予選2番手が確定し、長男の凛太郎(右)と喜ぶ佐藤琢磨 第109回インディアナポリス500マイルレース(インディ500)の予選2日目は、最後に劇的なドラマが待ち受けるインディ500らしい1日だった。
レイホール・レターマン・ラニガン(RLL)の佐藤琢磨は、今年16回目の出場となるが過去3年間はトップ10以内で予選を通過しており、インディ500ファンの間では琢磨のアテンプトの突進ぶりは、注目のひとつでもある。
ただ今年について言えば、予選までも浮き沈みが激しく決して楽な戦いをしているわけではなかった。予選1日目も9番手で通過したものの、チーム・ペンスキー、チップ・ガナッシ・レーシングらが圧倒的なスピードで凌駕しており、ファスト12から次のステップになるファスト6に進むのは、現実的には至難の技だった。
「予選1日目を終えて、現実的にはチームと話してもファスト6になるのがターゲットでしたし、12台の顔ぶれを見ても、ファスト6に入るのはかなり厳しいと思ってました」と琢磨はいう。
予選2日目のファスト6にチャレンジする12台は、ペンスキー3台、チップ・ガナッシが2台、アロウ・マクラーレンが2台、アンドレッティ・グローバル、RLL、メイヤー・シャンク・レーシング、A.J.フォイト・エンタープライゼス、プレマ・レーシングが各1台という内訳だった。
13時からの予選前のプラクティスでは、昨年ポールのスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)がターン2でクラッシュし、大ダメージを負ってしまう。ファスト6までのインターバルにバックアップカーの準備が間に合うとは思えず、これで1台が姿を消したことになる。
琢磨はこのプラクティスの間に2度コースインするが、満足に手応えを感じてはいなかった。「いろいろ試したかったけどあまり速くないねぇ(笑)、さて予選はどうしよう? なるようにしかならないけど」と苦笑いする。
16時になりプラクティスから2時間のインターバルを置いて、12台がアテンプト順に並び予選が始まった。まずはアンドレッティのマーカス・エリクソンからコースイン。琢磨のアテンプト順は4番目だが、予期せぬハプニングが起きたのは、その最中だった。琢磨の目前にいたペンスキーのウィル・パワーがリヤウイング下のテザーの取り付け位置の加工が車両違反と判断され、ウィル・パワーとペンスキーのチームメイト、ジョゼフ・ニューガーデンは失格となり、アテンプトの列から外されてしまった。
前代未聞の出来事に騒然となったものの、淡々と予選は続き、琢磨の順番はあっという間に回ってきた。朝のウォームアップよりも気温は少し上がっていたが、琢磨は勢い良くコースインしてアテンプトに入った。
1周目231.937mph、2周目231.880mph、3周目231.376mph、4周目231.550mphで、4周平均231.686mphをマークして、まずはトップに立つ。
琢磨のタイムを上回ったのは、メイヤー・シャンクのフェリックス・ローゼンクヴィストがトップタイムで、次にマクラーレンのパト・オワード、プレマで乗るルーキーのロバート・シュワルツマン、チップ・ガナッシのスコット・ディクソン、アレックス・パロウの5台で、琢磨は6番手ギリギリでファスト6に進むことができた。
トップ12予選の時点でペンスキーの3台がいなくなったことの影響は大きい。だがルールはルール。琢磨はファスト6進出を喜びながらも、すぐにマシンのセッティングを、相棒エンジニアのエディ・ジョーンズと練り始めていた。
18時という遅い時間に最後のファスト6が始まった。まずは6番手で通過した琢磨からのアテンプト。陽が傾き気温も少し下がって条件は良くなっていた。
場内の拍手を受けながら琢磨の75号車はコースインしていく。場内の観衆が見つめるなかで琢磨の計測が始まった。
琢磨の1周目は233mphの大台を越え、場内は大歓声に包まれた。1周目233.024mph、2周目232.308mph、3周目232.552mph、4周目232.030mphとうまくタイムを揃え、平均232.478mphのタイムをマークする。
リヤウイングも寝かせてギヤを変えて、というセッティングの変更が功を奏した。琢磨はピットボックスに戻りマシンを降りると、クルーのひとりひとりと握手を交わした。
琢磨の後に5台アテンプトしたものの、琢磨のタイムを上回ったのは、なんとプレマのシュワルツマンだけだったのだ。コンディションが変わった影響もあろうが、チップ・ガナッシのディクソン、パロウらが琢磨のタイムを上回れなかったのは、意外でもあった。
ファスト12からタイムアップできたマシンも少なく、コンディションに合わせた琢磨とチームのコンビネーションが2番手フロントロウのポジションを獲得した。これは琢磨自身が持っている日本人予選最高位3番手(2020年)を更新するもので、2度目のフロントロウからのスタートになる。
「やりましたよ! 本当はポールポジション取りましたって言いたいところだけど2位でした(笑)。でもエンジニアとクルーのみんなが良く頑張ってくれたので、チームのおかげです。予選までも順調に来ていたわけではなかったし、行ったり来たりしながらの状態でしたけど、一歩一歩進んで来て頑張ってきた結果だと思います」と琢磨。
「リヤウイングの角度とかファスト12の時に他のマシンを見ながら確認して、コクピットで待っている時に、まだ行ける! と話しながら、最後に変更したし、ハイブリッドもうまく使えたと思います。やっぱりここまで速かったチップ・ガナッシ勢を最後に上回れたのは素直にうれしい。でも決勝に向けてはマシンもまだまだだし、月曜とカーブデイの2回のプラクティスでマシンをしっかり仕上げないといけないですね」と、喜びながらも兜の緒を締めるコメントだった。
悲願のポールポジション獲得はならなかったが、優勝の2017年と2020年を思い起こさせる予選はエキサイティングだった。決勝に向けては楽観はできないと琢磨本人が言っても、日本のファンは来週日曜の決勝を期待せずにはいられないだろう。
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[オートスポーツweb 2025年05月19日]