるようなセッションだったと思います。小島は他人ではあるけど、他人事とは思えない特異な感じがしたんです。そう感じたのは、きっと北村さんの中で独自のレシピで作ったあの芝居だからだったと思います。小島って違和感が出やすい役だと思うんです。やりすぎてしまうし、形に走った方が楽だけど、北村さんにはそうしたものに逃げている感じが当然ありませんでした。古川監督も北村さんの演技を大絶賛していて、ちょっと嫉妬しましたね(笑)。技術もそうだし、キャリアだけじゃない彼の苦しんできたものっていうのが役でアプローチできるそのすごみは、時間を経てじわじわ感じられるというか…。あの時、役として北村さんと対話できたことが僕にとって財産になっている気がします。
■「学ばせてもらった」 丸山が大事にする父の言葉とは?
――改めて、本作をご覧になっていかがでしたか?
丸山:映画を観た感想は、「俺、こんな顔してたんや」ですね(笑)。僕は、現場でモニターチェックはできるだけしないようにしているんです。見ちゃうとその時の芝居を追いかけてしまったり、これよりもちょっと…と欲が出てしまったりするんです。とにかく監督が現場でおっしゃることを体現することに集中して演じているんですが、その結果、「こういう表情してるんだ」って思いましたね。
――本作では自分でも新鮮に感じる表情が多かったんですか?
丸山:そうですね。今回は物語が進んでいくにつれて、ストレスも、重圧も、幸福度も…どんどん変わって丁寧に変化している作品なので、繊細に演じていくことが大事とされた気がします。これまでの作品とはテイストが違うので、求められるものも異なっていたんだと思います。
――本作で韓国の釜山国際映画祭に参加されてみていかがでしたか?
丸山:うれしかったですね。僕は、古川監督からにじみ出たものをみんなが何とかよいものにしようという現場の空気に乗っかって映画祭に行かせてもらって、「ほんまにうちの子よろしくお願いします!」っていう感じですかね(笑)。
――この作品が大きく広がっていきそうだなという予感はありますか?
丸山:日本の映画として、そうなるべき作品だと思いますね。各国の人が知らない日本のカルチャー、風習、民族の生活が描かれていることが面白いですし、「差入屋」は日本特有の職業だと思うので、日本のことや日本人の慈悲の心とか…いろいろな受け取り方ができる作品と思うので広がっていってほしいなと思いますね。
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丸山:そういう側面もありますね。金子家だけじゃなく、加害者側の親子関係もありますしね。
――“親子”にちなんで、丸山さん自身、ご家族の言葉で何か心に残ってることはありますか?
丸山:小っちゃい頃から父が言ってたのは、「謙虚でいなさい」ということですね。良い評価をされたとしても控えめにして、もっともっと精進しろということだと思うんですけど、その言葉は印象に残っていますね。僕も極力はそのように努めるようにしているんですけど、SUPER EIGHTとして、アイドルとして歴を重ねてくると、あまりへりくだりすぎてもいやらしい、嫌味っぽい感じになるんですよね(苦笑)。謙虚さの形が立場と年齢によって変わってくるというか…。謙虚の意味合いが年齢とキャリアとともに変わるということもこの言葉から学ばせてもらったので、とても意味のある言葉を父がくれたなって思います(しみじみ)。それは印象に残ってますね。今でも謙虚さの塩梅はやっぱり難しいです。
(取材・文:齊藤恵 写真:高野広美)
映画『金子差入店』は、5月16日公開。