野村康太Instagramより 今、もっとも旬で、ブレイク俳優の筆頭的存在感なのが、野村康太である。2025年5月2日から初主演映画『6人ぼっち』が公開中だ。
毎週金曜日深夜から放送されている『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(テレビ東京系)では、松下由樹の相手役を演じている。新人俳優役という設定が、演じる本人と自然と重なる。
その意味で本作は、まるで野村康太の演技を見守るドキュメンタリー的ドラマみたいである。男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
◆清らかな感覚にさせてくれる声
映画やCMのクラシック音楽監修を担当する立場からすると、何かそれっぽい雰囲気がでる(気がする)からといって、クラシック音楽を安易に使用するのはおすすめしない。
何せクラシック音楽はその名のように古典的。歴史の重みや厚みの鎧を着ている。その重厚さが、ときに現代の映像作品の画面自体を破壊しかねないからである。その意味で、松下由樹が狂愛のマネージャーを怪演する主演ドラマ『ディアマイベイビー〜私があなたを支配するまで〜』(以下、『ディアマイベイビー』)の楽曲使用法はどんなものかと検証してみる。
第1話冒頭、人々が見上げるビルの大型ビジョンに傷害事件のニュース映像が流れる。この場面の挿入曲として使用されているのが、シューベルトが1825年に作曲した『アヴェ・マリア』(『エレンの歌』)。心の奥から浄化されるような主旋律をあえて血みどろ事件とからませるという演出。
手垢がついたような使用例だが、ドラマの中で事件を起こした犯人とおぼしき男性の声が、その後の場面で実に清らかな感覚にさせてくれる。
◆シンプルな声の響きにうっとり
視聴者の感覚を研ぎ澄ませるかのような声の持ち主と主人公・吉川恵子(松下由樹)が出合う場面が描かれる。担当したアーティストをスターに押し上げる敏腕マネージャーである吉川が、安達祐実演じる担当アーティストに裏切られたのが発端。
街路をひとりとぼとぼ歩いていると、向こうから歩いてきたひとりの男性に目が釘付けになる。その男性・森山拓人(野村康太)が通り過ぎるのを身体をのけぞらせてまで歓喜の眼差しで追う吉川は、その場で転んでしまう。
するとそこへ足音が近づく。吉川が視線をあげると、さっきなめ回すように見た拓人がいる。「大丈夫ですか?」。拓人が声をかける。心ときめく吉川の心の春(?)を表現する童謡『春が来た』が囃し立てる。拓人はもう一度「大丈夫ですか?」と発するのだが、冒頭のクラシック音楽演出から翻って、このシンプルな声の響きにぼくら視聴者もうっとり。
◆野村康太の演技を見守るドキュメンタリー的ドラマ
完全に一目惚れ、なかば恋をした吉川は、拓人をすぐにスカウトする。自分のマネジメントで必ずスターにしてみせると再起を誓うのである。冒頭場面に置かれた傷害事件は、この出会いから7か月後に起こることとして、あらかじめ視聴者に明かしてしまうドラマ構成。
事件が起きるまでに何があったのか。7か月前まで日付を遡る。このドラマ構成なら、野村康太の演技の魅力を丁寧に伝えられる。実際本作はスカウトされた拓人がほんの新米(吉川は「バブちゃん」と形容)からスター俳優にのぼりつめる過程を見せていく。
森山拓人を演じる野村は、ここ最近飛び抜けてきらめく存在感で大ブレイク中の新人俳優。スカウトされてあれよあれよという間にスター俳優になる役柄と自然と重なる。スターダムにあがった過程を遡り形式で描く本作は、まるで野村康太の演技を見守るドキュメンタリー的ドラマとして楽しめる。
◆作品ごとにカタチを変えられる粘土みたいな俳優
松本まりか主演ドラマ『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京系、2024年)の高校生役をブレイクの決定的布石とした野村康太は、沢村一樹の次男。
兄は、2019年に『MEN’NON-NO』誌のモデルーディションでグランプリを受賞した令和初のメンノンモデル、野村大貴である。
活動舞台を世界に定めた野村大貴は、2021年に早くも専属モデルを卒業したが、2023年には弟である野村康太がメンノンモデルデビューしている。モデルとはつまり、一瞬のきらめきを一枚の写真にパッと提供できる被写体のことである。映像を主戦場とする俳優は、瞬発力を求められながらも何カットもの動く画の中で持続していなければならない。
俳優としての野村康太は、むしろモデル的瞬発力を全面に、オーガニックな素材のように演技している。演出やカメラワークによっていくらでも柔軟に対応できる。作品ごとにカタチを変えられる粘土みたいな俳優である。
『ディアマイベイビー』は、この粘土気質の野村康太の演技が確実に成形する様子を観察できるドラマ作品だ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu