上司にお酒の水割りを作るのは違法?意外と知らない「酒税法の落とし穴」を弁護士が解説

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2025年05月16日 16:21  日刊SPA!

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上司に水割りを作ることは違法? 
※写真はイメージ
 長年にわたりさまざまなニュースに接していると、「この事件あるいは事故の処理について、法律のほうがおかしくないか?」と思うことがある。そもそも「法律の抜け穴」があるのもおかしいし、裏金問題のように釈然としないものもある。
 実は、世の中の法律はけっこう謎の多い世界。そんな謎を解き明かすのも骨が折れるし面倒……という、われわれ大多数の人に答えた書籍『世にもふしぎな法律図鑑』(日経BP)が出た。

 その一部を抜粋・編集したうえで、ここに紹介しよう。

◆意外と知らない「酒税法」の実態

 酒税法は、自己消費目的であっても免許を受けずに酒を造る行為を処罰の対象としています。自己責任なのだからほっといてほしいという、実に酒呑みらしさの溢れる純粋で頽廃(たいはい)的な思いが許されないのはなぜでしょうか。

当局「べ、別にあなたの身体を心配してるわけじゃないんだからね!」

 自分でこっそり造ってまで酒を飲みたいと考える諸兄・諸姉にとって、国が自己使用のための酒造にまで免許制で弾圧してくるのはお節介以外の何物でもないと感じるかもしれません。

 しかし、課税当局が気遣っているのはあなたの健康ではなく、税収の方です。つまり自己使用目的の無免許酒造が罰せられるのは、酒呑みが自作するに任せていると、酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるからだというのです。思わぬ酒類課税の実利的な視点に酒呑童子(しゅてんどうじ)も狼狽してしまいそうですが、そんなわけで、私たちは自作の酒を楽しむ自由は与えられていないのです。

 ただ、国はお酒好きの飲酒欲を貴重な税源として非常に重要視しているということでもあります。酒呑みの皆さんは、我が国の税収を醸造樽の下から支えているのだというくらいの自覚を持って、日々、適度な飲酒に励んでもらいたいと考える次第です。

◆上司のために「混ぜる」「割る」も酒類製造

 酒税法に関しては、もう一つ、酩酊状態でなければとても見過ごせない規定があり、それが「みなし製造」を定めた酒税法43条です。

 これは、酒に他のアルコールを混ぜたり、水や湯で割ったりしたときでも形式的には「新たに酒類を製造した」ものとみなされ、無免許での酒類製造とされてしまう余地を生じるという規定です。なるほど、自分や家族で飲むために混ぜたり割ったりする場合は適用されないと法律で定められてはいます。

 では友人や上司に水割りやお湯割りを作ってあげる行為はどうなのかというと、やはり形式的には酒類の製造に当たり、免許なく行うと違法となる余地が出てきてしまいます。

 こうした一見細かすぎるように見える網の目が張り巡らされているのも、酒税の適正な課税・徴収を実現するためであって、実際にはごく小さな規模で行われ悪質性も低い行為が検挙・処罰の対象とされるわけではありません。ただし、どぎついアルハラを繰り出してくる困った上司に水割りの提供を拒む理由くらいにはなるかもしれません。

◆今や半減、どうなる酒税

 このように、酒税法には酒税の税収の確保・適正な徴収のために様々な規定が置かれています。

 ところが、明治期には地租と並んで租税収入の大きな部分を占めていた酒税も、時代の流れとともにその割合が落ち込みを見せ、特に近年は急激な減少の一途をたどっているという指摘があります。

 日本が活力に満ちていた1980年代後期に2兆円を超えていた税収は、現在は1.2兆円弱と半減に迫る勢いです。これは昔に比べて飲み会文化が廃れてきたというだけでは説明がつきにくく、酒類に対する課税行政の流れと若者のビール・酒離れとは全く無関係とはいえないのではないかと、つい二日酔いの頭で考えてしまいます。

◆日本はビールの税率が割高

 もともと、我が国ではそのアルコール度数に比してビールの税率が割高であることが指摘されており、発泡酒やいわゆる「第三のビール」など酒造メーカーが消費者に安価に提供しようと苦心して生み出してきた酒類についても税率が引き上げられるという流れが繰り返されてきました。

 短いスパンで酒類ごとの課税の公正を図る税率の改定などは行われてきましたが、かつての酒類消費の勢いを取り戻すほどの動きではなさそうです。

著者/中村真
神戸大学法学部法律学科卒業。2003年、弁護士登録。2014年、方円法律事務所に加入し現在に至る。神戸大学大学院教授も兼務。著書に、『裁判官! 当職そこが知りたかったのです。―民事訴訟がはかどる本―』(学陽書房)、『相続道の歩き方』(清文社)ほか多数。『世にもふしぎな法律図鑑』(日経BP)は最新の著作。

【鈴木拓也】
ライター、写真家、ボードゲームクリエイター。ちょっとユニークな職業人生を送る人々が目下の関心領域。そのほか、歴史、アート、健康、仕事術、トラベルなど興味の対象は幅広く、記事として書く分野は多岐にわたる。Instagram:@happysuzuki

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