三井住友カードとソフトバンクは5月15日、デジタル分野における包括的な業務提携に合意したと発表した。三井住友カードのOliveやPayPayなどの連携によって、新たな取り組みを展開していく。
具体的には、
・PayPayに三井住友カードを登録しても手数料なしで利用する
・OliveからPayPayへのチャージ
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・手数料無料の出金
・PayPayポイントとVポイントの相互交換が可能になる
といった決済分野に加えて、ヘルスケア、データ連携、AIといった幅広い分野で連携する。
三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)の取締役執行役社長グループCEOの中島達氏は、「キャッシュレスをリードする三井住友カードとPayPayの大連立を実現する」とアピールする。
●三井住友カードは手数料なしでPayPayと連携可能 OliveアプリでPayPay優遇も
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今回の業務提携は2本の柱からなる。三井住友カードとソフトバンク、三井住友カードとPayPayというそれぞれにおける連携で、「大連立」として位置付けられるのが、三井住友カードとPayPayの相互の優遇策などの施策だ。
まずはPayPayにひも付けるクレジットカードとして、三井住友カードを優遇する。PayPayでは、クレジットカードをひも付けての決済に関し、PayPayカード以外はPayPay側に手数料が発生していることから、新たな決済方式を検討し、2025年夏以降に移行する方針を示していた。
その中で三井住友カードのクレジットカードは、PayPayカードと同様に手数料を徴収しないことにした。同社のNL(ナンバーレス)カード、Oliveに加えて、提携カードであるANAカードやAmazonカードなども対象になる。ただし、PayPayステップやキャンペーン、カード利用におけるポイントなどの還元がどうなるかはまだ決まっていないそうだ。三井住友カードの大西幸彦社長は、「PayPayカード以外だと当社だけが、手数料なしでPayPay加盟店でカードが使える」とアピールする。
OliveアプリでもPayPayへの優遇を行う。アプリ内でPayPayの残高が確認できるとともに、三井住友銀行口座からのPayPay残高へのチャージ、PayPay残高からの出金がアプリから直接行える。PayPay残高の三井住友銀行口座への出金手数料も無料化する。
クレジットカード、デビット、ポイント払いを切り替えて1枚のカードで支払いができるフレキシブルペイにおいて、PayPay残高の支払いも可能になる。これによって、「PayPayが使えないがクレジットカードは使える加盟店」において、PayPayの残高で支払いができることになり、海外でもPayPay残高で支払いができることになる。大西氏は「いわゆるオープンループのスキーム」と説明する。
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●PayPayポイントとVポイントの相互交換も可能に
3つ目がPayPayポイントとVポイントの相互交換だ。PayPayの中山一郎社長は、「Vポイントの利用者がおよそ9000万人弱、PayPayポイントの利用者は延べ2億9000万なので、3億8000万人が、VポイントとPayPayポイントを活用している」と説明し、多くの利用者にメリットが提供できると強調した。
大西氏は、「三井住友カードとPayPayが大連立を実現する中で、これら2つのポイントの開放は必然」と強調。2つのポイントを合わせると利用者数、発行額ともに「国内最大規模のポイント連合になる」と大西氏。
「PayPayポイントはソフトバンクやPayPayの経済圏で急成長を遂げており、Vポイントは世界中のVisa加盟店でも使えるという、開かれたポイントであり、タイプが違う2つのメジャーポイントが同盟関係を結ぶということ」――大西氏はそう表現する。
さらにソフトバンクの宮川潤一社長も、「PayPayは6900万、三井住友カードは3900万の会員数で、どちらもナンバー1同士の握手」と話す。
●Oliveではソフトバンクと非金融サービスを拡充
今回の提携のもう1つの柱である、三井住友カードとソフトバンクの連携においては、まずはソフトバンクがヘルスケアサービスをOlive向けに提供する。サービスを提供するのはソフトバンク子会社のヘルスケアテクノロジーで、OliveとVpass会員向けに「ヘルスケアポータル」をリリースする。
日常の健康管理のためのコンテンツ提供、24時間365日利用できる医療相談チャット、夜間でも休日でも最短5分で利用可能なオンライン診療などを提供する。ユーザーのデータを活用し、AIも利用してユーザーごとにカスタマイズした、パーソナルなサービスも提供していく予定。例えば、子育て世代には子どもの健康管理に関する情報や美容、メンタルヘルスなどニーズに応じたサービスを提供するという。
これに加えて、法人向けに健康経営の支援サービスとしてもパッケージ化して提供していく考えだ。
Oliveでは、非金融サービスとしてトラベルサービスのVトリップを投入しており、今回が第2弾の非金融サービスとなる。今回の提携ではさらに、デジタル保険やモビリティサービスも提供していく。保険はソフトバンク子会社のリードインクスが提供、三井住友カードの保険ポータルから利用できるようにする。
大西氏は、OliveはこれまでもSBI証券、ライフネット生命といったグループにこだわらずに「ベストなサービスのラインアップでやってきた」と説明。今回の提携でも、そうしたOliveのコンセプトにマッチしており、積極的に非金融サービスのラインアップを充実させていきたい考えだ。
ソフトバンクとはさらに、AI分野でも協業する。SMBCグループは既にさまざまな領域で生成AIなどを業務/サービスに活用しており、そこにさらにソフトバンクのAI技術も追加して、AI活用をさらに加速させたい考えだ。
まずは三井住友カードのコンタクトセンターにAIオペレーターを導入し、24時間365日、利用者の問い合わせに回答できるようにする。ソフトバンクの「Gen-AX」を活用して、AIエージェントが自律的に思考して問い合わせに対応する。「AIを使ったコールセンターはいくつかあるが、あくまで人の補助という立ち位置だった。AIが自ら判断して応答する能力を持つと、電気さえあれば24時間動く」と宮川氏は説明。
宮川氏は「恐らく三井住友カードのコンタクトセンターが、日本で最初にAIを投入したコンタクトセンターになるのではないか」と話し、先進的な取り組みであることを強調した。
●ユーザーに合わせたパーソナライズが可能な「AI-Olive」構想も
さらに、大西氏が「AI活用を本丸」と紹介したのが、「AI-Olive」だ。
AIを活用した未来型のサービスとされ、Oliveの進化版という位置付けとなっている。Oliveは今後もサービスを拡充していくため、アプリの機能が多くなることから、その使いやすさが重要になってくる。AIを活用することで、ユーザーに合わせたパーソナライズを行い、必要な機能がスムーズに使えるようになる、というのがAI-Oliveだという。
現在、マネーフォワードとの提携でOliveから他社の口座/カードの履歴などを取得できるように開発が進められている。簡単に口座間の資金移動やローン返済などが可能になる見込みだが、こうしたデータも活用し、資産運用、ローン、旅行の提案、マネーライフのサポートなども、AIを活用することで提供していきたい考え。
「Oliveを未来型のスーパーアプリにしていきたい」と大西氏は言う。
●大連立の意義と経緯 「クレジットカード対QRコード決済」の対立軸ではない
PayPayがスタートした2018年は、国のキャッシュレス推進施策もあって、三井住友カードでも事業を拡大してきた。年間500万会員増加するという「業界トップ」(中島社長)の拡大を遂げており、さらに加盟店向けに提供する決済サービスとセットになった決済端末stera terminalは2024年度末までに47万台を突破。Oliveの利用者も570万アカウントに達し、順調に拡大。年間取扱高は、2018年の16兆円から2024年の39兆円まで成長した。
SMBCグループにとって三井住友カードは、「グループのリテール事業の中核を担うとともに、デジタル戦略をけん引する存在」(同)となった。さらに中小法人向け金融サービス「Trunk」を開始し、SMBCグループの基幹サービスでも開発をリードする立場にあるという。
「三井住友カードを核とした、SMBCグループのデジタル戦略をさらに大きく前進させる意義深いもの」。今回の提携について、中島氏はそう強調する。
SMBCグループにとっては、Oliveを起点とするリテールビジネスの進化を加速。Oliveは「1つの商品を超えて、個人向けの金融/決済サービスの在り方、ビジネスモデルを変えるゲームチェンジャー」(同)であり、加えて証券、保険、ローンといった金融サービス、さらに非金融サービスへもサービスを拡大させている。
デジタル化によって店舗や対面サービスの在り方も変えているOliveに対して、「進化の鍵となるのがデジタルとAI」だと中島氏は言う。そこで提携するソフトバンクのデジタルサービスやAI技術は、同社のOliveを活用したリテールビジネスの変革を加速する、と中島氏は強調。さらにリテールビジネスだけでなく、SMBCグループ全体に広げていきたい考えを示した。
SMBCグループに対しては、さらにキャッシュレス戦略の加速という意義もあるという。事業者、利用者の2つの視点から、決済の課題を解決してキャッシュレス社会の実現につなげていくことが狙いだ。「クレジットカード対QRコード決済」という対立軸ではなく、ユーザー目線で「三井住友カードとPayPayを持っていれば(支払いは)大丈夫、という社会を実現していきたい」と中島氏は言う。
質疑応答でも中島氏は「利用者目線」という言葉を繰り返し、競合との競争や対立といった事業者目線ではなく、2つのサービスが連携することによる「プラスα」の提供をアピールする。
「直接(ソフトバンクの)宮川氏と(PayPayの)中山社長ともじっくり話をして、お客さま起点で最高のサービスを提供する志を共有できたことが提携に至った背景」(中島氏)だという。
宮川氏は、「コード決済ナンバー1のPayPayと、クレジットカードナンバー1の三井住友カードの連合で、利便性の高いサービスを提供したい」と話す。ソフトバンクは、主にオンラインサービスを提供する約300社を抱えており、この同社経済圏に、OliveとTrunkの利用者をつなげていきたい考えだ。
「これまでは一見するとPayPayと三井住友カードが対抗軸のように見えていたかと思う」と大西氏。三井住友カードはOliveやタッチ決済、交通機関のタッチ決済乗車、Trunkといった新しいサービスに注力してきた。それに対してPayPayは、「消費者が日常使う決済手段になったのは紛れもない事実」だと大西氏。
多くの人がクレジットカードとPayPayを使い分けているのが現実で、ユーザー視点に立てば、「クレジットカード対コード決済」という対立軸ではなく、両方をスムーズに使い分けられることが一番のニーズだと判断した。今回の「ナンバー1同士の大連立」(大西氏)につながった。
もともと、宮川氏が大西氏に対して「Oliveにヘルスケアの機能を入れてほしいとセールスをしていた」ときに、話がどんどん膨らんでいって提携につながったという。同時に大西氏と中山氏が話し合う機会があったことで、次第に形作られていったという。
●提携で携帯料金を値上げをせずに済む?
携帯各社は現在、携帯料金値上げに向けた取り組みを進めている。先行して値上げしたNTTドコモ、KDDIに対して、楽天モバイルは値上げを否定。そしてソフトバンクは、早期の値上げではなく慎重に検討する構えを見せている。
今回の提携によって、同社の金融連携プランである「ペイトク」に三井住友カードとの連携を加えるかという問いに対して、宮川氏は「まだ議論のスコープから外れているが、いいアイデアをいただいた」と笑い、まだ検討に至っていなかったようだ。
料金値上げに関して、宮川氏自身は「値上げしなくて済むなら本当は値上げしたくない」と正直なコメント。今回の提携のような工夫を実施していくことで、携帯料金以外の収益源を拡大することで、インフレに対応できるようになれば、値上げを避けられる可能性がある。「値上げの話が1回ペンディングになることがベストなので、色んなトライをしていきたい」(宮川氏)
今回の提携では、PayPay残高の出金が三井住友銀行口座に対しては手数料無料になる。特にTrunkが狙う中小規模の事業者であれば、PayPayでの仕入れの決済などをしている場合もある。そうしたときに無料で出金できるTrunkをメリットとする、というプロモーションも考えられるだろう。中島氏は、「言われて初めて気付いた」としつつ、「Trunkは非常に好調に(予約が)積み上がっているので、PayPayとの提携で、これまでリーチできなかった層にも可能性が出てくるかもしれない」と話す。
PayPayに三井住友カードをひも付けたときのキャンペーンの扱いなども決まってないということで、今回の提携発表では、方向性が示されただけで、具体的な内容に関しては今後詰められるということのようだ。
例えばヘルスケアポータルは2025年度中にも提供開始とされているが、それ以外は具体的な時期が明言されておらず、今後詳細を決定してからサービス提供につなげていく見込みだ。
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