
角田裕毅のヨーロッパ凱旋を祝福するかのように、今年のイモラ(第7戦エミリア・ロマーニャGP)は晴天に恵まれている。
2年前には洪水で開催中止になったこともあったほど雨の多い地域だが、今年は暑く汗ばむ強い陽射しに、青い空が広がっている。
今はミラノに居を構える角田だが、昨年までこのイモラに近いレーシングブルズの本拠地ファエンツァに住んでいた。それだけに、地元意識も強い。そしてテスト走行の機会も多く、2020年11月に初めてF1マシンをドライブしたのも、ここイモラだった。
あれから4年半──。角田裕毅はレッドブルレーシングのドライバーとして、この地に帰ってきたのだ。
「イモラは好きです。もちろん今までドライブしてきたマシンとは違いますし、新型フロアで走るのも初めてなので、このサーキットでレッドブルのマシンがどんな挙動を示すのか、まずは見極める必要があると思います。だけど、自信はありますよ。今回は10位じゃない結果を願いたいですね」
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RB21に対する理解は、レッドブル昇格から4戦を経て、徐々に進んできている。
日本GPから怒濤の3連戦をこなしたあと、ようやく旧型車テストやシミュレーター作業に取り組み挑んだマイアミGPでは、マックス・フェルスタッペンのマシンにのみ新型フロアが投入されたことで、フェルスタッペンとの差がマシンのせいなのかドライビングのせいなのか、正確に比較して把握することが難しかった。
そういう意味では、フェルスタッペンのドライビングから学んでRB21習熟を突き詰めることができなかった。しかし今回のイモラでは、角田のマシンにも新型フロアが投入され、ドライビング面でフェルスタッペンから学べる。スプリント週末でもなく、ナイトレースでもないため、3回のフリー走行がフルに使えるメリットも大きい。
「レーシングブルズのマシンをドライブするのはとても簡単でした。それは身体がマシンの挙動を覚えていて、何も考えなくても自然に反応してドライブできていたからです。でも、レッドブルのマシンはまだ予測できない動きをすることがあるので、そういう時に反応しきれないことがあります。
今週末は、マックスと同じ仕様のマシンをドライブすることができる。少なくともマシンの課題や限界がどこなのかを(フェルスタッペンのデータから)学べますし、そういった部分に対する理解も進められると思います」
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【得意のイモラで飛躍のチャンス】
さまざまな点でRB21のことを習熟しなければならないとはいえ、一番の課題はマシンの向きを最も効率的に変える方法だ。
フェルスタッペンは何年もレッドブルで戦ってきて、レッドブルのマシンが持つ速さを引き出す「絶妙なツボ」を知っている。
ブレーキング開始からブレーキを徐々に緩めていき、コーナーに向けてステアリングを切り込んでいくターンインのプロセスのなか、常にマシンの姿勢が変化することでマシンの前後を抜ける気流が変わり、ダウンフォースの量とマシンバランスも変化した「ここぞ」のタイミングで、ステアリングを切る。
それは、リアが流れる瞬間であったり、逆にアンダーステアになってリアの安定感が増す瞬間であったり......。そのコーナーごとに最適なマシンバランスの瞬間を作り出すことで、RB21を最も速く回頭させるのだ。
角田がその能力に乏しいドライバーなのではない。単純にレッドブルのマシンにまだ身体が慣れていないこと、RB21の「ここぞ」というウインドウが狭いこと、さらにはシミュレーターと実走の誤差など、さまざまな要素が重なり合って現状がある。
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「レッドブルのマシンは、ターンインしていく時にタイミングを合わせるウインドウがとても狭くて、まだそのウインドウをつかみきれていないんです。正確に『ここだ』というタイミングでターンインできていない。そのせいで、おそらくマックスが実現できているマシンバランスよりも前後がバラバラのバランスになってしまっているんだと思います」
レーシングブルズのマシンでは、そういうマシンの限界値を利用したドライビングを難なくこなしていた。だからこそ、あの速さが発揮できた。
ただ、いずれレッドブルのマシンでもそれができるようになると、角田は考えている。必要なのは、時間と経験、そして比較対象だ。
「だからこそ、今週末はマックスとほぼ同じ状態のマシンで走ってどんな挙動を示すのか、楽しみにしています。今週末は3回のフリー走行を使えるので、マイアミGPとはまた違ったトライができるチャンスもあると思っています」
自分自身が得意とするこのイモラで、夢だったレッドブルレーシングのドライバーとして角田裕毅がどのような成長を見せてくれるのか、楽しみにしたい。