「1杯3850円のそば」で騒いでる場合じゃない! 大阪・関西万博で“意識高い系”店舗に注目すべき理由

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2025年05月20日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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万博のスシロー店舗では、海洋資源を守る新しい技術を駆使している

 開幕から1カ月で一般来場者が260万人を超え、人気が高まりつつある「大阪・関西万博」。中でも会場内のレストラン人気が高く、長蛇の列ができている店も目立つ。「1杯3850円のそば」が物議を醸すなど、高額なメニューばかりがクローズアップされているが、実際は市中の店と同じくらいの価格で販売されているものも多い。


【画像】確かに、意識が高い! スシロー未来型万博店の内部、万博ならではの演出、独自メニュー(計5枚)


 そうした中で注目すべきは、地球環境を守ったり、特定原材料のアレルギーの人でも楽しめたりする、サスティナブルなテーマを持った“意識高い系”の店だ。持続可能性や普遍性を意識しており、現状では万博でないと成立しにくい実験店である。


 例えば「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESは、陸上養殖のウニなど、海洋資源を守る新しい技術を駆使した、養殖魚を使った回転すし店を出店している。サントリーホールディングスの傘下であるダイナックは、土壌を改良しつつ作物を育てる「再生農業」によって栽培した大麦やホップを使ったビールを提供する。


 さらに、ビーフンのトップメーカーであるケンミン食品では、米国・ボストンの人気ラーメン店「Tsurumen Davis」の大西益央氏と共同開発で、小麦アレルギーの人でも食べられるグルテンフリーのラーメンを提供する「GF RAMEN LAB」を出店した。


 今回はこうした現代社会の問題解決に取り組む、万博内飲食店を紹介していきたい。


●「未来型」スシロー万博店の特徴とは?


 スシローの万博店舗は「未来型」と称し、通常の店舗とは異なった養殖魚、特に陸上養殖をメインに据えた店となっている。コンセプトは「まわるすしは、つづくすしへ。―すし屋の未来2050―」。陸上養殖、完全養殖など、気候変動、海洋環境の変化に左右されない先端技術で育てた水産物を「あしたのサカナ」シリーズとして提供している。


 「陸上育ちの磯まもりウニ包み」を始め、〆サバや「ピカーラうなぎ(ニホンウナギと異なる東南アジア原産のピカーラ種)」「国産生アトランティックサーモン」など。これらが陸上養殖されている事実に驚かされる。養殖業が漁業の未来を支える産業として有望なことや、食材としての完成度の現在地をアピールする店となっている。


 価格は、最も高価なウニ包みが1皿1カンで550円。「あしたのサカナ」以外も1皿が2カン160円〜と、回転すしとして決して安くはない。しかし、これからのすしや漁業の方向性を示唆した、まさに未来型の店舗となっている。


 スシローの万博店では、デジタル上で回転すしを体験できる「デジロー(デジタル スシロービジョン)」を全席に設置。店舗限定として、水産資源の課題を学べるゲーム「UNI CATCH GAME(ウニキャッチゲーム)」も導入している。


 同店の養殖ウニは、ウニノミクスという企業から調達したものだ。ウニノミクスは地球温暖化などの要因により、増えすぎたウニが藻場を食い荒らし、魚介類が住めなくなる「磯焼け」問題の解決を、事業の目的に据えている企業である。


 磯焼けの解消にはウニの間引きが必要だが、そもそも磯焼けの海域に生息するウニは増えすぎのため餌が欠乏し、やせ細って身入りが悪く、売り物にならない。そのため磯焼けが放置され、健全な海の生態系を破壊しているわけだ。


 そんな中、ウニノミクスではやせたウニを漁業者から買い取って、陸上の水槽に移し、十分な栄養を与えて高級食材として蘇生し販売している。藻場を守り、魚介類の個体数を回復させるとともに、ウニの特産物化との両立を目指している。


 シャリに使う米は、農薬や化学肥料の使用を半分に抑えた環境保全米の、宮城県産ササニシキと北海道産ななつぼしを1対1で配合。世界のさまざまな食の禁忌を考慮して豚肉は使っていない。


●会場内に複数店舗を展開する企業たちも


 サントリーホールディングスは、「水と生きる」を基本コンセプトに掲げ、商業棟「ウォータープラザ西棟」の1階にカフェ「SUNTORY PARK CAFE」、2階にレストランの「水空 SUIKUU」と「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所 大阪・関西万博 ウォータープラザ店」を構える。


 近畿大学水産研究所は、近大が開発した養殖魚の専門店だ。世界で初めて完全養殖に成功した「近大マグロ」を提供しており、2種類の魚を掛け合わせて両方の長所を引き出した「サラブレッド魚」の「クエタマ(クエ×タマカイ)」や、「ブリヒラ(ブリ×ヒラマサ)」「キンダイ(イシダイ×イシガキダイ)」も提供する。これらを提供しつつ、万博店ではファミリーを意識して、手桶寿司などの御膳メニューを中心に提供している。サイドやデザートメニューは、水産研究所の本部がある和歌山県の産品を中心に提供している。


 海底をイメージした映像や音響による演出を行い、養殖されたニホンウナギが泳ぐ水槽を鑑賞できるのも特徴だ。


 レストラン「水空」は、ダイキン工業の空調技術により、ウォーターフロントである夢洲にいながら、さながら森林に囲まれ清流が流れる、高原に来ているような爽やかな雰囲気を演出する店舗である。食事は和洋折衷だ。和の炊き込みご飯を用意し、メインとなる洋の合鴨のロティやハンバーグを同じプレートで提供する。


 同店限定のビール「サントリー水空エール」は、農地を極力耕さず土壌の肥沃度を向上させるためにカバークロップを植える「再生農業」という手法で生産した麦とホップを使用。再生農業ならば、耕運機によるエネルギー消費が節約でき、温室効果ガスの発生源となる化学肥料の使用が抑えられる。


 SUNTORY PARK CAFEでは、全粒粉のパンを使ったホットドッグや、湘南・鵠沼海岸の人気かき氷店「埜庵(のあん)」監修の「サントリー天然水」でつくったかき氷を販売。水源を守る「サントリー天然水の森」の材木を使った、食器やテーブルも見所だ。


 複数店舗を展開する企業としては、たこ焼き「くくる」や芋菓子「らぽっぽ」を展開する、白ハト食品工業も挙げられる。会場内で5つのエリアに出店しており、「おいもといちごとりんごのらぽっぽFarm to the Table」は、可動式の鉄コンテナで栽培した、さつまいもといちごの畑やりんごの木を見ながら、ピザなどの食事メニューだけでなく、パフェやさつまいもチップスといったスイーツを楽しめるようにした。新しい6次産業の形を提示している店舗だ。調理は可動式のキッチンで行い、万博終了後も、畑とキッチンが可動式なので、移転開業が可能な店舗となっている。


●「日本初」のグルテンフリーラーメンを手掛けたブランドが出店


 グルテンフリーも、万博の大きな食のテーマの一つだ。


 ケンミン食品では、グルテンフリーラーメンを販売する「GF RAMEN LAB」を出店。米国・ボストンでラーメン店を営む大西氏は、顧客から「グルテンフリーのメニューはどれか?」と尋ねられ、残念ながら断らざるを得なかった悔しい経験から、全ての人にラーメンを味わってもらいたいと、グルテンフリーラーメンの研究に着手した経緯がある。


 ビーフンをはじめ、フォーなど米麺の製造販売で長年の実績を持つ、ケンミン食品に共同開発を依頼した格好だ。数年間の試行錯誤を経て、米麺にかんすいを加え、食感が通常のラーメンの麺とそん色ない「ライスヌードル」が完成した。「みやざき地頭鶏」を使用した醤油スープも開発し、2022年から「日本初」のグルテンフリーラーメンの冷凍食品として販売している。


 近年、特に欧米では、小麦・ライ麦・大麦などに含まれるタンパク質の一種・グルテンの摂取により、小腸がダメージを受け、栄養の吸収を妨げる病気が深刻化している。農林水産省とグルテンフリーライフ協会の調べによれば、グルテン関連の患者数は米国で1200万〜2600万人、欧州では400万〜4900万人にのぼるとされる。


 万博に出店したGF RAMEN LABでは、既に米国・ボストンで名物となっている、淡麗な鶏油しょうゆラーメンに加えて、淡路島のミネラル分が多い塩を使った柚子塩ラーメン、鶏白湯しょうゆラーメンなどを販売。香味野菜や豆乳を使った、プラントベースのとんこつ風ラーメンにもチャレンジしている。


●ブラックモンブランがプラントべ―スに


 「ブラックモンブラン」で知られる竹下製菓では、2024年にグループ会社化した米粉チュロスジャパンと共同で、新感覚スイーツ専門店「EARTH SWEETS」を出店。国産米粉を使用した、グルテンフリーのチュロスを販売している。


 米粉チュロスジャパンは2011年に創業し、国産米粉のチュロスを製造してきた企業だ。オリジナルの生地はグルテンフリー、揚げ油も国産の米ぬかのみを精製した米油を使用している。EARTH SWEETSでは、これまで廃棄してきた酒米を磨いた後の粉を、通常の国産米粉とブレンドして使用。フードロスの削減にも貢献している。


 アイスでは、米国・カリフォルニア州のスタートアップ、Eclipse Foodsの日本法人、エクリプス・フーズ・ジャパンとコラボ。エクリプス・フーズはプラントベースの代替乳製品を手掛けており、乳製品と変わらないクリーミーさとコクが人気を博している。両社はこれまでも、コンビニなどで限定的に販売する商品でコラボしてきた経緯があり、今回はプラントベースのブラックモンブランを販売する。


 万博会場内の飲食店には、「いのち輝く未来社会のデザイン」というやや漠然とした今回の万博テーマを踏まえ、各社が考え抜いた独自の取り組みが現れている。とはいえ、万博でしか提供していない特別メニューがほとんどのため、安価とはいえない商品も多い。平日6000円、休日7500円という入場料を払い、場合によっては長時間並んでまで食べることに意義はあるのか――と疑問を抱く人も多いだろう。その中で、今回紹介したような、意識の高い取り組みこそ、もっと注目されるべきではないか。


(長浜淳之介)



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