大きな存在となって帰ってきた。女優の芳根京子(28)が、フジテレビ系「波うららかに、めおと日和」(木曜午後10時)で女優デビューした木曜劇場に主演として凱旋(がいせん)した。朝ドラヒロインを経て着実にキャリアを積み、堅実な演技力と飾らない人柄で今や引っ張りだこ。デビューから12年。出会いを大切に、歩みを進めてきた。【望月千草】
★モノローグ思い切って
朝早くから半日近く、役衣装の着物で生放送をはしごした後のインタビューだった。体の疲れを聞くと、おなじみの愛嬌(あいきょう)ある笑みを浮かべた。「撮影の時も1日着ているので大丈夫です。ありがとうございます」と口角をキュッと上げてほほ笑む。明るくて柔らかい物腰。まさに“うららか”な空気感が漂う人だ。
今作「めおと日和」は、昭和11年、縁談により交際0日で結婚した夫婦の物語。純真な主人公・なつ美(芳根)と、海軍勤めの硬派な夫・瀧昌(本田響矢)が手を取り合い、少しずつ距離を縮めていく姿が描かれる。
何事も前向きな主人公の人物像と芳根は似通う。自身も「目の前のことに一生懸命というのは、とても気持ちが分かるので演じていて楽しいです」と共感を寄せる。
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原作は人気漫画。その世界観を守ることに意識を置きつつ、「自分から生まれてくる『こういうのどうだろう?』って考えを監督に相談したりして、なつ美が生身の人間で生きるにあたって、魅力的になるといいなって思いながら演じています」。生き生きと動く“なつ美”を体現している。 「瀧昌さん」こと夫役の本田とは初共演。互いをよく知らないところからのスタートだった。役柄同様、自然な時間の流れの中で互いを知り、信頼関係を築いた。年上の芳根が見守る立場にまわることもあり、今では「おかんです」と笑う。天然な性格の本田は作品チームにとっても「癒やし」の存在。「本田君は不器用というか、恥ずかしくなると顔が真っ赤になっちゃうような純粋な男の子。私はその彼にすごく救われています。伸び伸び育ってほしいと、おかんは思います(笑い)」。
今作はレトロなラブストーリー。2人の純粋でぎこちない姿に心くすぐられ、保護者のように見守る視聴者も多い。
「今回はモノローグ(心の声)がとにかくたくさんある作品。モノローグの時にちょっと思い切ってやってみたり、瀧昌さんはそのギャップがキュンポイント。2人でのお芝居が多いからこそ見ている方が飽きないような、クスッと笑えるような場面がつくれたら良いなと思ってトライしています」。SNSでは「こんなドラマ待ってた」「かわいすぎる2人」などと好反応が続々。放送を重ねるごとに反響が大きくなっている。
★日々小さな幸せ気づく
家族や友人とすぐに連絡を取ることができる現代とは違い、スマートフォンもSNSも存在しない時代の物語。2話では海軍勤めの瀧昌が仕事の都合で2カ月間も家を空け、待ち続けた末ようやく1通の電報が届く。
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「今の時代の当たり前が当たり前じゃないし、言葉の1つ1つが今以上に重たい。『行ってらっしゃいませ』と言っても、本当に帰ってこれるのかも分からないような時代。だからこそ純粋な恋愛にもなるし、一瞬一瞬を大切にする。日々、小さな幸せってたくさんあるなって気付かせてくれる作品です。ムズムズ、キュンキュンしてもらえたらいいなと思います」。当たり前に思えてしまう日常の尊さや、いとおしさ1つ1つが画面いっぱいにちりばめられている。
★出会いを大切にしたい
物語は縁談から始まる。出会いの手段が多様化した現代では、なじみのない方法だが「運命ですよね。出会うべくして出会ったというか。だから、より一層いとおしい2人だなと思います」と受け止めた。
自身も運命や縁は信じるほう。「出会いは大切にしたいと思っているタイプ」という。
「この作品に、今出会えていることもやっぱりご縁があってだし、年齢も違っていたら出会うことがないと思うと運命だなとも思います」
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女優デビューから12年。振り返れば、必要な時に必要な縁に恵まれてきた。
デビューは13年に放送されたフジ系木曜劇場「ラスト シンデレラ」。当時はまだ高校生。学校を早退し制服のまま撮影スタジオへ向かったこともある。大人になった今では、デビューを飾った同じ枠を主演として支えている。
「すごいうれしかったですし、それも今回やらせてもらいたいって強く思った理由の1つでした。『ラスト シンデレラ』の時と監督も同じで、同じ4月期。さっき話で言うと運命なのかなって思います」とかみしめた。
★「できません」はなしに
昨年の木曜劇場「Re:リベンジ−欲望の果てに」ではヒロインを演じたが、これも4月期。実力と人望とあっての出演だが、何かと縁があるように映る。
役も作品も、一期一会。役との出会いが自身の指針になったこともある。
「直近で言うと、この前TBSさんでやらせてもらったドラマのキャッチコピーの『逃げないことだけ、決めてみた』が良いなって思ったんです。その作品をやっている時はずっと自分の心の中で思っていたんですけど、これっていつまでもそれで良いんだなって思えたというか」
逃げないことだけ、それだけは今でも心に決めているという。
「答えが分からなくて悩む時もあるけど、1回逃げない。『これ無理なので、できません』は無しにしようって心がけています。だから食べ物の食わず嫌いもないんですよ(笑い)」
大きな壁でも小さな壁でも、乗り越えた経験がいつか必ず自分のためになる。そう信じられる原体験がある。
★喧嘩もマネジャー感謝
土屋太鳳(30)とダブル主演を務め、一人二役を演じた映画「累 −かさね−」(18年)。人気原作、実写困難ともされた世界観の作品。「あの時、私は『無理』って言ったんです」。当時20歳。自信がなく、おもわず逃げ腰になった。
「マネジャーさんに『できない〜』って反抗したら『できたらカッコいいよ』って言われて。『でも、できなかったらカッコ悪いじゃないですか!』ってけんかしたんですけど、やったら自分が成長できた。やって良かったって思った時、主観で『無理』って決め付けて逃げるのだけはやめようって思ったんです。マネジャーさんに感謝ですね」。
結果、同作と「散り椿」で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。1つ1つの“縁”から生まれた経験と自信が糧になった。「12年前よりもお芝居が好きだって思っているし、頑張りたいって思っています」。胸を張ってそう言える今がある。
★結婚「10代自分ごめん」
活躍の幅は広がり、主演女優として周囲を引っ張る立場になった。16年には朝ドラ「べっぴんさん」でヒロインを演じ、お茶の間に浸透。今や世代トップクラスの人気女優だが、駆け出しの頃は前室に入ることでさえ勇気が必要だった。
「(今作で妹役の乃木坂46)小川彩ちゃんが前室に入れなくて立っていたりする姿を見た時、12年前の自分を思い出したんです。私も入って良いのか、どこに座れば良いのかも分からなくかった。廊下で立っている方が楽だと思ってマネジャーさんの隣に立っていた記憶があります」
立場も変わり、芽生えたものもある。責任感、現場を俯瞰(ふかん)する力。だからこそ、後輩に対する寄り添いは忘れない。
「もし頼ってくれたら全力で助けたい。小さいことですけど『座りな〜』とか『差し入れのパンが来たから一緒に選びに行こう!』って声をかけたり、昔の自分がしてもらってうれしかったことはしたいし、する立場になった。今回の現場は年下の方も増えてすごく新鮮で、私も学びの日々です」
酸いも甘いも経験した20代を「すごく充実してました」と振り返った。約9年前の本紙インタビューによると、20代での結婚に憧れていたようだった。それを伝えると「そんなこと言ってたんだ!?10代の頃の自分ごめん」と笑い飛ばした。「思っていた20代ではないのかも知れないけど、充実していて楽しいので、幸せです」。
比例するように、30代への期待に胸を高鳴らせる。 「友人の百田夏菜子ちゃんから、30代になって初めて会う人や雑誌や作品があってお仕事の幅が広がった、という話を聞いてすごい楽しみになっているんです。これから舞台も始まるんですけど、20代はとにかくお仕事をがむしゃらに頑張りたいです」
今、自身が思う役者としての強みを聞いた。「なんだろうなあ」と頭をしばらく悩ませたが、その答えにもまっすぐな性格がにじんだ。
「お芝居が好きなこと。『お芝居楽しい』って本当に思っています。すごいたくさんの方に『ドラマ連続で大丈夫?』って心配して頂くんですけど、楽しいんですよね。あと、体力には自信がある(笑い)今の自分の強みはそこかな。好奇心も旺盛なので、いろんな事をやってみたい、見てみたい、触ってみたいって思います」
不思議なくらい、自然と熱量が湧いてくる。芳根は今、役者という仕事に夢中でたまらない。
▼「ラスト−」「めおと日和」演出の平野眞氏
(再タッグを組んで)久しぶりに会ってみると明るい立ち振る舞いは当時のままで、素晴らしいのはすごく謙虚であるということでした。スタジオセット初日に部屋を見学している芳根くんからこんな発言がありました。「こんなにすてきなセットを作っていただいたので私たちも応えていかなきゃですね」って。これにはちょっとびっくりしました。良い意味でも悪い意味でも変わっていった俳優さんをたくさん見てきましたが芳根くんは違ってましたね。
(磨かれたと感じる点は)一番は現場での存在感。今はスタッフのことも俳優部のこともまわりをよく見てくれています。現場の母まではいかないですが、太陽のように光輝いてくれています。あまり関係ないですが「おつかれ生です。」を生で聴けました(笑い)そうやっていつも現場を明るくしてくれます。
◆芳根京子(よしね・きょうこ)
1997年(平9)2月28日、東京都生まれ。13年フジテレビ系「ラスト シンデレラ」でデビュー。15年TBS系「表参道高校合唱部!」で民放連ドラ初主演。16年後期のNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」でヒロイン。舞台「先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜」(6月8日から、東京など全国5都市)、主演映画「君の顔では泣けない」(11月公開)が控える。159センチ。血液型A。
◆波うららかに、めおと日和
昭和11年を舞台に、縁談で結ばれた新婚夫婦を描くラブコメディー。恋愛に不慣れな2人が、互いをよく知らないまま始まった日々の中で次第に心を通わせていく。
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