今年の虎の4番はここが違う! 名コーチ・伊勢孝夫が語る「大人になったサトテルの打撃」の全貌

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2025年05月21日 07:30  webスポルティーバ

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 阪神のサトテルこと佐藤輝明が好調だ。5月20日現在、打率.284をマークし、11本塁打、33打点はともにリーグトップ。セ・リーグ首位を快走する阪神の4番として、十二分の活躍を見せている。

 そしてファンにとって注目は、サトテルが初めてタイトルを獲れるかどうかだろう。はたして、今年のサトテルは本物なのか。これまで数々のスラッガーを育ててきた名コーチ・伊勢孝夫氏に分析してもらった。

【大人になったサトテル】

 今季、「サトテルはひと皮剥けたな」と感じさせた一発があった。5月1日にバンテリンドームで行なわれた中日戦の5回表の打席だ。相手投手は左腕の三浦瑞樹。2ボール1ストライクからの4球目、3球続けてスライダーがきたあとの外角低めのストレートを、レフトスタンドに叩き込んだ。

 球速は142キロ。サトテルならふつうに仕留めてもおかしくない球だった。だが、それでも無理に引っ張ることなく、広いバンテリンドームのレフトスタンドへと運んだその打撃には、「大人になったサトテル」を感じずにはいられなかった。力任せではなく、来た球をしっかりと叩くだけ──そんなシンプルかつ成熟した意識が伝わってくる打席だった。

 このような打球が生まれる背景には、技術的な進化がある。具体的には、前足の出し方だ。左打者にとっての前足、つまり右足が非常に柔らかく出ている。開幕当初はそうではなかったが、この1カ月ほどで今の形になってきた。

 そもそも柔らかいステップができると、バッティングにどのような好影響をもたらすのか。最大のポイントは、体重移動がスムーズになることだ。

 以前のサトテルは構えてから足を上げ、ズドンと踏み下ろすようにして体重移動していた。その状態でスイングすると、ボールを叩きつけるような感じになり、当たれば飛んでいくが確実性に乏しかった。

 それが今は軸足である左足に体重を残しつつ、柔らかいステップでスムーズに体重移動ができている。その結果、ストレートはもちろん、変化球にも対応できるようになっている。いわゆる「バットの出がいい」状態なのだ。

 本人も「上半身の力を抜き、下半身から力を使えている」と語っていたが、そのおかげで苦手だった高めの球も仕留められるようになってきた。

 これは私の憶測にすぎないが、昨シーズン後半、サトテルはメジャー流の"すり足"に近いステップを試していた。今年のキャンプでもそのようなフォームだったと記憶している。そこから徐々に、今の形に修正していった。よりいい感覚を求めて模索するなかで、メジャー流から自分に合ったスタイルにたどり着いたのだろう。

【課題はスランプ脱出法】

 ただ、サトテルが"覚醒"したのかと問われれば、まだ疑問符がつく。というのは、150キロを超える力あるストレートを完璧に捉えた打球がほとんどないからだ。高めのストレートを本塁打にするシーンもあったが、そのボールも150キロ未満だった。速い球を仕留めてこそ、ますます手のつけられない打者へと成長していくのだ。

 当然ながら、他球団のバッテリーは対策を練ってくるだろう。考えられるのは、インハイを意識させつつアウトローで仕留めるパターンか、もしくはその逆でアウトローを攻めておいて、最後にインハイを突いて打ち取るパターンだ。さらに、インハイを意識させておいて、インコースの膝もとに投げ込む、いわゆる"左打者攻略パターン"を徹底してくるはずだ。

 そうした攻めに対し、どこまで対応できるかがカギになる。また技術的な問題はもちろんだが、このレベルになると"頭脳"も必要になってくる。要するに、どこまで配球を読めるかだ。

 それに加えて、コンディションの維持も重要になる。選手も生身の人間である以上、毎朝決まった時間に球場入りし、同じルーティンを繰り返しても、微妙なズレや狂いは生じてくる。毎打席まったく同じスイングをすることは不可能だ。逆に言えば、バッテリーはそのズレを生じさせるために配球を工夫しているわけだ。

 今後、必ず不振になる時期はやってくる。そのタイミングだが、交流戦あたりがポイントになるのではないかと思っている。パ・リーグはセ・リーグに比べて力で押すタイプが多く、150キロを超える投手はたくさんいる。そうした投手相手にどれだけ結果を残せるか。サトテルにとっては真価を問われる交流戦になりそうだ。

 たとえ不振に陥っても焦らないことだ。これまで打ち返していた球がファウルになったり、空振りしたりすると「おかしい」と焦りが生まれる。その際、スイングに力みが生まれ、柔軟性が失われる。レフト方向の打球が減り、セカンドゴロが多くなると危険信号だ。

 ただ、打者であれば誰しもスランプに陥る。そして一流と呼ばれる選手ほど、その期間を短くしのぐのだ。

 これまでのサトテルを見ていると、そこに時間がかかってしまう傾向がある。おそらく昨年までは、本当の意味での打撃理論や、自分にとってのチェックポイントが明確になっていなかったのではないか。だからこそ、スランプに陥ってから復調するまで長い時間を要することになった。そうであるならば、今こそ自分の打撃と向き合い、確固たる"型"を築く絶好の機会だ。

 もしサトテルが自分のスタイルを確立できたなら......初のタイトルの可能性も見えてくるのではないだろうか。

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