『58歳、旅の湯かげん いいかげん』より/撮影:山田耕司、以下同じ 漫画家のひうらさとるさんによる、旅行エッセイ『58歳、旅の湯かげん いいかげん』が話題になっています。
ひうらさんといえば、『西園寺さんは家事をしない』『ホタルノヒカリ』など、実写化作品を多数手がけている人気漫画家。本作は自他ともに認める旅行好きであるひうらさんによる、旅を楽しむためのヒントが満載の一冊です。
今回、女子SPA!ではひうらさんにインタビューを実施。大人世代の旅のアドバイスや、現在の居住地である城崎(きのさき)温泉の魅力、さらに推し活についても語っていただきました!
◆旅先で疲れたら寝ていることも、もったいないと思わない
――これまで多くの旅をしてきた、ひうら先生。若い頃はどんな旅の楽しみ方をしていたのですか?
「今は日本にもたくさん最新の海外からのカルチャーがありますけど、私が若い頃って国内でそういうものに触れることが難しかったんです。だから、ヨーロッパに行くとなると服やコスメやレコードなんかを買って、観光もして、一日中歩きっぱなし! 色んなものも見たいし、目に映るすべてのものが新鮮だし、常に動き回っていました」
――全力で楽しもうという気合いが感じられますね。
「ゆっくりするという発想自体がなかったんです。30歳くらいで初めてタヒチのリゾートに行った時も、あまり上手いことのんびりできなかったくらい(笑)。
今は海外に行くにしろ、2〜3日のバッファを必ずとるようにしています。年齢的にも疲れが出やすくなっているので、体調が悪ければ寝てるということを、もったいないと思わなくなりました」
――旅をゆっくり楽しもうと意識し始めたのはいつ頃からですか?
「30代半ばくらいでしょうか。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の時、ちょうど私は海外にいたんですよ。ケニアからアラブを経由して帰る予定だったんですけど、アラブに着いた途端に世界中が大騒ぎになっていて、本当に衝撃を受けました。
それ以降は40代になるまで海外には行かなくなって、代わりに日本各地の温泉を巡るようになったんですよ。そこからじゃないですかね」
◆実際に行ったからこそわかる空気感を漫画にも
――旅の経験や知識が漫画に活かされることもあるのでしょうか。
「インスピレーションを得ることはけっこうありますね。『LOVE+DESSIN』という作品には出雲に行く描写があるのですが、これは出雲大社が縁結びの神社でありつつ、縁切り神社でもあることを旅先で知ったから。主人公の好きな相手が前妻への未練を断ち切るシーンで使いました。
また『プレイガールK』でドイツに行くシーンを入れたのは、私の初めての海外旅行がドイツだったから。実際に行ったからこそわかる空気感を描きたかったんですよね」
◆40〜50代で海外に行くなら、おすすめの国は
――個人的な話ですが、私は人生で一度も海外旅行をしたことがないんです。40〜50代で初海外となったら、どこが最適だと思いますか?
「そこはやっぱり、近場がいいかな。台湾あたり面白いと思いますよ。アジアは全体的にパブエリアが充実してるんですよね。お酒が飲めるのであれば、カンボジアのシェムリアップも穴場かも。パブストリートがあって安く飲み歩けます」
――ヨーロッパやアメリカは、ちょっと厳しそうですかね。
「飛行機に乗っている時間が長いので、その年齢での初めての海外となると大変かもしれないですね。アジアの国以外ではニュージーランドがオススメかな。リラックスして滞在することができました」
◆のんびりできるのに刺激が多い、城崎温泉での暮らし
――ひうらさんは、現在は観光地である兵庫県の城崎温泉で生活されているそうですね。
「夫が豊岡市の出身なんですよ。東日本大震災きっかけで、東京と行ったりきたりしているうちに、私と娘が兵庫での暮らしを気に入ってしまったんです。
その後、夫が城崎国際アートセンターの館長に就任したので、だったら城崎に住んでしまおう、と」
――城崎温泉の良いところを教えてもらえますか?
「住民数は3000人くらいでコンパクトな町なのですが、徒歩でどこにでも行けちゃうところが良いなと感じます。
美味しいビストロもペイストリーもあるし、国内外からアーティストもやって来る。わざわざ別のエリアに移動しなくとも、人との交流があるのが楽しいです。のんびりできる場所なのに刺激が多いんですよ」
――なんとも羨ましい環境です。
「リモートで仕事ができる人なら、観光地で暮らすのはいいと思いますよ。でも、永住までは、まだ考えてないですね。するともしないとも言えない感じ」
――他に住んでみたい温泉地はありますか?
「温泉は大好きなんですけど、城崎ほど色々と歩いて行けるようなところは見つからない気がするんですよね。温泉地ならどこでもいいというわけではないんです。
実は城崎に来る前は、博多に住もうかと考えていました。飛行機も新幹線も使えて、食べ物も美味しくて、海外にも近い。もし城崎温泉に縁がなければ住んでいたと思います」
◆ツアーで全国各地をまわりながら旅を楽しむ「推し活旅」
――ひうらさんの旅の目的の一つには「推し活」もあるそうですね。
「そうなんです。私はずっと『KAT-TUN』を推していて、ツアーで全国各地をまわりながら旅を楽しむ、推し活旅をしょっちゅうしていました。
ツアーに合わせて、本当に色んなところに行きましたね。札幌ドームの時は友達の家に泊めてもらって、コンサートの翌日に車でモアイ像がいっぱい並んでるところまで遊びに行ったし。福岡にもたくさん足を運びました」
――その中でも印象的だった場所はありますか?
「浜松です。アリーナツアーで毎年行ってたんですけど、それまで新幹線で通りすぎることはあっても、降り立つ機会が全くなかったんですね。でも行ってみたら、お蕎麦とワインが美味しいお店を見つけたり、友達がやってる面白い本屋があったり。ちょうど良いサイズ感の素敵な町でした。
推しがいなければ行かない場所に行けるのって、すごく楽しいですよね」
――『KAT-TUN』は今年3月31日をもって解散してしまいましたね……。しばらく推し活旅はお休みですか?
「あ……でもこの前、『SixTONES』のツアーで福岡行ってました。『timelesz』も当選したら行くつもりです(笑)」
◆「疲れにくく」がポイントの大人旅、事前準備は念入りに
――もう新たな推し活旅が始まっている(笑)。では、このインタビューで旅心をくすぐられた大人の女性たちに、旅のアドバイスをお願いします。
「疲れにくくするというのが、最大のポイントじゃないでしょうか。だから、無理なスケジュールは組まない。そして、行く前に旅先の情報をしっかりとネットで調べる。YouTubeのVlog(ブログの動画版)とか見て、その場の雰囲気を確かめておく。現地でバタバタするのではなく、事前準備をしておくことが大事なんです」
――余裕をもった行程と、入念なリサーチは必須ということですね。
「そこを踏まえれば、お子様連れでも海外旅行もぜんぜん問題なくできると思いますよ。むしろ海外の方が子持ちに優しいので、日本よりリラックスできるんじゃないでしょうか。
私も子連れ台湾旅行の時に、マッサージ屋さんに入ろうか迷ってたら『子ども見ていてあげるよ』って言ってもらえて感動したんです。国内旅行で肩身の狭い思いをするより、思いきって日本を飛び出してみてもいいかもしれないですね」
――最後に、今後も旅は続けていくつもりですか?
「もはや旅というよりも、いつの間にか移動をしている感覚になってきていますが(笑)、旅はこれからも続けます。今年はすでに海外はニュージーランド、国内は大阪、福岡などに行き、これからこの本のイベントで広島、青森などにも足を運ぶ予定です! 東京も、仕事を含めて遊びに行っていますよ。
ぜひ、皆さまも良い旅を!」
【ひうらさとる】
漫画家。1966年、大阪府生まれ。1984年『あなたと朝まで』(講談社)でデビュー。代表作『ホタルノヒカリ』(講談社)はドラマ化や映画化を果たし、“干物女”は「ユーキャン新語・流行語大賞(2007年)」の候補に。2024年『西園寺さんは家事をしない』(講談社)がドラマ化。音声プラットフォーム「Voicy」で「ひうらさとるの漫画と温泉」を配信するほか、SNS、YouTubeでも旅や日常を発信。
<取材・文/もちづき千代子 撮影/山田耕司>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama