三笘薫、今季プレミア10ゴールの意味 日本史上、最もバランス感覚に富むアタッカーに

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2025年05月20日 18:30  webスポルティーバ

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 本格派のストライカーに分類される選手は、言い換えればセンターフォワードだ。1トップ。点取り屋の異名があるように、ゴール数がそのまま評価の基準になる。レベルにもよるが、2試合に1点取るストライカーは超一流だ。常時先発を飾る選手ならば3試合に1点が及第点だろう。

 しかし、今季のプレミアで現在28点を挙げ、得点王の座をほぼ確実にしているモハメド・サラーは右ウイングだ。ウイングプレーをこなしながら得点にも関与する。ゴール前で待ち構える本格派ストライカーより、必然的にプレーの機会が多くなる。ポジションとしての人気は上がりやすい。

 クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシもいい例だ。いずれも本格的ストライカーではない。ウイング兼ストライカーだ。ヴィニシウス・ジュニオール、ラミン・ヤマルもここに含まれる。かつてサッカーで最も人気を集めたポジションと言えばトップ下だった。10番、司令塔。ファンタジスタなるイタリア語も流行した。中田英寿が活躍した時代だ。

 サッカーはそこから様変わりした。トップ下は2トップ下から1トップ下に概念を変え、中盤というよりFW色を強めている。ボールを操る時間は自ずと減った。相変わらず花形のポジションではあるが、見せ場は減った。一方で台頭してきたのがウイングだ。プレッシングの台頭と比例するように、今日のサッカーにおいて不可欠なポジションになっていく。

 ウイング兼ストライカーはその進化形だ。ドリブル&フェイントを披露しながら、ゴールも奪う。大外に張りながら、機を見て中央に進出。得点に絡むためには何よりサッカーセンスが求められる。それはバランス感覚であり、頭脳的な動きだ。この難しいテーマを解決しない限り、ウイング兼ストライカーは務まらない。

 プレミアリーグ第37節。リバプールをホームに迎えたブライトンは1−2で迎えた後半20分、サイモン・アディングラ(コートジボワール代表)に代えて、三笘薫を投入した。

 その直後、リバプールは右ウイング、サラーがウイング兼ストライカーのようなプレーで決定的なチャンスを迎える。サラーが放った近距離からの左足シュートは瞬間、決まったかに見えた。今季の得点を29点に伸ばしたかと思われた。ところがブライトンのGKバート・フェルブリュッヘン(オランダ代表)がこれを神懸かり的な反応でストップする。試合の流れはこれを機に変わった。

【決勝点でもポイントになるプレー】

 最も高い貢献を果たしたのは三笘だった。

 後半24分、中央を持ち上がったカルロス・バレバ(カメルーン代表)から左の三笘にパスが出る。対応に出たリバプールの右SBコナー・ブラッドリー(北アイルランド代表)と右CBイブラヒマ・コナテ(フランス代表)の間に狙いをつけ、その裏を走るダニー・ウェルベック(元イングランド代表)にスルーパスを送った。見逃せないのはその後、パス&ゴーで内に入った三笘の動きだ。ウェルベックが放ったシュートがGKアリソン・ベッカー(ブラジル代表)のセーブで跳ね返ると、反応鋭く左足をたたむようにインステップでミートさせた。

 ブライトンが2−2に追いついた瞬間である。その直前に、ブライトンゴールにシュートを放ったサラーの動きを彷彿させるような、ウイング兼ストライカーらしい動きだった。これを決めきれなかったサラーと、決めきった三笘。サラーも脱帽したに違いない一撃だった。

 三笘にとって記念すべき今季プレミアリーグ10点目のゴールである。ウイングプレーというチャンスメークと、得点を決めるといういわば相反するプレーを両立させる離れ業を10回成功させたことになる。ゴール正面で構える本格派のストライカーが奪った10ゴールとは内訳が違う。

 ブラッドリーとコナテの間に差し込んだスルーパスに話を戻せば、それは10番的なプレーでもあった。ウイング兼ストライカー兼ゲームメーカー。三笘の同点弾にはプレーには3つの異なる要素が凝縮されていた。まさに三拍子揃った好選手。人気が出るのは当然である。

 その伝で言えば、遠藤航(ブラッドリーに代わり後半32分投入)とマッチアップした後半40分のシーンにも触れなければならない。三笘は遠藤をいたぶるような動きで引きつけると、大外を走るマット・オライリー(デンマーク代表)にパスを出した。

 その折り返しが試合を3−2でひっくり返す逆転弾のアシストになった。ウイング兼ゲームメーカー的な動きでオライリーのアシストプレーを引き出したのだ。単に10ゴールを決めただけではない。そこに高い価値を感じる。

 前々日にはブンデスリーガでフランクフルトと戦った堂安律(フライブルク)も今季10ゴール目を決めた。プレミアとブンデスリーガの間にはそれなりのレベル差がある。リーグランキングでは1位と4位の関係にあるとはいえ、堂安の10ゴールもウイング兼ストライカーとして評価すべき数字になる。

 だが、森保監督は日本代表で両者をウイング"バック"として起用する。その多彩さを自ら抑え込む愚策に気づかないでいる。

 レアル・ソシエダの右ウイング、久保建英のゴール数は現在5だ。こちらはウイング兼ストライカーと呼ぶには若干物足りない数字である。スペインのリーグランクは2位。ランク1位のプレミアで10ゴールを挙げた三笘が際立つ格好だ。

 左ウイングでありながらオールラウンドな能力を発揮する、日本サッカー史上、最もバランス感覚に富むアタッカー。三笘の価値はそこにある。

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