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浦和レッズ サミュエル・グスタフソン インタビュー 中編
浦和レッズのMFサミュエル・グスタフソンをインタビュー。ここでは本人が感じているJリーグのレベルや特徴、欧州サッカーとの比較を語ってもらった。
前編「グスタフソンがJリーグのプレーを選んだ経緯」>>
後編「グスタフソンがファンタスティックと語るJリーグのサポーター」>>(5月17日掲載)
【Jリーグではファンがしらけてしまうことはあまりないだろう】
「このクラブにはいい選手とスタッフがいて、成功の可能性を宿している。とはいえ、今季の序盤戦はなかなか白星を獲得できなかった。その同じチームが、今はリーグ戦で4連勝できている。この理由を、ちょっと考えてみたい」
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浦和レッズのサミュエル・グスタフソンはそう言って少しの間、視線を宙に向けて思考を始めた。シャープな頭脳の持ち主に見えるセントラルMFは、すぐにこちらに向き直り、次のように続けた。
「おそらく、小さなことだと思う。この連勝が始まったのは、国立競技場での町田(FC町田ゼルビア)との一戦だった。相手は昨季、J1にデビューしたばかりなのに長期にわたって首位を走り、今季も当時は順位表のトップにいた。そんな相手に国立とはいえ、敵地で2−0の快勝を収められたことは、チームの自信につながったよ。
その自信が力になり、次の試合にも勝利でき、さらに自信が深まり、勝ち続けることができているのだと思う。勢いがつき、いいサイクルになっているのではないかな。それから、新戦力がチームに馴染んできたこともあるだろうね」
世界でもっとも予想の困難な1部リーグのひとつと言われるJ1リーグ。今季も現在、オリジナル10――1992年のJリーグ発足時に加盟した10クラブ――のひとつで、過去に一度も降格したことのない2クラブのひとつ、横浜F・マリノスが最下位に沈み、その一方で鹿島アントラーズが首位に立つなど、世界中のブックメーカーを悩ませているだろう。
浦和は序盤戦の不調から立ち直り、この頃には4位まで順位を上げていた。さらにその後、連勝は5まで伸び、順位は2位に。これも各チーム間のレベルの差が少ないことが要因のひとつと言え、グスタフソンはそれを歓迎している。
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「いかなるチームにも、倒せない相手はいない。結果がわかりにくいのは、スポーツの醍醐味だよね。ファンにとっては、最高に面白いと思う。僕はF1のファンだけど、たとえば昨シーズン途中までの数年はマックス・フェルスタッペンという最高のドライバーが、レッドブルという最高のマシンに乗っていたので、多くのレースを制し、大方の予想どおりに優勝。率直に言って、途中から興を削がれてしまったよ。Jリーグでは、ファンがそんな風にしらけてしまうことは、あまりないだろう」
【日本の選手の敏捷性や技術はものすごく高い】
各チームの実力差が拮抗しているからそうなるわけだが、リーグ全体のレベルについて、グスタフソンはどう感じているのだろうか。
「僕が比較できるのは、スウェーデンとイタリアのリーグ、欧州カップ戦、スウェーデン代表での仲間や対戦相手となる。セリエAの上位チームや欧州の代表チームの強豪はこの競技のトップレベルとはいえ、それらのチームや選手と比較しても、J1リーグのレベルはそれほど低くない。選手の敏捷性や技術はものすごく高いよね。だから試合のテンポがスピーディーで、目まぐるしい展開が続く時がある。
かたや欧州の選手たちの強みは、フットボールの理解力の高さにあると思う。常に素早く動き回るのではなく、リズムを落とすべき時は落とす。なぜなら、戦術的にそうするほうが、相手のギャップを突きやすいし、逆に自分たちの守備陣形を整えやすくなるからだ。どちらがよくて、どちらが悪い、というわけではないけどね」
――アンドレス・イニエスタも、日本人選手には"間"が必要だと言っていた。
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「そのとおりだと思う。世界のトップレベルを見ると、スピードの変化が肝心だということがわかるよね。それは攻撃だけでなく、実は守備時にも有効なんだ。どんなにスピードがあっても、同じ速さでプレスをかけるよりも、加減速しながら詰めたり、相手の動きを読んだうえで、ここぞという時に急接近するほうが、ボールは取りやすくなる」
グスタフソンのプレーを見ていると、バルセロナでイニエスタと共に一時代を築いたセルヒオ・ブスケツに通じるものを感じる時がある。そう伝えると、彼は「サンキュー!」と言って、また声をあげて笑った。
「彼はすごい選手だよね。ただしブスケツは、パスや展開の能力は超一流だったけど、スピードに欠け、フィジカルもそれほど強くはなかった。自分にも似たところがあったから、それらは改善してきたつもりだよ。今ではスタミナもついたし、球際で激しく戦えるようにもなった」
では、グスタフソンがこれまでに対戦したり、プレーしたなかで、ベストプレーヤーをあげるとすれば、誰になるのか。
「Jリーグの選手で印象に残った選手といえば、昨季のチームメイトのヨシオ(小泉佳穂/現柏レイソル)や、新潟のアキヤマ(秋山裕紀)かな。
欧州では、代表で対戦したベルギーのケビン・デ・ブライネは、やっぱり別格だった。当時、彼は全盛期で、おそらく世界のトッププレーヤーのひとりだったから。セリエAで対戦したユベントスのパウロ・ディバラやゴンサロ・イグアイン、ナポリのロレンツォ・インシーニェもすごかったな。
ハッケンではヨーロッパリーグで、シャビ・アロンソが率いたレバークーゼンと対戦したけど、チームとしては彼らが最強だったと思う。ブンデスリーガを無敗優勝した時のチームだからね。中盤では今をときめくフロリアン・ビルツ、W杯王者エセキエル・パラシオス、経験豊富なグラニト・ジャカと対峙したけど、ほとんど歯が立たなかったな」
【クラブW杯は楽しみで仕方がない】
そう振り返るグスタフソンは今夏、欧州や中南米の名門と対戦することになりそうだ。アメリカで開催される初の32チーム制のクラブW杯に、浦和は2022年のアジア王者として出場する。浦和が入ったグループEには、アルゼンチンのリーベル・プレート、メキシコのモンテレイ、そしてイタリアのインテルが揃った。いずれも強豪だが、なかでも昨季のイタリア王者インテルは、今季のチャンピオンズリーグで決勝に駒を進めている。
「世界の真の強豪と対戦できることを嬉しく思っているよ。しかも記念すべき、新フォーマットの第1回大会だ。6月にこれが控えていると考えるだけでワクワクするし、日々の特別なモチベーションにもなっている。本当に楽しみにしているよ。リーベル・プレート、モンテレイとの対戦も待ち遠しいけど、やはりシモーネ・インザーギ監督が勝てるチームに変貌させたインテルとの一戦はすばらしい経験になるだろう。中盤でニコロ・バレッラやハカン・チャルハノールと対峙するのも、楽しみで仕方がないよ」
浦和の広報担当者によると、今夏にクラブW杯が開催されるアメリカには、多くの浦和サポーターも駆けつけるという。心強い存在の彼らについて尋ねると、グスタフソンは間髪入れずに「ファンタスティック」と即答し、日本のファンについても語るのだった――。
後編「グスタフソンがファンタスティックと語るJリーグのサポーター」へつづく>>(5月17日掲載)
サミュエル・グスタフソン
Samuel Gustafson/1995年1月11日生まれ。スウェーデン・メルンダル出身。2013年にヘッケンでキャリアをスタート。2016年にイタリアのトリノへ移籍。その後ペルージャ、ヴェローナ、クレモネーゼとイタリアでは5年間プレーした。2021年にヘッケンへ戻り、リーグ優勝とカップ戦優勝に貢献。2024年から浦和レッズでプレーしている。2022年からスウェーデン代表でもプレー。