
稲垣吾郎が、現在、ロングラン上演中の舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」にハリー・ポッター役で出演する。本作は、小説「ハリー・ポッター」シリーズの作者であるJ.K.ローリングらが、舞台のために書き下ろした「ハリー・ポッター」シリーズの8作目の物語で、小説の最終巻から19年後、父親になった37歳のハリー・ポッターとその息子・アルバスの関係を軸に新たな冒険物語が描かれる。稲垣に本作への意気込みや舞台に出演することへの思いなどを聞いた。
−出演が決まった心境を聞かせてください。
夢のようでうれしかったですが、同時に「まさか!」と笑ってしまって(笑)。あまりにもうれしいときって、笑ってしまうことがありますよね。まさにそれで、自分がハリー・ポッターを舞台で演じるとは考えたこともなかったので、あまり現実味がなかったです。スネイプさんと言われたら分かる気がしますが、ハリーさんですから(笑)。ただ、冷静に考えると、僕が演じることで、僕なりのハリーが生まれるのかもしれないと感じましたし、自分にもぴったりなキャラクターなのかなとも思いました。
−ハリーを演じる上で、どんなことを意識したいと考えていますか。
この偉大な作品のファンの方は世界中にいて、そうしたファンの皆さんの熱量は高く、作品についても僕よりも詳しい方が多いと思うので、プレッシャーはもちろんありますが、「ハリー・ポッター」ファンの皆さんにも認めていただけるように演じたいと思っています。ただ、同じ役を演じても俳優が違えば同じ形にはならないというのも舞台の面白いところですので、自分らしさが出せればいいなと思います。
−稲垣さんらしさというのはどんなところにあると思いますか。
やっぱり猫に対してのあふれる父性かな(笑)。僕には子どもはいないですが、父親の気持ちに共感するところも多くあったので、「父親」を繊細に演じたいと思っています。特にハリーと息子のアルバスが子ども部屋で話すシーンはすごく切ないなと感じました。そうしたシーンも丁寧に、僕なりの表現で演じられればと考えています。「ハリー・ポッター」ファンの方々は、それぞれのイメージや理想的なハリー・ポッター像がおありだと思うので、そこに新しい風が吹かせられればと思っているところです。
−そもそも稲垣さんと「ハリー・ポッター」シリーズの出合いはいつ頃なのですか。
映画シリーズが始まった当時、映画紹介コーナーを担当していたので、大きな話題になっていた「ハリー・ポッター」も紹介させていただいたのが最初だったと思います。それまで僕はあまりファンタジー作品になじみがなかったんですが、「ハリー・ポッター」以降はそうした作品も増えてきたような気がします。魔法界のワクワクドキドキを描きながらも、登場人物たちのリアルな姿を描写した作品で、ファンタジックで夢にあふれているけれども、人の心をしっかり描いていて、とても共感できる作品だと感じました。登場人物たちの成長物語でもあり、悪役にも心があることが分かり、すごく新鮮で面白い。きっとファンの方たちはそれぞれ、さまざまな登場人物に感情移入してご覧になっていると思うので、今回は、僕は父としての気持ちをしっかりと体現したいと思います。
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−舞台に出演するときには、心や体をキープするためにどんなことを心がけていますか。
さまざまなお仕事をさせていただいている中で、舞台というのは心も体も自分にすごくフィットしていると思います。ストレスを感じることがないんですよ。自分のリズムに合っている。もちろん、大変な面もありますが、僕は日々、同じことを繰り返し、その中で変化をつけていくという作業が好きなんです。毎回、違うことを経験する現場というのも、そこでしか得られない刺激がありますが、僕はルーティンとなる仕事を大切にしたい。なので、舞台が合っているのだと思います。元々、人前に立つことや大勢の方に向けてお話をするといったことが僕は得意ではないんですよ。それなのに、舞台に立つと「生きている」という実感があるのが不思議です。自分でも矛盾しているなと思うのですが、それは役を通してそこに立っているからなのだと思います。演じることで、よろいをつけているような、魔法のようなものが自分にかかっているので、立てているのだと思います。
−出演が発表された際のコメントで「この作品をライフワークにしたい」という言葉がありましたが、舞台では「No.9-不滅の旋律-」も長く演じている作品です。同じ役を長く演じる魅力を教えてください。
長く演じていても、まだ完成されていないんだなと毎回、思います。お客さまには失礼な話ですが、やればやるほど良くなっていって、理解も深まる。凝り固まったものを1度、リセットする作業も必要ですが、それによってさらに進化することができるのだと思います。「No.9」の演出の白井晃さんが「今が一番いいよね」とおっしゃっていたのですが、毎回、更新されていく感覚があります。もしかしたら自己満足かもしれませんが、そのくらいの気持ちを持っていないと続かない。そう感じられるから続いていくし、それが舞台なのだと思います。映像なんか後悔しっぱなしです。
−映像作品を見返すことはあまりないですか。
あまり見たくないですね。「ああすればよかった。こうすればよかった」と考えてしまうので。芝居だけでなく、例えばテレビ番組の生放送もそうです。「なんであの言葉が出てこなかったんだろう」と後悔だらけです。でも、だからといってやり直せば良いものができるというものでもないんですよね。ライブ感が良かったりするものですから。ただ、舞台は映像とは違うので、重ねれば重ねるほど良くなっていくものだと僕は信じています。鮮度の良さを超えるものが生まれる気がします。
−今作はロングラン公演なので、公演回数もこれまでと比べても多いのでは?
4カ月間の公演に出演するという経験はこれまでしたことがないです。ただ、これまでも公演期間が長くても「もういいよ」と思ったことはあまりないんです。4カ月というのは想像できない世界ではあるので、また見えてくるものがあると思います。しかも、今回はトリプルキャスト。それもすごく楽しみです。
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−稲垣さんがトリプルキャストで演じるというのも新鮮ですね。
舞台をやっていると普通にあることですが、僕は相手役が変わることはあっても、自分の役をほかの方も演じるという経験がないので不思議な感覚ですし、すごくありがたいことだと思います。舞台の現場では、例えば稽古に来ることができない俳優さんの代わりにスウィングの方が稽古をしてくれることがあるんですよ。その方が素晴らしい演技をされて、新しい発見ができるということもよくあります。トリプルキャストも同じで、「こうやって演じているんだな」と自分との違いを発見できたり、新しい視点を感じられて面白いだろうと思います。
−ところで、本作にちなんで、もし、稲垣さんが魔法を使えたら、どんなことをしたいですか。
猫と話したい(笑)。きっと猫たちもいろいろな感情を持っていると思います。猫同士で何か話をしたりしていますから。それぞれ性格もまるっきり違います。長女の女の子が一番優しくて、大人で母性がある。寝るときも、足元でお尻を向けながら守ってくれようとしている子もいれば、甘えん坊でくっついてくる子もいるし、全く近くに寄ってこない子もいる。それぞれ違っていて、僕にとって家族のような存在です。なので、彼らと話ができたらいいなと思います。
−では、ハリーにとってのダンブルドア先生のように、稲垣さんを導いてくれた人や大切な言葉をかけてくれた人はいますか。
たくさんいるのでひとりに断定することは難しいですね。家族も友達も、ずっと一緒にやってきたメンバーもそうですし、会社のスタッフも、今も一緒にやっている草なぎさんや香取さんもそうです。本当にたくさんいます。俳優業ということでいえば、舞台の世界を教えてくれたのは、つかこうへいさんの「広島に原爆を落とす日」という作品でした。舞台の道という意味では、その作品が印象に残っています。
−最後に、舞台を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
1つの体験として、赤坂駅を降りたときから楽しんでいただけたらと思います。舞台は、お客さまの時間を半日、場合によっては丸一日お借りするものです。大切な1日をこの作品に使ってくださるわけですから、思い出に残るような1日にしていただきたいですし、楽しんでいただきたいと思っています。劇場で、生の空間で応援してくださる方にお会いできることで、僕たちの生きるパワ―にもなります。劇場でお会いできることを楽しみにしています。
(取材・文:嶋田真己)
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舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、都内・TBS赤坂ACTシアターで上演中。
