「どうして本音をさらけだせたんだろう」子どもの頃と違う“大人になってからの女性の友情の在り方” 漫画原作者に聞く「二人それぞれが『自分らしくいられる場所』になっていく」

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2025年05月13日 18:00  ORICON NEWS

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『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』書影(原作:一初 ゆずこ 漫画:灯/KADOKAWA)
 美人でいつも注目を集める翠子。ちょっと頑固で堅実な果澄。中学時代、好きな男子を翠子に横取りされた果澄は、大人になって翠子に再会する。“大嫌い”と伝えたいのに、なぜか翠子の喫茶店を手伝うはめに……。そんな“大人になってからの友情”をテーマに、様々な境遇の女性の成長を描くコミック『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』(KADOKAWA)が注目を集めている。原作の一初ゆずこ氏に、作品に込めた思い、登場人物の成長の物語とその魅力について聞いた。

【漫画】「あたしの喫茶店を手伝ってください」翠子の言葉に驚く果澄

■『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』一初ゆずこさん(漫画原作)インタビュー【PART2】

――果澄は婚約者・達也との関係に悩んでいますが、翠子の喫茶店を手伝ううちに、なにが自分にとって重要なのかが見えてきます。果澄の心情が変遷するさまを感じられますが、果澄の悩み、成長、魅力についてお伺いしたいです。

【一初】『episode6 裏メニューのクロックマダム』回で、慣れない喫茶店の仕事に取り組む果澄が「料理も接客も、一朝一夕で身につくスキルではない」と感じたことを、翠子へ真っ直ぐに伝えるシーンがあります。そのときに、翠子が果澄に返した「格好悪いところを全部見せないと気が済まない、損だけど誠実で格好いいところ、愛してるよ」という台詞に、果澄の不器用さだけでなく、魅力も表れているように感じます。果澄が翠子に打ち明けたことは、内に秘めておけば翠子には伝わらなかったにもかかわらず、果澄の真面目さが「翠子に伝えないこと」を許さないんですよね。自分に正直で、狡いことができなくて、他者に対して常にフェアであろうとする生き方は、言い換えれば摩擦の多い生き方だと思います。それでも、損な生き方を選んでしまう……そんな頑固さに、時には自己嫌悪を感じるところも、果澄が長年に渡って抱き続けた悩みだと捉えています。
その一方で、自分なりの筋を通そうと藻掻くところは、美徳でもあると捉えています。翠子の言葉で、ありのままの自分を受け入れられた果澄は、生来の頑固さゆえに時間をかけますが、次第に肩の力を抜いて、穏やかな心持ちで日々を過ごしていくようになっていきます。また、翠子という仕事のパートナーの隣に立てるように、自己研鑽を懸命に重ねていく姿からも、新しい場所を自分の居場所にしていこうと励むしなやかさと、この場所をもっと素敵にしていくために努力しようという力強い意思があり、芯がある彼女ならではの成長を感じました。裏表のない性格も、個人的にとても好ましく、果澄を仕事の(あるいは人生の)パートナーに選んだ翠子は、見る目があるなと思っています。

――一方の翠子は旦那さんと別れたばかり。お腹の中に子どもを宿し、慰謝料がわりにもらった喫茶店を再オープンしようとがんばっていました。強い女性に思えますが、彼女の魅力についてもお伺いしたいです。

【一初】翠子の魅力は、中学生時代の果澄には気づけなかった「懐の深さ」にあると思います。翠子は、果澄から「大嫌い」だと思われていることを、十三年前から知っています。果澄が言葉の形にしなくても、本人は気づいていて、気づいていることを果澄にも伝えているんですよね。これは、なかなかできることではないと思います。嫌われて寂しいという気持ちは、もちろん彼女の中にもあるはずですが、それでも果澄と仲良くなりたいという気持ちが、寂しさを凌駕しているのかもしれませんね。強い思いの維持だけでなく、願いを叶えるために能動的に動けるところも、翠子の魅力だと思っています。また、妊娠中でありながらも、喫茶店を守っていく店主として、時には現実的な決断を下そうとするところにも、一人の大人としての魅力が詰まっているように感じます。隣にいると、きっと彼女をどんどん好きになる……私にとっての翠子は、そういう女性です。

――翠子の夢であった喫茶店は、果澄にとっても居心地のいい場所となっていきます。二人にとって翠子の喫茶店はどんな場所になっていくのでしょうか。

【一初】二人それぞれが「自分らしくいられる場所」になっていくのだろうなと思います。果澄は、翠子の喫茶店で働き始めてから、実家の母親に現在の生き方を心配されています。まとまりかけていた結婚が破談になり、寿退社した職場に復帰する道も選ばないで、飲食業の世界に初めて飛び込む……そんな生き方を選んだことについては、1巻・2巻に収録の『episode7 晩夏のほろ苦ゴーヤーチャンプルー』でも描かれているように、果澄自身も心のどこかで、まだ覚悟が固まりきっていなかったのかもしれませんね。
でも、本当はもっと堂々と、自分の選んだ生き方を母親に伝えたかったはずで、忸怩たる思いを噛みしめていたと思います。このときの果澄は、母親に上手く伝えられませんでしたが、いつか「自分の生き方を、堂々と伝えたい」という願いを実現した先に、理想の「居心地のいい場所」があるのだろうなと感じました。
翠子も、果澄と再会した夏に「好きな人とお店を構えることも、一緒に子どもを育てることも、夢だったから」と語っています。離婚してシングルマザーとして生きる道を選んでも、夢を諦める必要はないことを、彼女なら果澄と共に喫茶店を営んでいくことで、証明していけるのではないかなと思います。そして、果澄と翠子の二人が「ここで過ごす時間が好きだな」と感じるような喫茶店は、お客様にも大切な居場所になっていくのだろうなと、温かい気持ちで想像しました。

――本作は大人の女性たちの友情を描いた物語となっています。子どもの頃と大人になってからは友情の在り方も違うのか……。一初さんにとって大人になってからの友達はどんな存在でしょうか。

【一初】大人になってからの友達は、やはり子どもの頃とは、友情の在り方が少し異なるように感じます。ライフステージの変化に伴って、趣味や物事の優先順位も変化していくことで、互いの話がどことなく合わないように感じたり、自然と疎遠になってしまったり……そんな別れを、私自身も何度か経験してきました。
でも、子どもの頃から在り方が変わらない部分もあるように思います。私の場合は、高校時代から付き合いが続いている友人と、現在の仕事や家族の話などを交えつつ、好きな本やゲームについて語り合うとき、学生時代から変わらない楽しさと安らぎを感じます。互いに出会った頃から立ち位置が変わっても、変わらない部分もあるということを、確かめ合えるような存在です。
カクヨムでの活動を通じて知り合った、Web作家の皆さまも。大人になってからでも、誰かと絆を深められたり、かけがえのない存在が増えていったりすることを、私は皆さまから教わりました。大好きな小説を通じて友情を育めたことが、とても嬉しいです。皆さま、ぜひこれからも仲良くしてくださいね。

――特に印象に残っている、好きなエピソードを教えてください。

【一初】真っ先に挙げたいエピソードは、2巻収録の『episode8 さよならの日にうってつけのクリームソーダあんみつ風』の終盤で、果澄が初めて翠子に涙を見せる場面です。達也に正式な別れを告げた果澄に、翠子がサプライズであんみつ風のクリームソーダを振る舞ってくれましたが、そのスイーツに使われていたさくらんぼのキルシュ漬けは、もう旬を過ぎていることから量が少なく、とても貴重なものでした。翠子は、わくわくしながらキルシュ漬けの使い道をあれこれと考えていたはずなのに、勇気を出した果澄のために、一気に全て使い切ることを選んだのです。灯先生が描かれた「涙を零す果澄の表情」を見たときに、今までよく頑張ってきたね……と、果澄への気持ちが溢れて、原作者なのにもらい泣きしてしまいました。今まで張り詰めていたものが、一気に緩んで決壊する瞬間の描き方が、とても素晴らしい名シーンです。
このとき翠子が作ったクリームソーダあんみつ風も、キラキラしていて素敵なので、ぜひ味を想像しながら楽しんでいただけたらいいなと思います。フードクリエイター・えながさま監修のレシピも収録されておりますので、ご自宅で再現することも可能です!
もう一つ挙げたいエピソードは、1巻収録の『episode6 裏メニューのクロックマダム』の調理シーンです。フライパンでバターを溶かしていく場面が、圧巻の描写で美味しそうです! どうやって描かれたのだろうと気になって、灯先生の作画に感動しながら何度も読み返しました。妊娠中の翠子には、摂取を控えたり気をつけたりしたほうがいい食材がある、という話を軸に展開される二人の会話も、穏やかで温かみのあるトーンが気に入っています。

――この作品を通じて伝えたかったことを教えてください。

【一初】「毎日を自分らしく、自分で決めた道を、自分なりの歩き方で進んでいき、満ち足りた気持ちで楽しく生きていく」楽しさを、毎日を大切に生きる果澄と翠子の姿と、毎日に欠かせない「食」を通して、読者の皆さまにお伝えしたいと考えておりました。
当初の予想とは異なる人生を歩み始めた果澄も、シングルマザーとしての生き方を模索しながら喫茶店を守ろうとしている翠子も、それぞれの生き方に対して周囲からさまざまな声を受け取る場面が出てきます。心配や愛情から声を届ける側の気持ちも、とてもよく分かるだけに、私自身も胸が痛みます。そんな心配や愛情を理解し、受け止めた上で、自分にとって本当に大切なことは何なのか、目を逸らさずに見つめていく姿が、このお話を読んでくださった方々の力になればいいなと願っております。絵の形で表現されたごはんシーンも、毎回すごく美味しそうで、多幸感に満ち溢れていますので、穏やかな温もりも合わせてお届けできたら嬉しいですね。

――最後に、「スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん」を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。

【一初】現在の『episode1 大嫌いなあなたが覚えていたスイート・ライムジュース』の原型である短編に、読者さまから有難いことに「このあとの二人が気になる」「続きを読みたい」というお言葉をいただいておりましたので、今回のコミカライズで「続き」をお届けすることが叶い、とても安堵いたしました。「翠子のことが大嫌いな果澄」と「果澄と一緒に喫茶店を経営していきたい翠子」の掛け合いも、二人が共に過ごす時間が長くなっていくにつれて、最初の切れ味の鋭さが柔らかく温かいものに変化していきますので、二人の感情の変遷をぜひとも楽しんでいただけますと幸いです。
原作小説はカクヨムにも掲載しておりますが、灯先生に手掛けていただいた漫画では、二人の掛け合いがさらにパワーアップしています! 灯先生が描かれる絵は、感情表現の細やかさもさることながら、背景や小物の描き方も丁寧で、どのコマを見ても心がときめきます。初めて『波打ち際』の外観を見たときと、可愛らしいコースターに載ったライムジュースを見たときの感動を、今でも鮮やかに思い出せます。海のモチーフが散りばめられた喫茶店『波打ち際』で過ごす時間も、ぜひぜひ満喫してくださいね。
フードクリエイター・えながさまに監修していただいたレシピページも見どころで、各エピソードで扱うごはんや飲み物の作り方が網羅されています。レシピに添えられている灯先生のイラストも可愛らしく、レシピ本として眺める時間も楽しめます。読んで美味しい、作って美味しい物語が、皆さまの日々に寄り添えたらいいなと願っております。

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