
今回は、これから塾選びを始める小学生のお子様を持つご家庭に向けて、主要な大手4塾(SAPIX、早稲田アカデミー、四谷大塚、日能研)の教材やカリキュラムに焦点を当て、中学受験の実情を分かりやすく解説します。
小学校でトップ成績の子でも中学入試問題が解けない理由
まず知っておいていただきたいのは、小学校で学ぶ内容と中学入試で問われる内容は全く異なるという事実です。小学校のカラーテストで常に満点を取るようなお子様でも、中学入試の算数や理科、社会の問題は解けません。なぜなら、中学入試では小学校では扱わない特殊な解法(特に算数)が多く用いられ、国語・理科・社会においても高校入試レベルの知識や思考力が問われる設問がほとんどだからです。
分かりやすい例として、四谷大塚の小学6年生が受験する12月の合不合判定テストで社会の偏差値が60程度ある生徒が、公立高校入試の社会(中学3年生対象)を解くと、9割近く得点できるというデータがあります。これは、中学受験の学習内容が小学校の範囲をはるかに超えていることを示しています。
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中学受験大手4塾のカリキュラム進度について
現在、首都圏の中学受験において主要な大手塾は、SAPIX、早稲田アカデミー、四谷大塚、日能研の4つに大別されます。これらの塾の中学入試に向けた標準的なカリキュラムは、小学4年生から小学6年生前半までの約2年半で、入試に必要な基礎単元を全て学習するように組まれています。
小学6年生の夏休み前までに主要な単元学習を終えるという大枠は、SAPIX、早稲田アカデミー、四谷大塚、日能研のどこも大きく変わりません。
ただし、これは年単位のロングスパンで見た場合の話です。科目によっては、各塾のカリキュラム進度に2カ月程度の差が生じることがあります。この進度の差が、特に難関校を目指す上では合否を分ける致命傷になりうるため、注意が必要です。
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首都圏の難関校受験者が気を付けたいこと
大手4塾のカリキュラム進度を比較すると、早稲田アカデミーは四谷大塚のメインテキストである「予習シリーズ」を使用しているため、四谷大塚と同じカリキュラム進度で学習が進みます。したがって、実質的には「四谷大塚+早稲田アカデミー」「SAPIX」「日能研」の3グループで比較できます。「予習シリーズ」は、2021年2月から3年間かけて全学年・全科目が改訂されました。改訂後の算数・理科・社会の3科目のカリキュラム進度を平均すると、SAPIXよりもやや速く、日能研よりは1カ月程度速いというイメージです。
国語については、日能研の知識分野の履修が遅い傾向がありますが、これは国語の主要単元ではないため、全体のカリキュラム進度への影響は小さいと判断できます。
結論として、主要科目のカリキュラム進度は、「四谷大塚+早稲田アカデミー ≧ SAPIX > 日能研」の順で速いと考えてよいでしょう。
そのため、首都圏の最難関校や難関校を目指す場合、日能研のカリキュラム進度は、他塾に比べてやや遅れる傾向があるため注意が必要です。
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近年、社会では地図の読み取り問題や図版をカラーで出題する私立中学校も多いですし(聖光学院中、渋谷幕張中、東邦大東邦中、豊島岡女子中、本郷中など)、理科の設問をカラーで出題する学校も増えてきているからです(栄光学園中、渋谷幕張中、鷗友中など)。
日能研が四大塾の中で唯一全国に展開し、地方の公立中高一貫校の適性検査なども視野に入れたカリキュラム・教材開発を行っている点は、他塾との大きな違いと言えるでしょう。こうした背景が、教材の特徴にも影響を与えていると考えられます。
特に教材がモノクロであることについては、全国的な私立・公立中高一貫校の入試問題においてモノクロ形式が多数派である現状に加え、多くの生徒数と校舎数を広範囲に抱える上での教材制作コストなどの要因が複合的に影響していると思われます。
早稲田アカデミーがSAPIXを逆転した理由
もちろん、どんな塾でも地域や校舎、生徒のレベル、志望校に合わせて対応策は講じていますし、日能研に難関校合格者を多数輩出している実績があることは言うまでもありません。しかし、カリキュラムや教材の変更が受験結果に与える影響は大きいものです。
2025年度の首都圏中学入試における合格者総数において、早稲田アカデミーがSAPIXを逆転した(※)要因の1つには、四谷大塚の「予習シリーズ」改訂の影響があったといえます。
筆者は普段から、大手4つの塾それぞれの生徒さんを個別に教えています。そのため、各塾のカリキュラムの進み方や、どのような教材やテストを使っているのかを、間近で見ながら把握しています。上記でお話しした内容は、たくさんの生徒さんと向き合う中で、塾講師として肌で感じたことに基づいています。
実は違う? 大手塾のメイン教材と市販教材
大手進学塾の教材量は、例えるならホテルのバイキング料理のようなものですから、全部やろうとすると消化不良を起こしてしまいます。生徒のレベルと食欲には個人差があるため、全ての生徒に対応できるようにしようと思うと、あの膨大な量になるわけですが、大切なのは、自分にとって必要な学習内容を効率よく吸収すること。食品ロスならぬ「教材ロス」が少ないようにすることです。自分に合った教材を選び、必要な部分に絞って取り組む工夫が求められます。
なお、四谷大塚の「予習シリーズ」は公式Webサイトから個人でも購入できますし、特に理科や社会はよくまとまっているので、日能研やSAPIXに通っていても興味のある方は、購入して補助教材として使うといいでしょう。
また、みくに出版が販売している日能研の教材(「メモリーチェック」など)は校舎やクラスによっては使用する生徒がいますが、SAPIXの「コアプラス」は通塾生は使いません。つまり、書店で購入できる教材が、必ずしも通塾生がメインで使う教材ではないということです。
では、実際のメイン教材はどのようなものかというと、日能研は分厚い電話帳のような教材で、SAPIXは分冊になっている膨大なパートワーク型教材をイメージするとよいと思います。
SAPIXのパートワーク型教材には整理用のファイルがついていないなど、整理が大変な側面もあります。それに比べると、「予習シリーズ」は実によくまとまっており、理科や社会は中学入学後も参考になる場合があります。
大手塾ではなく個別塾という選択肢もある
大手塾であっても、小回りの利く規模や環境の校舎では、生徒に合わせて教材の取捨選択や進度調整を現場の教師が行っているのですが、塾の方針として他社のよい教材であっても公式には勧められないといったボトルネックもあります(例えば、日能研の教師が生徒に「予習シリーズ」を勧められないなど)。ここで、大手塾の画一的なカリキュラムや教材だけでは合わないと感じる場合に、個別指導塾という選択肢が考えられます。個別指導塾では、お子様一人ひとりの習熟度や志望校に合わせて、使用する教材や学習内容の質と量を細かく調整できます。
例えば、四谷大塚の「予習シリーズ」など優れた教材をベースとしながら、お子様に本当に必要な学習に絞って集中的に取り組むなど、柔軟な対応が可能です。筆者の塾のように、テキスト作成経験者が指導にあたる場合もあります。
中学受験は一生に一度の大切な経験です。ご家庭にとって、そして何よりお子様にとって最も納得のいく形で受験に臨めるよう、さまざまな選択肢を検討し、最適な学習環境を見つけていただきたいと思います。
(※)ダイヤモンドオンライン 中学受験塾「合格力」ランキング【首都圏28塾・2026年入試版】6位早稲アカ、ベスト5は?合格校の平均偏差値が高い塾はどこか
小野 博史プロフィール
準大手中学受験塾トップクラスの指導を皮切りに、教室長、教材部長などを歴任。平成8年、千葉県柏市で中学受験・私立中高専門塾エクセレントゼミナールを設立主宰。講師として35年超、合格率にこだわった受験指導で1000人以上の受験生を送り出す。SAPIX、日能研、四谷大塚などの大手塾の生徒にも個別指導をしており、的確なセカンドオピニオンを提供することで合格可能性を広げ、悔いのない中学受験に導くことを身上とする。(文:小野 博史(中学受験ガイド))